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ゾウ10億頭に匹敵するプラスチック
リサイクル。今、いちばんホットでありながら途方もない課題を抱えている業界である。
なかでもプラスチックのリサイクル問題は待ったなしである。2017年、アメリカのジョージア大学が1950年以降の世界的なプラスチック生産総量は83億メトリックトン(日本では83億トン)に相当すると発表した。83億とはエッフェル塔が約82万台、エンパイヤステートビルディングが25,000棟、シロハガスクジラが8,000万頭、ゾウが10億頭に匹敵するという。
1950年には200万トンに過ぎなかったプラスチックが、たった67年後になんと4,150倍になり、このままのペースで生産し続けると今から約30年後の2050年には83億の4倍、340億に達すると予想している。
度肝をぬく数字である。さらに衝撃的なのがリサイクル率。9%。たった9%なのだ。
リサイクルは9%、焼却は12%、残り79%が埋め立て処理されている。Credit: Janet A Beckley
遅々としてリサイクル体制が進まないのはある意味、当然かもしれない。生産スピードが速すぎて対策が全く追いつかず、うずたかい山を前になかば茫然自失状態にあるといっても過言ではない。先進国の各自治体は分別ごみを強化したり、プラスチックを使う商品を減らしたりなど、小売業でも取り組みは進んでいるが、果てしなく追いついていない。
2017年、中国が廃プラ輸入を禁止、日本をはじめ欧米、欧州はプラスチックをはじめとした資源ごみの行き場を失なったというニュースが話題になったが、今や消費大国になった中国にとってはごく自然の自衛対策である。他国の経済状況に依存するスタイルは、問題を先送りにしていたにすぎなかったことに今更ながら気づく。
プラスチックを劇的に減産してゴミの量を減らすというのは、現段階では現実的ではないだろう。自分の周りを見渡しても、プラスチックがない世界というのはあり得ない。スーパーでもノン・プラスチックを探すのは、根気と忍耐と、少しばかりのお金がいる。そんな不都合を許容して生活していくことは、誰もが望むことではない。
分別のいらない画期的なリサイクル、IBMが開発
プラスチックリサイクルの課題は品質の劣化だ。混在した異物の除去がどうしても避けられず、洗浄などのプロセスで多大なコストがかかる。リサイクルされたマテリアルはそもそも低品質で、ヴァージン素材と混ぜ合わせる必要がある。つまるところ、リサイクルだけでは実のある素材を得ることができていないということなのだ。品質が向上しなければ需要も生まれにくく、従って産業も活性化しない。
その負のスパイラルを一変させるかもしれないテクノロジが最近、IBMから発表された。
VolCatというプロセスである。従来のリサイクルプロセスは、分別→洗浄→異物除去→破砕→融解だが、VolCat(volatile catalystの略)は触媒反応を利用する。分別されず洗浄もされないそのままのプラスチック製品を200度ほどに熱せされた圧力リアクターに入れ触媒を用いて分解、新しいプラ製品の材料としてそのまま製造工場に持ち込める物質を生成する。汚れだけではなく、例えばポリエステルと綿の混紡素材でも、ポリエステルと綿に分解することができる。
Plastics Recycling Breakthrough from IBM Research
Volcatが実用化すれば、大幅なコストカット、エネルギー節約になるだけではなく、分別の必要がなくなる。何でも一緒くたに捨てられる!と考えるのはよくないが、我々は元来面倒くさがりなのだということを、そろそろ認めなくてはならない。
プラスチック・エコノミー
2018年10月、インドネシアのバリ島で「New Plastics Economy Global Commitment」が開かれた。循環経済を推進する英エレン・マッカーサー財団がローンチした国際会議で、エヴィアン、ロレアル、コカ・コーラ、ユニリーバ、ウォルマートなどグローバル企業11社が「2025年までに自社商品に使用する全パッケージを再利用、リサイクル、堆肥化可能な素材に変えることを表明している」と発表し、話題を呼んだ。現在、「New Plastics Economy Global Commitment」の宣言に署名した企業・団体・組織は350以上にのぼる。
EU(欧州委員会)でも、2018年1月に「プラスチック戦略」を発表。2030年までにEU域内で使用される全プラスチック製の容器や包装材をリユースあるいはリサイクル可能素材に転換し、使い捨てプラスチックを削減することを盛り込んでいる。
リサイクル技術においては、IBMなどの大企業のみならず、スタートアップの参入も盛んだ。特徴的なのは新鋭のイノベーターとビッグブランドが提携していることである。小回りの利くスタートアップと組むことで開発スピードを加速させるのが狙いだろう。
消費財大手のP&Gとパートナーシップを組んでヴァージン素材を再生する技術ベンチャーのPureCycleTechnologies。ネスレ社とも提携。
ユニリーバ、コカ・コーラとタッグを組むオランダアイントフォーフェンのベンチャーIoniqa社。
地球を埋め尽くす勢いで増え続けるプラスチックを減らしていくには、3R(Reduce, Reuse, Recycle)や地球環境への配慮といった啓蒙や保護活動では限界がある。エレン・マッカーサー財団が名付けたように「エコノミー」にするしかない。
つまり、リサイクルを巡ってお金が動き、モノが動き、それによってその業界に携わる人々の生活が成り立つような仕組みを作ることだ。
英国の投資サービスのプラットフォーム「SyndicateRoom」に、急成長企業として取り上げられた英プラスチック再処理のリサイクリング・テクノロジ社CEOは『ブルームバーグ』で語る。「自分は環境保護論者ではない。実際に金を生み出さないことには環境が抱える課題を変えることはできないと思う」。市場経済においては、それは真理である。
グローバル市場調査会社の「Market Research Future」によると、プラスチック・リサイクル市場の規模は、2018年から2023年の間、年平均成長率は6.61%、53,958百万米ドル(約5.9兆円)に達すると予測している。
EUの戦略やグローバル企業が脱プラスチックをコア事業に据えているようにマーケット成長の舞台は整いつつある。プラスチックのリサイクルは、捨てられていた資源を富に変える経済の新しいスタイル「サーキュラー・エコノミー」の一大産業に成長する可能性を秘めている。今、我々はその夜明け前にいると信じたい。
文:水迫尚子
編集:岡徳之(Livit)