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ブロックチェーンは2020年代のビジネスに変革をもたらす。アイルランドのグローバル市場調査リサーチ・アンド・マーケッツは「2024年には、世界の電気通信業界におけるブロックチェーン市場が約1500億円に達する」と予測。ビットコインをはじめとした仮想通貨バブルを経て、不動産や流通など金融以外の業界でもブロックチェーンが導入され始めた。
圧倒的な需要の高まりを見せているブロックチェーンだが、精通するビジネスパーソンはごくわずかで、多くの企業が人材不足に悩んでいる。あらゆる業界に今後訪れるブロックチェーンインパクトを見据え、AMPは「キャリア×ブロックチェーン」イベントを開催し、自身のキャリアをアップデートするブロックチェーンとの関わり方や知識のインプット方法について討論した。
AMP編集長の木村和貴がファシリテーターを務め、ブロックチェーンメディア「AIre VOICE」編集長の大坂亮平氏と、ブロックチェーンソーシャルメディアを展開するALIS CEOの安昌浩氏が登壇。「ブロックチェーン業界でどんなキャリアアップができるか」「どんなビジネスパーソンになれるか」を解説する。
ブロックチェーン業界で働くメリットとは
写真左からAMP編集長木村、AIre VOICE編集長大阪氏、ALIS CEO安氏
木村:2020年以降はブロックチェーンが実用化するフェーズに入り、仮想通貨など金融以外の分野でも幅広く取り入れられそうですが、まだブロックチェーンを理解していない人が多いのが現状です。おふたりはどんな経緯でブロックチェーンに興味を持ちましたか?
大坂:音楽・広告業界を経験した後、2018年にコインチェック事件(大手仮想通貨取引所「コインチェック」から、580億円が不正に流出した事件)を目の当たりにして「上場企業の年間売上より大きな金額を動かす新技術があるとは」と興味を持ちました。
そこから仮想通貨の取引を始め、ブロックチェーン企業のIFAに自ら転職した、という流れです。現在はブロックチェーン専門のオウンドメディア「AIre VOICE」を立ち上げ、編集長を務めています。
安:僕は新卒でリクルートに入って人材領域のビッグデータなど旬なトピックに関わっていたのですが、ブロックチェーンを知って「一番おもしろい!」と感じ、2017年に起業しました。
ICOという仮想通貨を通じて世界中から4.3億円の資金調達を達成しまして、現在は企業向け勉強会やコミュニティマネージメントなどを行いつつ、ブロックチェーン技術を活用した分散型ソーシャルメディア「ALIS」を運用しています。
個人が投稿した記事を読者が評価でき、いいねを獲得した記事の投稿者と、いち早く記事にいいねした読者が「ALISトークン」を報酬としてもらえる仕組みが特徴です。
木村:ブロックチェーン業界でキャリアを積むメリットは何でしょうか?
安:どの業界でも活躍できる知識と能力が自然と身につくことです。ブロックチェーン業界は“知識とスキルの総合格闘技”と言えるくらい圧倒的な成長機会があり、優秀な若手がどんどん出てくる業界。金融だけでなく政治、国際、法律、言語などあらゆるスキルが必要で、これだけ多くの領域に触れる業界はそうそうありません。
大坂:何かを学ぼうとすると、ほかにも多くの学びが付随するんです。1つの技術を調べていくうちに言語、金融についても知り、大学教授や政府関係者とつながることもある。これだけ幅広い学びの機会を得られるのは大きな魅力です。
あと、まだ法案も整備されていない新しい業界で働くことで、不安感を楽しみながら乗り越える精神力が身につきます。私自身、困難にぶつかっても逃げなくなりましたね。
ブロックチェーンは各業界に革命をもたらす
安:ブロックチェーンは社会に与えるインパクトが大きいですよね。信用できる第三者を介さなくても、個人間で価値を交換できるビットコインの構造はとても美しいです。
日本円を流通させる場合は、特定の業者が貨幣を作って日本銀行が銀行券を発行し、偽造しないように厳重な刑罰を設けて規制するじゃないですか。ビットコインはこうした手間を技術力だけでカバーして、システム上で自動的に10年以上動き続けるように設計しています。
木村:ものすごい革命ですね。
安:立ち上げたばかりのALISが4.3億円もの資金調達ができたのも、株式ではなくイーサリアムのスマートコントラクトを活用したICO(プロダクトローンチ前に、そのプロダクト内で利用されるコインを販売すること)を通じて実施したからです。
プログラムに記載されている通りに契約実行されることが確約されていて、一定金額を集められなかったら全額返金するというルールも明記してあるため、投資する際にALISという会社を信用してもらう必要がありません。今まではいくつも仲介会社を挟んで信頼してもらわないとできなかった投資が、テクノロジーだけでできるようになったんです。
木村:他の業界でブロックチェーンを活用すると、どんなことができますか?
大坂:音楽などの芸術分野ではコンテンツの著作権を守れるようになります。例えば日本はまだ音楽の著作権・原盤権がグレーな状態です。
CMで楽曲を使う時はジャスラックが設定する使用料の定義が存在するものの実際には企業間で相談して金額を決めているケースもあります。問題なのは、アーティストに著作権使用料が入らないケースがあること。ブロックチェーンで著作権を管理すれば、作品の保護に加えてアーティストにもお金が入る仕組みが作れます。
安:特に金融と不動産と流通業界で、コストカットしながらインフラを実現できると言われますよね。あと、ブロックチェーンは資産運用全般に適用できるのではと考えています。
効率的なオークションの仕組みを物件売買に適用すると、契約金や違反時の裁判費用などが追加でかかりますが、スマートコントラクトを使えばこうした費用はかかりません。自動的に資産の所有権が移る仕組みを作れば、今より効率よく資源配分できるようになります。
木村:絶対にルール通りに動くようにプログラミングされているスマートコントラクトであれば人が介在する必要がなく、わざわざ契約の工数を踏んだり契約破棄されて対応したりといった負担がなくなりますね。
ブロックチェーン業界でも活躍する人材になるには
木村:ブロックチェーン業界で求められる人材像を教えてください。
大坂:ブロックチェーン技術を色々なプロダクトに適用して便利なサービスを作り、普及させる人材が必要です。そのためには機能の理解力、使い方の提案力、広める宣伝力の3つが求められます。
安:新しい業界なので、エンジニアサイドもビジネスサイドも即戦力になる人材はほとんどいません。だからこそチャンスがある。とあるブロックチェーンシステムのエンジニアの年収は1500万円で、かなりニーズが高いことがわかります。
僕らも優秀なエンジニアを採用して0から育成していますし、恐れず飛び込んでやりながら学んでいけばいいでしょう。
木村:ブロックチェーンは奥深く、どこまで勉強しても足りない部分があると思います。おすすめの学び方はありますか?
大坂:思考と実践の繰り返しです。私も入社してから試行錯誤の連続だったんですが、失敗を恐れて発言を控えるのはもったいないと思ってまして。発展途上のブロックチェーンにはまだ正解がわからない部分もあるので、どんどん調べて話を聞いて、随時吸収すればいいんです。
安:まったくわからない方は、ナサニエル・ポッパーの著書「デジタル・ゴールド」を読んでみてください。ビットコインの歴史が綴られていて、ブロックチェーン業界の人が何を夢見ているのか、ブロックチェーンの価値は何かがわかります。仕組みや構造などの知識から学ぼうとすると挫折してしまいますから。
あと、仮想通貨ビットコインの生みの親とされる“サトシ・ナカモト”の論文もおすすめです。たった12章7ページですし、解説記事もたくさんあります。最後にイーサリアムについて勉強すれば、ブロックチェーンのことが大体わかりますよ。
変化の激しい2020年代を生き抜くには、未知なる可能性を秘めたブロックチェーン業界に飛び込むのもひとつの方法だ。ルールがまだ出来上がっていないからこそ、若い世代が活躍できる環境がある。業界の枠を超えて多様な価値観に触れるブロックチェーン業界で経験を積めば、どの業界でも重宝されるビジネスパーソンに成長するだろう。
文:萩原かおり
写真:西村克也