【アキタフーズの採用制度】

〇AI面接

【制度内容】
AIとの音声会話による面接を行う制度。就活生は面接会場まで足を運ぶことなく、自宅で面接が受けられる。また企業側は、試験官が面接に割く時間を短縮できる。さらにAI面接で聞き取り・分析をした項目をもとに次の選考をすることで、より効率的な面接が可能となる。

録画に録音。AI面接は人が行うよりも詳細に記録ができる

AIが社会に浸透してきたなか、採用の分野でもAIが使われることが増えてきた。なかでも、アキタフーズは日本初のAI面接を導入したとして注目を集めた企業だ。

アキタフーズは、「きよら グルメ仕立て」の卵を作る卵専門の企業。CMでは人気ミュージシャンを起用するなど、一次産業の枠にとらわれずさまざまな取り組みをしている。

今回はそんな、アキタフーズで人事を担当する齊藤和毅 氏に、AI面接についてのお話しを伺った。

ーーAI面接ってどんな面接かイメージしにくいのですが…。

齊藤 氏(以下、敬称略):アプリをスマートフォンにダウンロードして、AIと対話をしながら進める面接です。AIが「学生時代に特に力を入れたことは?」「苦労したことは?」などの質問を投げかけて、志願者はそれに答えていきます。

わたしも受けましたが、結構難しいんですよ。答えても、「もう少し詳しく教えてください」っていわれる。はっきり問いに対する答えを言わないと、何回も繰り返されることもあって。説明が上手な人だと1時間くらいで終わるんですが、上手く説明ができないと2時間30分ぐらいかかる場合もあります。

ーー本当にAIと面接をするんですね。人が行う面接とはまた違った面で難しそうです。音声会話ということは、話したことが録音されるのでしょうか。

齊藤:全て録音されます。ビデオ録画もされています。

AI面接を行うと、AI面接評価レポートというものがシステム提供元の企業から送られてきます。そのレポートには、AIとの会話がすべて記録されています。話している内容や会話の途中に挟む「えー」とか、「どうしよう」といった独り言まで細かく。

さらに、「動画では、始めは緊張していたがすぐにリラックスした様子がみられた」とか、そういった細かい態度や状態までレポートに書かれていて。それらの結果をもとに、バイタリティ・柔軟性・計画力・ストレス耐性・理解力・表現力などが10段階でグラフ化されます。


AI面接評価レポートのサンプル画像

ーー詳細なES(エントリーシート)のようですね。

齊藤:まさに、その通りです。弊社の採用試験ではESは提出してもらっておらず、会社説明会に参加していただければすぐ、一次面接(AI面接)ができます。だからこのAI面接評価レポートは、一次面接の結果でもあり、ESの代わりでもあるんです。

ES書くのってすごい大変じゃないですか。志願者からは「ES書かなくて良かった」って言われたこともありますね。弊社は認知度もそこまで高いわけではないので、一部上場企業のような大手に比べたら、応募のハードルはできるだけ下げてあげたいと思っています。

ーーAI面接での評価は正しいと思いますか。

齊藤:概ね正しいと思います。ただ、AI面接だけで全てを判断しようとは思っていませんし、AIが100%志願者の資質を網羅できているとも思っていません。やっぱり、最後は会って雰囲気や物の捉え方や考え方などをみないとわからない。そこだけは思っています。面接を受けた方も、AIだけで判断されて落とされるのはいい気分ではないと思いますし。

だから、一次面接はAI面接ですが、次の最終面接は担当者が直接会って会話をします。そこでAI面接の内容をもとに、どんな人物なのかを深堀って質問していき、採用者を決定するというのが弊社の採用フローです。

AIはあくまで次の最終面接をより濃密に・効率的に行うためのツールであり、個人の能力を振るいにかける目的ではないんです。

ーーでは、AI面接で不採用にされることはあまりない?

齊藤:そうですね。さすがに面接中に不自然な動作や発言をするような不真面目な志願者がいれば不採用としていますが、私たちも直接会って話してみたい気持ちが強いので。

とはいえ、昨年は2人くらいお断りしました。これは例外といいますか……AIと会話をしているときに独り言が多かったり、面接中にイラだつ人がいて。

そういった面が見えてしまった場合はお断りしました。「もっと詳しく教えて」と何回も聞かれたり、2時間近く面接が伸びてしまうとそう思う気持ちもわからなくはないですが、それを表に出してしまうのはダメですね。

あとは志望動機や話の内容を見て、弊社と大きくかけ離れていた場合もお断りします。

お金を払ってでもAI面接を導入するべきか。そのメリットとは

ーーAI面接ってコストがかかりますよね。人的コストと比べて、どうですか?

齊藤:僕はAI面接の方が安いなと思います。

例えば、人が面接すると一日10人できたら良いほうですが、AIでは制限がありません。また、面接をする場合は県外から農場長(現場の責任者)を呼びます。そうすると、新幹線で一人往復何万円もかかるんです。さらに、責任者が現場を離れるリスクもあります。

でも、そんなリスクがあるなか現場の人に来てもらっても、ドタキャンで面接に来ない人もいる。そう考えると、一人あたり一万円程度でできるAI面接は、人件費や交通費、労働時間の効率化を考えると妥当な金額と感じています。

さらに、今言ったこと以外にもメリットがあります。例えば、人間が面接をしているときは「バイトリーダーを経験していて~」という経験を話してもらっても、メモ書きのように「バイトリーダー」くらいしか記録できません。そして、そのメモを書いた資料を次の面接官が引き継ぐから、次の面接官は「バイトリーダーをしていたの?」「楽しかった?」みたいに同じ質問をすることになる。これだと二度手間です。

その点、AI面接では、話した内容が全部詳細に文字起こしされます。最終面接では、面接官が事前にそのレポートを読めば無駄な質問を省けるし、AI面接の内容をもとにさらに深い質問ができるんです。

ーー確かに。リスクやメリットを考えると、高額とは思わないかもしれません。

齊藤:これが大企業で、面接人数が膨大になるなら話は変わるかもしれません。しかし、弊社の場合はメリットが大きいと感じています。

「AI面接だから志願した」そんな時代に

ーー2018年からAI面接を試験的に開始しており、効果を実感できたことから今回AI面接導入に踏み切ったとのことですが、導入されてみていかがですか?

齊藤:選考の過程がかなり効率化できたと実感しています。今までは一次面接・二次面接をして、場合により三次面接を行うという流れでしたが、AI面接をすることで大幅に時間の短縮ができました。

会社説明会でAI面接の説明を行い、面接希望者は会社説明会から帰るその日にはAI面接(一次面接)が受けられます。そのため、選考期間が一人1か月は短縮されましたし、面接官の負担軽減にもなりました。

志願者のなかには北海道から来た人もいて。その人は「AI面接だから受けた」と言っていました。AI面接は、遠方にいる人の新たな選択肢になっているんだと実感しましたね。

ーーAI面接は導入している企業がまだ少ないですよね。認知もあまりされていないと思うのですが、志願者に戸惑いはありませんでしたか?

齊藤:結構あったみたいです。「AIで面接します」って聞くとなにか胡散臭く感じる人もいると思うんです。「AIで判断できるのか」とか。だから不安が無くなるように、説明会でどういった面接なのかはしっかり伝えるようにしています。

昨年は録画されていることもわかっておらず、パジャマで面接を受けたり、タバコを吸いながら受けている人もいましたし、面接が長引いて戸惑う人もいたので。事前の説明会でしっかりと「スーツを着て受けてください」と録画されることを伝え、時間がかかるかもしれないということも伝えています。

ーー録画されてるって意識がないと、面接とはいえそんなことなるんですね…。

齊藤:意外とそうなんですよ……。もっとたくさんの企業がAI面接を取り入れて、AI面接についての認知が広がると良いなと思っています。

ーーありがとうございました。

【今回取材させて頂いた会社】
株式会社アキタフーズ。昭和2年から卵を作り続けている、卵専門の企業。養鶏から出荷まで、日本唯一の完全直営ー貫生産システムを導入しており、ブランド卵の「きよら グルメ仕立て」をはじめ、品質の良い卵を生産・販売している。近年では、自社の卵を使用した卵の加工食品の開発も取り組んでいる。

文:成田千草
写真:西村克也