人工知能・ロボットやVR・ARなどテクノロジーの進化と普及の速度が高まり経済社会が大きく変化しつつあるなか、働き方にも変化が求められるようになっている。
フリーランス人口の増加はその影響の現れといえるだろう。
ランサーズが2018年4月に発表した調査によると、日本のフリーランス人口は2015年の913万人から、2018年には1,119万人となり、4年間に22%以上増加したことが明らかになった。これによりフリーランスの経済規模は20兆円に達したと推計している。
もともとフリーランスで働く文化があった米国では、フリーランス経済の規模は一層大きなものになっている。フリーランス向けプラットフォームUpWorkによると、米国のフリーランス経済規模は2018年に前年比30%増加し、1兆4,000億ドル(約154兆円)に達したという。また同プラットフォームの最新調査は、米国のフリーランス人口は2014年の5,300万人から370万人増え、現在5,670万人に増加したと伝えている。
フリーランスシフトを主導するのはミレニアル世代。同世代で何らかの形でフリーランス業務に従事している割合は50%近くで、他のどの世代よりも高いことが明らかになっている。
フリーランスの増加は世界的なトレンドとなっており、今後も増加していく見込みだ。
フリーランスが増える背景には、制度や文化などさまざまな要因があると考えられるが、テクノロジーを活用したフリーランス業務支援ツールの影響も無視できないものとなっている。雑務を処理し、無駄な時間やコストを極限まで下げてくれるフリーランス向けツール。
今回は、米国などのフリーランス市場の現状を紹介しながら、そのトレンドを支えるフリーランスツールの最新動向をお伝えしたい。
フリーランス先進国・米国、フルタイム・フリーランスが増加
フリーランス先進国ともいえる米国。フリーランスを取り巻く環境はどのようになっているのか。
上記でもお伝えしたように、米国のフリーランス人口は5670万人だ。これにはフルタイムとパートタイムのフリーランスが含まれている。米国の労働人口は約1億6000万人。このうち約35%が何らか形でフリーランス業務に携わっていることになる。
UpWorkによると、フリーランス全体におけるフルタイムの割合は2018年に28%と、2014年の17%から11ポイント増加。およそ1,587万人がフルタイム・フリーランサーとして働いている計算になる。
一方、パートタイム・フリーランサーの割合は2014年の59%から2018には50%に低下しており、全体的にフルタイムにシフトしていることが示唆されている。
企業における雇用がなくなり仕方なくフリーランサーになっているのかといえばそうでもない。「仕方なく」ではなく、「自らの意思」でフリーランスに転向したという割合は2014年の53%から2018年には61%に増えているのだ。企業における雇用はあるものの、働く場所・時間の柔軟性を優先し、フリーランスを選ぶ人が増えているのだという。
このペースでフリーランス人口が増加していくと、2027年には米国労働人口の半分以上がフリーランス業務に携わるという試算もある。
時間・場所において高い自由度を手に入れるフリーランスだが、先端テクノロジーに関する知識・スキルの習得には継続的な努力が求められる。
UpWorkが四半期毎に発表している「Skills Index」では、どのようなスキルがフリーランスに求められているのか、リアルタイムのスキル需要を知ることができる。
2019年5月に発表された最新版では、Hadoop、ロボティック・プロセス・オートメーション、Vue.jsなどがランクイン。2018年には、TensorFlowやOculusなど人工知能やVRに関するスキルがランクインしていた。
それぞれの領域における技術進歩は速く、新しい知識・スキルのキャッチアップは必須となる。UpWorkの調査では、過去6カ月以内にスキルのアップデートを行ったと回答したフルタイム・フリーランサーの割合は70%に上った。一方、企業に勤める人々の間では、この割合は49%にとどまっている。
米国では、こうした高度スキルを持つフリーランサーを「クリエイティブ・クラス」と呼び、脱工業化都市におけるクリエイティブ産業を支え、経済発展の原動力になっていると考える専門家もいる。
一方、英国ではフリーランサーによる経済を「flat-white economy」と呼び、同国経済の行き詰まりを打開するカギになる可能性があると指摘する声もある。flat-whiteとは、エスプレッソベースのコーヒーのことで、フリーランサーがカフェでよくオーダーすることから、この名前が付けられた。
フリーランス環境の整備とフリーランス増加の関係
このように世界的に増加傾向にあるフリーランス人口。テクノロジーを活用した業務支援ツールの発展・普及によって、今後さらにフリーランスにシフトする人々が増えることが見込まれる。
フリーランサーにとって、本業以外の税務や法務に関する作業時間は極力小さくしたいところだろう。
クライアント数が多くなると、その分契約書も増えることになる。通常であれば双方の署名が必要になるため、契約書の受け取り・再送付という作業が発生する。郵便局に足を運ぶだけでなく、列に並ぶなど、ロスする時間は無視できないものだ。
モバイルアプリ「Shake」は、モバイル上で署名を済ませられる時間節約ツールとして注目を集めている。アプリ上には、販売・購入、賃貸、金融などに関する契約書のテンプレートが用意してあり、そのテンプレートの内容を調整して、電子上で双方が署名。これにより法的拘束力を持つ書類が出来上がる。
フリーランスは営業の役割を担うことも多い。しかし営業のプレゼンテーション作成に時間をかけすぎることはできないはずだ。
Proposifyは営業プレゼンテーション作成を自動化するサービス。フリーランスだけでなく、大手企業などでも導入されており、生産性を高めるツールとして人気を集めている。
同社ウェブサイトによると、過去30日間で大小含め世界8,000社が利用し、700万ドル(約770億円)以上の契約を受注したという。自動化できる部分は自動化し、生産性を最大限に高めようという近年のビジネストレンドを色濃く反映するサービスといえるだろう。今後もフリーランスやスタートアップによるこのような自動化ツールの導入が増えるのは想像に難くない。
Eメール、クラウドストレージ、メッセージアプリなど日々の仕事では複数のアプリを使う。フリーランス業務では、利用するアプリの数が多くなる場合もあるかもしれない。たとえば、メールを受け取ったら、その送信者の名前や電話番号をスプレッドシートに記載するなど。しかし、こうした定型業務はそれ自体が価値を生むものではなく、時間は極力短縮したいところだ。
Zapierは、アプリ間のワークフローを自動化する革新的なツールとして注目を集めている。Gメール、Google Sheets、Slackなど1,500以上のアプリの作業を自動化できるという。マーケティングであれば、ブログコンテンツのRSSをソーシャルメディアにアップロードするなど。また名刺の仕分け・登録なども自動化できる。
こうした自動化ツールは今後音声認識技術との融合で、声だけでコントロールすることも可能となるかもしれない。そうなれば、さまざまな事務作業が声だけで自動化できるようになり、本業に専念できる環境の整備が一層進むことになるのではないだろうか。フリーランスの環境が整えば、労働人口の半分以上がフリーランスになるというのもそう遠くない日に実現するのかもしれない。
[文] 細谷元(Livit)