2019年のスマホ夏モデルでは、携帯キャリア各社のラインアップに変化が起きている。それは中価格帯(ミッドレンジ)モデルの充実だ。
日本のスマホ市場では、シェアの半分近くをiPhoneが占めてきた。だが、それを支えてきた手厚い購入補助は、この秋からの法改正によって大きく制限されることになる。
世界でも類を見ないハイエンド市場として知られてきた日本において、ミッドレンジが主役になる日は来るのだろうか。
スマホ「0円」は不可能に、背景に分離プラン
2019年の国内スマホ市場を動かす原動力となっているのが、「分離プラン」の導入だ。電気通信事業法の改正により、通信料金と端末代金の分離が求められ、ドコモの「月々サポート」のように回線契約に紐付いた端末割引は禁止される見通しだ。
これに応じてドコモは新料金プランを4月に発表し、6月に提供開始する。先行して分離プランを導入していたKDDIは8月末に従来プランを廃止。ソフトバンクもすでに分離プランに移行しており、別ブランドであるワイモバイルも分離プランを導入する予定だ。
ドコモの新料金プランは6月に始まる
分離プランで先行するKDDIも値下げを仕掛けてきた
この各携帯会社のプラン変更に伴いスマホの買い方も大きく変わりそうだ。これまで機種によっては毎月2,000〜3,000円の割引が設定され、10万円のハイエンド機種でも2年使用後の実質価格は3〜4万円で買うことができた、型落ちの機種が「実質0円」で売られることも珍しくなかった。
こうした購入補助は今秋から禁止され、スマホは定価で買うことが基本になる。そのショックを和らげるべく、分割払いの途中でスマホを返却すれば残債が免除される、自動車の残価設定ローンのようなプログラムを各キャリアは導入している。
これに対して、必ずしもハイエンド機種は必要ないとの声も出始めている。3〜4万円のミッドレンジモデルなら一括で買いやすく、スマホの性能向上により、不満を感じる場面もほとんどない。これを見越した各キャリアは、2019年夏モデルでミッドレンジモデルを充実させてきた。
ドコモはソニーモバイルなどスタンダードモデル4機種を投入
大手キャリアの施策もあって、日本は世界的にも珍しいハイエンド市場になっていた。こうした状況を見て日本への参入に尻込みする海外メーカーもあったほどだが、状況は変わりつつある。その影響が直撃するとみられているのが、iPhoneだ。
日本のiPhone一強は終わるのか
iPhoneは国内キャリアによる端末購入補助を背景に、日本のスマホ市場を支配してきた。2018年のスマホ出荷台数は半数近くをアップルが占めた(MM総研調べ)。アクセサリーの豊富さなどから若年層にも高い支持を得ており、彼らが歳を重ねてもiPhoneを使い続ける可能性は高い。
だが、iPhoneについても定価販売が基本になれば、話は変わってくる。各キャリアは48回払いや36回払いなど売り方の工夫は図っているものの、割賦を組む上での審査や、途中で端末を返却する仕組みなど難しい点も多い。
それでは、ミッドレンジのiPhoneはどうだろうか。サブブランドやMVNO各社は、iPhone 7など旧型のiPhoneを安価に取り揃えており、売れ筋になっている。今後もこうした旧型iPhoneが売れ続けることは間違いないだろう。
だが、アップルはiPhoneの出荷台数が世界的に落ち込んでいることもあり、1台あたりの価格が高いハイエンド機種に注力せざるを得ない状況だ。日本では「iPhone SE」の後継機に期待する声も高まっているが、アップルにとって利幅の薄い機種を出す動機付けは低いとみられている。
アップルが陥るであろうこのジレンマを狙って、ハイエンドに特化してきたXperiaやGalaxyといったブランドが、続々とミッドレンジを投入している。FeliCaを搭載し、おサイフケータイに対応するなど、基本機能を充実させつつ価格を抑えているのが特徴だ。
ソニーモバイルの「Xperia Ace」(ドコモの本体価格は税込4万8,600円)
まだまだiPhoneが強い日本市場においてシェアを伸ばすことは容易ではないものの、市場のルール変更に伴うまたとないチャンスであることは間違いない。この秋以降、ミッドレンジスマホがどこまでシェアを拡大するか注目だ。
文:山口健太