実世界は誰が創ったかはわからないが、もし創造主がいたならば何を思っていただろう。そんなことは想像できないが、小さな世界の創造主が何を思っているかは聞くことができる。その小さな世界とはジオラマのことだ。

スターバックスのチルドカップ「スターバックス コールドブリュー コーヒー」の発売に合わせ、製品にまつわるストーリーを表現したミニチュアアートが体験型アートイベントに登場した。この今にも動き出しそうなミニチュアアートを制作したのが、ジオラマクリエイターのMozu氏だ。

高校時代に作品がTwitterで拡散され一躍話題となったMozu氏に、ジオラマという小さな世界に、どのように命を吹き込み、ストーリーを生み出しているのか話を伺った。

Mozu
『楽しんで、人を楽しませる』がモットー。細かい作業と人を楽しませるのが好き。 「ミニチュア/ジオラマ/トリックアート/コマ撮りアニメ/細密画」の 5つを主に制作。 高校 1 年の時につくった「自分の部屋」の 1/6 ジオラマの画像を、友人がTwitter で紹介してくれたことがきっかけで 1 日 4 万リツイートと拡散。ネットやテレビで取り上げられる。 2015 年 10 月、すべてを 1 人で作り上げたコマ撮りアニメーション「故障中」が TBS 主 催のアジア最大級の短編映画祭「Digicon6」で、JAPAN Youth 部門の最優秀賞ゴールドを受賞。 「さぬき映画祭」「なら国際映画祭」などに招待されトークショーなどを行う。

“三次元”という表現の自由に魅了された小学生時代

ジオラマとはパノラマに代わる新たな投影装置として開発され、箱の中に風景画と展示物を置き、中を視認できる面から覗くことで、実際の風景がそこに広がるように世界観を体感できるものだ。そもそもMozu氏がジオラマの世界に飛び込んだきっかけはなんだったのだろうか。

Mozu:「“きっかけ”って聞かれると難しいのですが、モノを作ること自体は物心ついたころからありました。そもそも、父親が昔マンガ家を目指していたり、母親が裁縫好きだったりと家系的にモノづくりが好きだったんでしょうね。

また、一人っ子だったからこそ、両親は僕が一人でも遊べるようにゲームやテレビに頼らない、お絵描きや工作などの遊びを教えてくれていました。なので、物心つく頃から“モノづくりって楽しいな”って感じていたんだと思います。

そういった背景もあり、小学生の頃にはすでにマンガ家になるという夢を持っていたんですよね。 なので入学してからずっとマンガを描きまくっていました。でも、小学校5年生の時に友達に『プラモデルを一緒に作ろうよ!』と勧められて作ったことがあったんです。 今振り返ると、それが二次元から三次元へ興味を持ったきっかけだったかもしれません。

プラモデルって立体で3次元の存在なので、今まで描いてきた“絵”以上に表現の自由度が高く楽しめて、それからしばらくは友達とプラモデル作りにハマってました(笑)

ただ、作ることに関して友達と違っていたことは、友達は作って終わりという楽しみ方に対して、僕は色を塗ったり、背景を足してみたり、ジオラマで地面を作ってみたりと色々試行錯誤をして楽しんでいました。それが小学校6年生〜中学校1年生くらいの時でした」

Twitter から広がり続ける自身の夢

幼少期からすでにモノづくりの楽しさを覚えていた、Mozu氏。では、実際にジオラマクリエイターとして活動する道に進んだ経緯はどのようなものだろうか。

Mozu:「中学校を卒業して美術系の高校に入学したんですよね。その学校がすごくレベル高くて…油絵で学生日本一を獲得してしまうほどすごかったんです。

僕はそれまでプラモデルの背景に使う程度の簡単なジオラマを作ってましたが、そんな環境で学んでいたものですから、やはり周囲に感化されてしまったんです。僕ももう少し頑張ってみようって。それでオリジナルで作ってみたのがTwitterでバズった自分の部屋のジオラマだったんです」


MOZU さんが高校1年生の時に制作した作品

絵からプラモデル、そしてジオラマという流れで二次元から三次元、そしてある種の四次元へと対象が変化していったというMozu氏。高校1年生の時に制作した『自分の部屋』がTwitterで拡散されたわけだが、実はタイムラグがあったという。

Mozu:「作った時は全然バズってないです。高校1年生の時に作った作品なんですけど、実はそこから1年間全然、見られていません。ちょっと高校の展示で披露したくらいで自己満足で終わっていましたね。その1年後くらいにジオラマが必要なくなったから壊そうかな?って思っていた時に友達が『その作品とても素敵だから、私のTwitterで宣伝していい?」って言ってくれたんです。

それでつぶやいてみてもらうと予想以上の反響を得ましたね。友達のアカウントだったこともあり反響があったことを全然知らずに、次の日学校に行ったら皆が大騒ぎしていました。しかも、その翌日にはテレビ局から2件取材の依頼が来て、改めてコトの大きさを認識しました(笑)」

実際、当時の取材では、「羊のショーン」に影響を受けその会社で働くことが夢と語っていたMozu氏。しかし、縁あって実際にその制作会社を訪問したことで新たな気づきを得ることとなる。

Mozu:「今はその会社で働きたいと思うことは全然考えていないです。ちょうど2年前に、実際に現地を訪問する機会があって、気づいたことがあったんです。

好きなアニメーション会社ではあるのですが、もし自分がここで働くとなった時に誰かの指示に従うことだけになっちゃうかもしれないって。

だからその時、『僕は誰かの世界を作りたいのではなく、自分の世界を作りたいんだ』って改めて実感したんです。きっと足を運んでいなかったらずっと憧れていたままだったかもしれません。でも、足を運んだことによって自分が作りたいモノが鮮明になりました」

Twitterから自身の道が広がったMozu氏。これから“個”の発信力が問われる世の中で、彼自身はクリエイターとしてのSNS活用についてどのように考えているのだろうか。

Mozu:「最初の一歩には、僕がそうだったように何かしらのきっかけは必要だと思います。でも、そこからどう伸ばしていくか? という部分に関しては、クリエイター自身の信念にのっとって使えば、自然とユーザーはついて来ると思っています。

僕自身、計算高くはないのですが運がいいんです。偶然僕がやっていたことが、たまたま世間ではあまりやられていないジャンルで、同じ年代の人も少なくて、さらにTwitterとジオラマが相性よかったこともあり。それで皆がRTしてくれた。

僕の制作のモチベーションは“皆を驚かせたいだけ”。だから計算なんかしていなくて、僕が一番面白いだろ!楽しいだろ!って思うものだけを作っています」

ジオラマという小さな世界に大きな物語を描く


展示されたミニチュアアート

ジオラマはTwitterと相性が良かったと語るMozu氏。ジオラマの興味深い点は、世界観の作り方である。その空間には静止したモノしかなく“点”であるはずの作品には、そこでの会話が聞こえて来たり、今にも動き出したりと感じさせる“線”の印象を受ける。ジオラマに対するストーリーテリングはどのように行っているのだろうか。

Mozu:「ジオラマは空間なので情報が重要です。そこに誰がいて、何をしていて、どんな風に存在しているのか、空間の中で展開されるストーリーを作り上げることが大事なんです。

僕は自分の部屋とか、友達の部屋など“部屋の作品”をよく作るのですが、住んでいる人の性格をすごく考えます。例えば、この人ならどこに物を置くのか? どんな場所に物を隠すのか? という妄想をすごくします」

ジオラマに設置されたキャラクターの人生、人格をとらえることで周囲にどんなモノがどのように置かれるかを考えるという。たしかに必要最低限のものは設置することはできるが、不必要なものだがその性格の人なら置いてありそうなものなど、無駄なものを配置することは非常に難しいと感じる。

Mozu:「すべてのものに意味があるんです。こいつならココに漫画雑誌を積み上げるだろうとか。ただ作り込みすぎるとあざとさも出てきてしまうので、そのバランス調整が結構難しくて、不規則性とかノイズ的な表現は繊細ですね」


煙突に立てかけられたスコップなど細部に物語が流れる

このように空間にストーリーテリングを行う秘訣は、その裏側にある仮想世界に入り込み、それらを細部に表現することにあると語るMozu氏だが、クライアントから制作の依頼を受ける場合、クライアントが伝えたいメッセージを空間に表現することはどのように行っているのだろうか。

Mozu:「要望を頂く中で、自分が最大限できることをします。あわよくば相手の想像を超えることを考えますね。クライアントがオーダーしていないことをいい意味で作り上げるとか。やっぱりクライアントにも驚きを与えていきたいですね」

依頼主の期待も超えていくことを意識しているMozu氏。では、今回展示されたスターバックスのアートはどのようにストーリーを表現したのだろうか。こだわったポイントを伺った。

Mozu:「特にこだわったのは、クライアントさんの一番の要望だった“コールドブリュー コーヒーを作る大変さやその過程をわかりやすく伝える”ということ。カップの断面図を使って作業工程を上から順番に演出しました。

特に僕が気に入っているのは、3階奥にあるゴチャゴチャした機械の部分や、屋上の煙突に建てかけられたシャベルや、その場で話している作業員などコーヒー作りの過程に関わる色々なシーンにリアリティも持たせているところです」

オーダーに対して、創造を膨らませ世界観を作り出していく。あらゆるキャラクターの人格をたどることで、それらが集まった一つの作品には大きなストーリーが創られている。これらを創造できる源泉は、やはりジオラマの世界を作ることが好きということだ。クリエイターを目指す人へのメッセージとして最後にこのように語った。

Mozu:「とにかく好きなことを見つけて、好きなだけやってみるべきですね。言い尽くされたことかもしれないですが、“好きなことに対する力”は本当になんでもできてしまうんです。睡眠や食事、何もかも差し置いてでも熱中できてしまう、そんな力が湧いてくるはずです。まだ見つけれていない人はとにかく色んなことをやってみる、人にはそこまで夢中になれるのもが絶対にあるので、ぜひ見つけ出してほしいですね。とにかく熱中することで無限の力が湧いてくるはずですよ」

モノ(模型)に命を吹き込むことで生まれる、ストーリーテリング。小さな世界の創造主は、大きな物語を作ることに目を輝かせていた。

取材・文・写真/木村和貴