人口12億人、市場規模4兆ドル以上。アフリカ全54カ国を合計した経済規模だ(IMF)。
もしアフリカ全土がEUのような単一市場となった場合、世界最大級の経済圏が誕生することになる。
2019年5月30日、この可能性を一歩現実に近づける協定が正式に成立するとして、世界中から強い関心が寄せられている。
2018年3月にルワンダで調印された「アフリカ大陸自由貿易協定(AfCFTA)」だ。域内の関税を下げるなどし、ヒト・モノ・カネの移動を促進し、アフリカ全土の経済を活性化しようという試み。
当初の調印国44カ国の半分、22カ国の批准によって正式発効することが決められていた。2019年4月にガンビアが22カ国目の批准国となったことで、AfCFTAが正式に成立する運びとなった。
関税、投資、知的財産権などに関する細かいルールの交渉・調整は今度行われる予定だが、AfCFTAがアフリカにもたらすインパクトに関する議論は活発化している。
AfCFTAの登場でアフリカはどのように変わるのか。その可能性と課題に関する議論の最新動向をお伝えしたい。
アフリカ経済発展のカギとなるか、AfCFTAが促進する移動の自由
現在アフリカには大小含め54カ国の国が存在するが、貿易に関してそれぞれに関税や法規制があり、国境を超えてビジネスを行うには複雑な手続きが必要となる。さまざまな法規制があり複雑化する状態を「パッチワーク」と呼び、アフリカ全体の成長を妨げている要因になっていると指摘する専門家も多い。
米ブルックリン研究所のアフリカ経済専門家ベラ・ソンウェ氏によると、アフリカ諸国の全輸出に占める域内輸出の割合は1995〜2017年の間に10%から17%に増加。しかし他の経済圏と比較すると、この割合は依然低い状態だ。北米では31%、アジアでは59%、欧州に至っては69%に上る。
AfCFTAでモノへの関税が撤廃されただけでも、2040年までに域内貿易の規模は15〜25%増加する見込みという。これは米ドル換算で、500億(約5兆5000億円)〜700億ドル(約7兆7000億円)に相当する規模だ。また、全輸出に占める域内貿易の割合も40〜50%以上になるという試算もある。
輸出量と同時に輸出先や輸出品が増えることが予想されるが、ソンウェ氏はこの「輸出の多様化」こそがアフリカ諸国の発展に必要であると説明している。
アフリカ諸国の多くは加工食品や農産物の生産に従事しており、輸出もこれらのコモディティがほとんどだ。種類も限定的で、特定商品の需要や価格に変化が起こると、大きな影響を受けてしまう。このため、産業・輸出品の多様化が求められるのだ。実際、アジア地域では輸出品の多様化と経済成長の間には強い相関が見られるという。アジアでは輸出品の多様化にともない、洗練化・高付加価値化も起こっており、アフリカ経済にとって重要な示唆になると指摘している。
またAfCFTAはモノの貿易にとどまらず、サービス、投資、知的財産権、さらにはEコマースなど、既存の自由貿易協定を超える範囲をカバーする可能性もあり、その点についても認知と議論が必要だと述べている。
デジタル領域で期待されるAfCFTAの役割
このことは、アフリカでインターネットやモバイルデバイスが急速に普及し、高度なデジタルスキルを持った若い起業家が増加している背景を考えると、より一層重要な意味を持つ変化として捉えることができる。
なぜなら資源を持たない小国であっても、デジタルサービスなどの輸出によって、経済を発展させ国際的にプレゼンスを高めることが可能だからだ。
その先例を示すのがバルト三国の1つエストニアだ。現在でこそ「世界最先端の電子国家」と称されるエストニアだが、1991年にソ連から独立した直後の経済状況は非常に不安定なものだった。当時1人あたりのGDPは1000ドルほどで、ハイパーインフレも発生。人口は150万人ほど (現在は約130万人)。しかし、強いリーダーシップによって、デジタル人材育成に向けた教育変革や社会経済インフラのデジタル化を進め、さらにはEU加盟などによってデジタルサービスを通じた経済発展を実現。IMFによると、エストニアの1人あたりGDP(名目)は2018年に2万3000ドル近くに達している。
エストニア発の世界的企業スカイプは、EU市場を足がかりとしてグローバル展開を果たしている。地域別単一市場の重要性を示す好例といえるだろう。
以前お伝えしたように、アフリカのスタートアップシーンは活況の様相を呈している。Disrupt Africaによると、2017年のアフリカ・スタートアップの資金調達額は1億9500万ドルと前年比で51%も増加している。アフリカ発のデジタルサービスがアフリカ単一市場で規模を広げ、世界展開を果たすというシナリオも実現するのかもしれない。
実際、すでにアフリカを広域でカバーするデジタルサービスが登場しており、AfCFTAによって自由化が実現すれば、これらのデジタルサービスがさらに普及することも考えられるだろう。
たとえば、ナイジェリア発のEコマースサービス「Jumia」は、現在アフリカ14カ国でサービスを展開。ケニア発のモバイル電子決済サービス「M−Pesa」は、ケニア、タンザニア、南アフリカなど10カ国に3000万人ほどのユーザーを抱えている。インドや東欧でもサービスを展開している。
アフリカ最大の人口を抱えるナイジェリアや他の数カ国がAfCFTA参加に難色を示しており、全アフリカ諸国が参加する単一市場が近いうちに創出されることは考えにくいが、5月30日の発効をきっかけに関連する取り組みや動きが活発化するのは間違いないだろう。AfCFTAがアフリカ大陸にどのようなインパクトをもたらすのか、今後の展開に注目していきたい。
文:細谷元(Livit)