AI時代の必須スキルは「マインクラフト」で学ぶ。世界の教育シーンで起こる変革

人工知能・ロボットの普及、第四次産業革命、技術的失業など、現代の社会経済が大きくシフトすることを示唆する言葉がよく聞かれるようになった。

これにともない労働市場も大きく変わることが予想されており、現在存在しない職業がこの先多数誕生することもささやかれ始めている。

こうした中、教育の役割を見直す動きが世界中で活発化している。人工知能・ロボットの普及によって単純労働・作業がほとんど自動化される未来、求められるスキルも大きく変わることが予想されているためだ。

どのようなスキルが求められるのか。プログラミングなどのテクノロジー分野のハードスキルも重要となるが、それ以上に重要視されるのが社会性や感情コントロールなどのソフトスキルだ。このソフトスキルを醸成する学習は「ソーシャル&エモーショナル・ラーニング(SEL)」と呼ばれ、先駆的な教育関係者らの間で話題となっている。

さまざまなものがデジタルになる中、周囲の人間とポジティブな人間関係を構築するスキルや自分の感情をコントロールするスキル、またクリエイティビティなど、人間的なスキルの重要性が高まっているのだ。実際、マイクロソフトなどデジタルテクノロジーの先端を行く企業では、このような「ソフトスキル」を持つ人材を雇用する傾向が強まっているといわれている。

こうした「ソフトスキル」をどのように醸成するのか。世界各国の教育者の間で重要課題として認知され、取り組みが始まっている。ただし、読み書き・計算能力の習得を目的とした既存の教育方法ではこれらのソフトスキルを醸成することは難しく、新しいやり方が求められている。

新しい手法の中でも効果が高いとして注目を集めているのが「マインクラフト」を使った学習方法だ。世界中で計1億4,000万本以上を売り上げ、日本でも「マイクラ」と呼ばれ親しまれているビデオゲーム。なぜ教育の現場で注目を集めているのか。その理由を探ってみたい。

レゴのように自由に創造できる楽しさが魅力の「マインクラフト」

現在世界中の人々がプレイするマインクラフト。登場したのは2009年と10年前にさかのぼる。

スウェーデン人ゲームクリエイターのマルクス・ペルソス氏が制作。後にペルソス氏らが設立したゲーム開発会社Mojangをマイクロソフトが買収したことで、マインクラフトはマイクロソフト傘下のゲームとなった。

マインクラフトはそのゲーム名が示す通り、立方体のブロックで構成される仮想世界の中で、石炭・ダイヤモンド・金などの鉱石(mine)を採掘し、それらを活用することで、建造物を立てたり(craft)、サバイバルしたりするゲーム。


「マインクラフト」ウェブサイトより

いくつかのモードがあり、クリエイティブモードでは制作・建築・実験などに集中できる。一方、サバイバルモードでは体力と空腹ゲージがあり、狩猟や栽培などをしてサバイバルしなくてはならない。

爆発的な人気を誇る理由の1つは、創造性を発揮できるその自由度にあると考えられる。人気のブロックトイ「レゴ」と同じような要素だ。創造性とスキル次第でさまざまな物や建物をつくることが可能になるのだ。何年もかけて大都市やジブリ映画の世界を詳細に再現したり、仮想世界にコンピューターを作り出したりするハードコア・プレイヤーも少なくない。

教育シーンにおけるマインクラフト活用とその効果

教育シーンでは、このマインクラフトがどのように活用され、効果を生み出しているのか。

マイクロソフトが世界中で実施している教育革新イニシアチブ「マイクロソフト・ショーケース・スクール」に参加しているレントン・プレップ・クリスチャン・スクール(ワシントン)では、小学校から高校レベルの教育でマインクラフトを導入。たとえば、算数の面積と体積の授業では、グループをつくりマインクラフトの仮想世界でミュージアムをつくるプロジェクトの課題が与えられる。ミュージアムを建設をしながら、面積と体積の理解を深めることができる。


「レントン・プレップ・クリスチャン・スクール」ウェブサイトより

マインクラフトの効果はこれにとどまらない。生徒どうしでグループを組みをプロジェクトに取り組むため、グループ内では役割のアサインメント、役割ごとのタスク管理、プロジェクト進行におけるコミュニケーションなどが実施されることになる。企業におけるプロジェクトと同様の環境のなかで学習を進めることが可能となるのだ。この結果、マインクラフトで学習した生徒たちのコミュニケーション能力や問題解決能力は大きく伸びることが確認されている。学校では「マインクラフト・エデュケーション版」が活用されている。

また、マインクラフトで遊んだことのある生徒がほとんどで、ゲームをする感覚でプロジェクトを進めるため、集中力を切らす問題もそれほど起こらないという利点もあるようだ。

教育イノベーションを目指す組織Getting Smartは、レントン・プレップ・クリスチャン・スクールなどマインクラフトを授業に活用している各国の学校を対象にその効果に関する調査を実施。それによると、生徒の意思決定能力とコミュニケーション能力の発達においてマインクラフトでの経験がポジティブに作用したことが示唆されたという。

マイクロソフト・ショーケース・スクールに日本で唯一参加している立命館小学校でも、マインクラフトを活用した授業が行われている。この授業を率先しているのは、同校の英語教師である正頭英和氏。英語の授業でマインクラフトを使った「PBL(Problem Based Learning)」を実施している。

正頭氏のこの取り組みは教育界のノーベル賞と呼ばれる「グローバル・ティーチャー・プライズ」の2019年版でトップ10に選出されたことからも、教育におけるマインクラフト活用への関心の高さをうかがうことができるだろう。


「グローバル・ティーチャー・プライズ(2019)」のファイナリスト(正頭氏は上段、右から2番目)(グローバル・ティーチャー・プライズウェブサイトより)

教育におけるマインクラフト活用はまだ始まったばかり。今後は教育者だけでなく、子供たちや親などから新しい活用法が編み出されることも十分に考えられる。この10年間進化を続けたマインクラフトが今後教育分野でどのように変わっていくのか、その可能性に期待が寄せられる。

文:細谷元(Livit

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