昨今、キャリア教育の一環として”プログラミング”を導入する企業が増えている。こうした時代の波を受け、プログラミング学習支援サービスも登場してきた。
その中のひとつに、”AIプログラミング”を学べるAidemy(アイデミー)というサービスがある。誰でも機械学習にチャレンジできることから、AIや人工知能に関心のあるビジネスパーソンやエンジニアを中心に注目を集めているのだ。
今回は同社CEO石川 聡彦(いしかわ あきひこ)氏にプログラミングやAI学習がビジネスパーソンの業務やキャリアに与える影響などを詳しく伺った。
- 石川 聡彦(いしかわ あきひこ)
- 株式会社アイデミー代表取締役CEO。2017年東京大学工学部卒。同大学院中退。研究・実務でデータ解析に従事した経験を活かし、Aidemyの企画・開発を主導。早稲田大学リーディング理工学博士プログラムでは、AIプログラミング実践授業の講師も担当。著書に『人工知能プログラミングのための数学がわかる本』(2018年/KADOKAWA)。
「人間の繊細な感覚を再現する」AIの魅力と課題
今まさにAIテクノロジーが進歩している世の中で、この業界はどのように成長していくのだろうか? ビジネスにおけるAIの立ち位置を踏まえ、石川氏に伺ってみた。
石川:「AIは先達が少ない市場です。2012年にブームが来てから、時間がそこまで経過していないため、これから学ぶにしてもチャンスが大きい業界と言えます。
孫正義氏が『AIが全ての産業を再定義する』と発言されたように、世界的にAIは注目を集めています。今以上に広がる可能性があることも学習を後押ししたい理由です」
産業が再定義されるというのはどういうことなのか。具体例として、工場における単純労働をあげてくれた。
石川:「“人間の手”が自動化すると考えてください。例えば、お弁当工場の鮭の盛り付け、家具や機械のネジ回しなど。これらは自動化されておらず、いまだに人が行なっています。
簡単な作業のため自動化は容易いと思うかもしれませんが、繊細な力加減や微妙なバランスが要求されるため、今の機械では代替できないのです。
それ以外に、大型の工場や施設の“コストを下げる手段”や小売における“売上の最大化”などもAIに期待されています。
他にも、値上げや値下げのタイミングといった、“人が感覚で決めてきた曖昧な意思決定”を機械学習を通して明らかにすることができるかもしれないのです」
ここまでの話から、これまではAIという言葉が先行して際立っていたが、より役割が鮮明に見えてきた。続いて、「発展途中のため、課題は多いです」と前置きした上で石川氏は次のように語る。
石川:「課題は、成功事例が少ないことです。“AIを導入することで〇〇%削減する見込み”などのPRはありますが、実運用までされているケースは稀です。まだまだ成功事例が足りないのです。
まずは業界全体で成功例を増やしていくことが重要です。そうすることで、大企業や研究者など、これからAIを活用していく人達に技術として浸みわたらせることが可能となります」
抑えるべき100年後のスキルセットのひとつ
時代とAIが切りはなせない中、エンジニアではないビジネスパーソンが、AIと向き合う意義について石川氏はどのように考えるのか。
石川:「私は、エンジニアももちろんそうですが、経営や企画、営業など直接プログラミングやエンジニアと接点を持ちにくい業務を行うビジネスパーソンにこそAIを学んでもらいたいと思います。それは、AIプログラミングスキルやテクノロジーへの理解が、今後100年において重要なスキルセットのひとつになると考えているからです」
つまりAIプログラミングやその知識がキャリア形成に欠かせないスキルになってくるのだ。では具体的にどのような能力が求められてくるのか。
石川:「一言で述べると、“AIによって解決できる課題かどうかを判断できること”です。AIの分野では、機械学習によって解く問題を定義することは、機械学習を使って問題を解くのと同じくらい重要なポイントです。課題がズレたり、解析をするには不適なデータを選んでしまったりすると、AIは強みを発揮しきれません。
経営者や管理職の方たちと話すと、課題を設定する能力を職種に関係なく従業員に対して求めていることを感じます。
だからこそ、ビジネスパーソンほどAIやプログラミングを通して課題設定の考え方を学び、経験を積んでほしい。中には『直接AIを使うわけではないから』と言う方もいますが、もう時代は待ってくれません。特に今後10年、20年先を引っ張っていく人にとっては、習得優先度の高いスキルだと思います」
もはや、AIプログラミングは、エンジニアだけが学べば良いスキルではない。ビジネスパーソンにおいてもプログラミング思考、そこで得た課題判断力が求められているのだ。続けて“AIがもたらす100年の未来予想“について自身の考えを語ってくれた。
石川:「それぐらい先になると、AIが私たちの日常として、当たり前に生活へ溶け込んでいるのではないでしょうか。間違いなく、今よりは生活が楽になると思います(笑)
これまで世界では、経済が発展するたびに産業、ITなど様々な革命が起こってきました。”歴史は繰り返す“という言葉を体現する、AI革命というのが起こるのではないでしょうか。だからこそ、学ばない理由を探すのではなく、今から時代の流れを読んで学習をはじめることが重要なのです」
何か新しい技術や知見を得なくてはならない場面で、何とかして”学ばない理由“を探してしまう人はいるが時代は待ってくれない。AI学習と向き合うことは、今後訪れる環境の変化にも左右されず生きていく力になっていくのだ。
誰でも簡単にAIをツールとして使える社会へ
そうした市場やこれから先の時代を見据えた上で、誕生したのがAIプログラミング学習サービス“Aidemyだ。本サービスが生み出されたきっかけや背景は、何だったのだろうか。
石川:「卒業研究で、データ解析の手法として機械学習にはじめて触れたことがきっかけです。当時の私は水道に関する卒業研究に取り組んでいました。
AIはあくまでも研究ツールとしての利用ですが、水道の専門家がほとんどの研究室では、機械学習で研究成果を解析したり、そもそもAIを使いこなしたりすることに苦戦している人が多かったのです。
その一方で研究者以外からもAIは注目されはじめており、今後はAIをツールとして使いこなす必要性がより重要視されるだろうとも考えていました」
また同サービスは、自身がAIを学ぶ上で苦戦した実体験を元に、プログラミングや機械学習の最初につまずきやすいポイントを乗り越えられるよう工夫されている。
石川:「プログラミングを学びたいとき、多くの人の障壁となるのが“環境構築”です。ここでつまずかないよう、環境構築が完了した状態からはじめられるようにしました。通常なら機械学習にはGPUなど計算資源の豊富な専門的なデバイスが必要ですが、そうした専門的なノートパソコンで学べるようにしています。
また機械学習を本格的に学ぶには、数学が切り離せません。そのため、数学の演習コースを入れることで、数学が苦手な人やはじめての人でも機械学習の勉強に支障が出ないよう橋渡しをしています」
自身の実体験があるからこそ、AIをはじめるときの障壁や問題点などを理解し、プログラミング初心者でも触りやすい形を試行錯誤しながら開発が進められたのだ。
「データではなく、課題から考える」AIを知るからこその解決法
最後に、今後市場が拡大することが見込まれるAIプログラミングを通して何をユーザーたちへ提供していきたいのかを尋ねた。
石川:「プロダクト開発を通して、ビジネスにおける成功体験の提供です。大きなサービスではなく、既存サービスの改善やシステム最適化など小さなサービスで構いません。自身で悩みながらプロトタイプを完成させ、世の中に出すことが重要です。
AIに触れる機会を自ら増やすだけで、社会から見ればテクノロジーやIT解析については何歩も進んだ人物になれます」
ビジネスパーソンがAIを理解することの重要性を、企業が抱える課題設定とその解決スキームに絡めて石川氏は続けた。
石川:「この記事を読まれている方の中には、『AIと紐づけた新規事業を作って欲しい』『最新IT技術から企業課題を洗いだし、解決まで設計してほしい』と会社から言われているのではないでしょうか。
こうした指示を受けると、多くの人は『AIは膨大なデータ処理ができるから、使えるデータから探そう』と連想します。もしあなたがAIについて理解をしていたら、『どの課題がAIで解決するのにふさわしいか?』から考えることができ、課題設定の提案や取捨選択が可能です。
データから考えるなという逆説的な話になりますが、この思考を事業を作る人材が持っていることは大きな価値を持ちます。現場で関わるエンジニアからも共感が得られるはずです」
石川氏が語るAIへのスタンスは、今後事業を進めていく上では欠かせない考えだ。AIに振り回されず、自身が主導権を持って仕事と向き合うためにも、まず身近なサービスに触れることでAIへの知見を深める一歩になるのではないだろうか。
取材・文/杉本愛
写真/西村克也