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2018年12月に世界保健機関(WHO)が2018年12月に発表した道路の安全に関する2018年版の報告書によると、2016年に交通事故で死亡した人は世界で135万人に達した。
死者の数はHIV・エイズや結核を上回って全体では8位に上昇、5~29歳の若年層では1位の死亡原因となった。交通事故の死亡者数は直近の3年間で約10万人増加したが、世界人口も増加したので、死亡率は変わらないという結果になった。
交通事故による経済損失も大きく、その規模は世界GDPの3%に上ると言われている。各国で交通事故を削減する取り組みが進められていて、もっとも進んでいるとされるのが、北欧だ。
スウェーデンでは、2020年までに交通事故による死亡をゼロにすることを目標にした「Vision Zero(ビジョン・ゼロ)」という政策が導入されている。
スウェーデンの「ビジョン・ゼロ」とは?
スウェーデンでは1970年、「交通事故をもっと減らせ」という国民的な運動が国内で広まり、様々な交通安全対策がとられてきた。
血中アルコール濃度が0.2%以上の場合 飲酒運転とみなされ、アルバニアに次いで世界2位の厳しい基準である(ちなみに日本は0.3%以上で、世界第3位)。こうした歴史の中からスウェーデンは交通事故削減のための法規制と道路の整備が進められた。これが「ビジョン・ゼロ」というプロジェクトである。
「長期的な目標はスウェーデンの交通システムによって、死亡し重傷を負う人を無くす、ゼロにする」という考えで、1995年からプロジェクトはスタート、1997年にスウェーデン議会で可決された。2017年には20周年記念行事も行われたこのプロジェクトの結果、1965年には交通事故による年間死亡者数が1,300人だったものが、2014年には275人に減ったというから驚きだ。
ビジョン・ゼロでは、Mobility(機動性)よりもSafety(安全性)こそがより重視すべき優先目標であると発想を転換し、機動性を多少犠牲にすれば、死者・重傷者を長期的にゼロにする方法が存在し、それは実現可能であるとし、国家事業として取り組まれている。
具体的には、交差点を極力する少なくするために、ラウンドアバウト(円形交差点)の導入が進められたり、スピード制度の厳格化を作ったりしたことが挙げられる。
ラウンドアバウトは円形交差点、環状交差点とも呼ばれるものであり、道路交差点の一種で信号機の代わりに中央島を作り、車両はその周りを通行する。
スピード制度の厳格化については、たとえば、正面衝突事故のリスクのある道路では、70km/h 以上の車速を認めない、側面衝突事故のリスクのある道路では、50km/h 以上の車速を認めない。歩行者・自転車と車が衝突する可能性のある道路では、30km/h 以上の車速を認めないというのが基本原則となっている。
さらに、ビジョン・ゼロには5つの原則が存在する。
- スピードのコントロールと車道と歩道を分ける、道路設計をする際にスピードが出ないようにすることを考慮に入れる。自動車専用道も可能であれば作る。
- 機能的調和(通勤路、商店街、バスルートといった道路の機能が2つ以上重なった場合にそれぞれが邪魔しないようにする)。
- 予知しやすく、わかりやすくシンプルなこと(たとえばドイツでは赤くペイントされた道路は自転車専用道路である)。
- 許すことと不寛容性。人々が交通ルールを少し間違えただけでは大けがにはつながらないということ。また、人々が交通ルールを間違えることを前もって防ごうとすること。例えば、自転車レーンを分けて作ることで、そこに人々が駐車することを防いでいる。
- 状況を意識する(文明が進んだせいで交通事故によるけが人や死亡者が増えたと考えないようにする)。
ISA(Intelligent Speed Adaptation、知的速度適合)と呼ばれる車載器の開発も、スウェーデンでのビジョン・ゼロのプロジェクトの推進の大きな要因となっている。これは、GPSで計測された車両速度とその地点での規則制度の差を瞬時に感知し、文字やイメージでディスプレイ上に表示されたり、アラーム音が鳴ったり、アクセルペダルが重くなったりする装置である。スウェーデン国内の公共道路ネットワーク全体でこのISAシステムは使用されており、近年ではスマートフォン用アプリもスウェーデンで開発されている。
EU、特にオランダやドイツはスウェーデンを手本にビジョン・ゼロを推進している。日本の交通事故対策に関わる各機関もビジョン・ゼロを参考にし、2014年9月からラウンドアバウトが一部で運用されている。警察庁が2018年3月、全国27都府県の75か所のうち61か所で調査したところ、事故件数が導入前の3年間と比べて約37%減少する効果があったことが分かっている。また、国交省は2017年9月に日本国内でもISAの実用化を検討すると発表している。
また、ビジョン・ゼロの取り組みはEUや日本だけではない。ニューヨークのビル・デブラシオ市長は「ビジョン・ゼロ」を2014年に導入し、10年後の2024年までに交通事故死者数をゼロにする目標を掲げ、現在実際に交通事故数は減少傾向となっている。
フィンランドの交通違反の罰金制度
フィンランドでは、速度違反を時速20キロを超えてしまうと、罰金の値段はその人の収入によって支払うべき金額が変わってくるという制度が存在する。速度制限を時速20キロを超える場合、罰金は(月収-255ユーロ)÷60×違反速度ごとの定数で計算される。またこの際には扶養家族の有無も計算にかかわってくる。
フィンランドの実業家、アンダース・ウィクロフ氏は2013年にスピード違反で95,000ユーロ(約1,170万円)の支払いをしたことがあった。そして、2018年6月に愛車のベントレーで時速50キロ制限の道路で時速71キロで走行し、63,240ユーロ(約790万円)の二度目の大金の罰金支払いが命じられたニュースが話題を呼んだ。
この法律は1921年から制定されているものでフィンランド人には周知の法律であり、2009年のアンケート調査によるとフィンランド人の約6割がこの制度に賛成というアンケート結果も出ている。
デンマークの飲酒運転の取り締まり
またそのお隣のデンマークでは警察に飲酒運転が見つかると、運転免許の取り上げのみならず、その車も没収される法律が2014年に制定された。その際に没収された車は、オークションにて競売にかけられ、売り上げは国の財政に当てられる。
さらに違反者の罰金もあり、最低でも一ヶ月分の月給は没収される。ほかにもドラッグを服用している運転者には永続的に車を没収され、観光にきた外国人ドライバーにもこの法律は適用される。
日本でも高齢者の免許返納についてなどの議論が絶えない昨今だが、人々の意識はもちろんのこと、法律から見直す必要もあるのかもしれない。
文:中森有紀
編集:岡徳之(Livit)