男女間の雇用機会や収入の格差は長年世界各国の議論の的となってきたが、同様の問題がスポーツ界にも根深く残っている。米フォーブス誌が発表するスポーツ長者番付の上位は毎年男子選手で占められており、2018年にはトップ100に女子選手が一人もランクインしないという結果となった。

そのような中で今年、スポーツ界の男女格差問題に大きな動きが起きている。2019年2月にオーストラリアのスポーツ連盟が、男女アスリート間の収入格差をなくす取り組みを行うと表明したのだ。今回はオーストラリアでの変化を中心に、スポーツ界の男女収入格差問題の動向を追ってみたい。

男女クリケット選手の収入格差は約4倍

オーストラリアの各スポーツ連盟のCEOなどで構成されるMake Champions of Change Sport(MCC)は、スポーツ界における男女の収入格差をなくす取り組み “Pathway to Pay Equality” を発表した。

オーストラリアの人気スポーツであるクリケットをはじめ、サッカー、ラグビー、ゴルフ、水泳、テニスなど計17のスポーツ連盟がこの取り組みに参加しており、世界初ともいえる競技の垣根を超えた大規模な男女収入格差是正プログラムとして注目を集めている。

オーストラリアの各スポーツ連盟は、これまでも男女の報酬格差を無くす動きに取り組んで来た。例えばテニスでは、すでに大会賞金を男女同額とすることが実現している。

しかしそれでもまだプロスポーツ選手の男女収入格差は大きい。クリケットのプロ選手の最低年俸は男子が31万豪ドル超に対し、女子は8万7,000豪ドル、サッカーの場合男子6万4,000豪ドルに対し、女子1万2,000豪ドルと、4~5倍程度の差がついている。

クリケット連盟は2017年に男女選手の時間当たり基本給を同額にすると発表しているが、フルタイムでクリケット選手として活動できる女性アスリートが少ないといった環境面の問題もあり、単一の施策だけでは男女の所得格差を埋められない状況となっているようだ。

ロードマップを可視化して男女格差解消へ


MCCが発表した男女格差解消への対応表。各スポーツ毎に対応済は緑、進行中はオレンジ、未対応は赤に項目が色分けされている

MCCは “Pathway to Pay Equality” の報告書の中で、所得格差解消のための3つのステップを提示している。

まずはスポーツ選手が得られる収入の中で、スポーツ界が直接コントロールできるものとできないものは何か仕分けること。次にスポーツ選手が行う「仕事」は何かを定義すること。例えばトレーニング、試合、メディアやファン対応というように、スポーツ選手の活動を細かいカテゴリーに切り分ける。そしてそれぞれのカテゴリーに特定の報酬単価を設定する。こうすることで男女に関わらず、スポーツ選手として同じ活動をしたら等しい報酬が得られるという設計図だ。

今回 “Pathway to Pay Equality” への参加にサインしたスポーツ団体は、今後5年間での進捗目標を明確にするとともに、毎年進捗状況を報告する義務を負う。すでに現時点での男女格差是正への各アクション対応表が公表されており、どのスポーツが多くの項目に対応できているのか、どのスポーツが遅れているのかが一目でわかるようになっている。

オーストラリアのスポーツ界が目指す持続可能な平等

今回MCCのレポートで強調されているのは、単に規則を作って男女の報酬を同じにするのではなく、報酬以外の要素も含めた「持続可能な男女平等」が成立するスポーツ界全体のエコシステムをつくる、という考え方だ。

例えば、少年少女がスポーツに参加する機会の平等、選手が設備を利用できる環境の平等、プロスポーツの大会内容の平等など、スポーツを構成するあらゆる要素が対象として示されている。スポーツ連盟や行政、メディア、企業、選手会、ファンなどが役割を分担しながら、スポーツ界全体で持続可能な男女平等を作り上げていくことを目指しているのだ。

オーストラリアに先駆け、2017年にはノルウェーのサッカー代表チームで、男女選手の報酬均一化が実現されている。これにより女子代表チームに支払われる報酬総額は310万クローネ(約4,000万円)から600万クローネ(約8,000万円)に倍増したが、この原資は男子代表チームの報酬カット分だ。

男子選手たちが男女格差是正のため給与カットに合意した形だが、これはノルウェーが世界有数の男女平等意識の高い国であることと、国やスポーツ組織の規模が限定的だからこそ実現できた処置であり、他の国で継続的に実行するのはハードルの高いやり方だろう。

それに比べ、今回のオーストラリアでの取り組みは、17ものスポーツ連盟で同時進行され、プロスポーツ選手の賃金格差是正という以外にも多くの要素を含んだものだ。そのため、異なる国やスポーツにおいても適用できる要素が多いように見受けられる。男女の収入格差が24.5%と、OECD加盟国の中で常にワースト2〜3位争いをしている日本にとっても、大いに参考になるはずだ。

オーストラリアのスポーツ界の取り組みが、他国のスポーツ界、さらに産業界の男女収入格差是正への教科書となるか、今後の動きが注目される。

文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit