キャンパスから発信する「持続可能性」 米国高等教育機関の挑戦

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これまでも政策やビジネス分野で長らく議論されてきた「持続可能性」は、近年、より若い層においても自分たち自身の未来に関する課題として関心が高まっている。

昨年、スウェーデンの15歳の少女Greta Ernman Thunbergさんが始めた気候変動に対する取り組みを促す小中高生による政治運動「Fridays For Future(未来のための金曜日)」は、今年3月には世界120カ国以上に広がりをみせていると報じられた。

そして高等教育機関においては、多様なコースやキャンパス運営を通じて、「持続可能性」に関する具体的な研究やプロジェクトが進められるようになっている。

トランプ大統領によるパリ協定の離脱宣言など、政府による取り組みに懸念が募る米国においても、2005年に設立された「高等教育・持続可能性促進委員会Association for the Advancement of Sustainability in Higher Education (AASHE)」が米国の大学を中心とした高等教育機関における環境取り組みを包括的に評価しランキング化、米国における「持続可能性」の研究や人材育成の促進に寄与している。
 
今回は同ランキングで2018年、上位に選ばれたコロラド州立大学、スタンフォード大学などを参考に、米国高等教育機関が世界の注目を集める「持続可能性」という課題にどのように取り組んでいるのか、最新の動向をお伝えする。

持続可能性の観点からランキング化される高等教育機関

今年で設立14年となる北米初のキャンパスでの「持続可能性」に対する取り組みを支援、推進する機関であるAASHEは、以下の4つの視点により包括的に評価を行う。

1つ目は「アカデミクス」、すなわち教育機関としてカリキュラムとリサーチがどの程度「持続可能性」にフォーカスしているかが評価される。既存の環境関連のコースだけでなく、今後さらなるコースを導入するためのインセンティブの有無や、学生の「持続可能性」リテラシー、および「生ける実験室」であるキャンパスの廃棄物削減やCO2削減の状態がこれに含まれる。

2つ目は「エンゲージメント」、学生や教職員が、キャンパスおよび地域コミュニティにおいて、どの程度「持続可能性」についての議論を主導しているかが評価される。

3つ目は「オペレーション」。「持続可能性」のために、キャンパス内で実際に行われているプロジェクトが評価される。たとえば、コミュニティガーデン、リサイクルの取り組み、太陽電池パネルなどの代替エネルギーの活用、キャンパス内の自転車シェアリングやハイブリッド車両の運用などだ。

最後に、「計画と管理」として、学生や教職員のグリーンイニシアティブへの参加状況が評価される。

上記評価軸に加え、特にクリエイティブな取り組みを行っている教育機関には、イノベーションクレジットと呼ばれる追加ポイントが最大4点加点された後、総合点によりランキングが作成され、特に優れた機関にはプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズの称号が付与される。

世界最先端の総合的な環境問題研究機関、コロラド州立大学

 
コロラド州立大学キャンパス公式YouTubeチャンネルより

このランキングの最新版で1位となったのは、ランキング開始以来、初のプラチナを獲得したコロラド州立大学だ。

世界最先端の環境学研究機関として、提供されているコースのほとんどは「持続可能性」関連。生態系科学から公共政策、代替燃料、森林保全、大気科学、土壌分析まで非常に幅広い。中には米国初となる温室効果ガスのマネジメントに関する修士コースもある。

同大学は、NASAがコロラド州と協力し開発した、雲と気体中に浮遊する微小な粒子(エアロゾル)を分析するレーダーシステム「CloudSat」のデータ処理に大きな役割を担っており、気候変動の監視と分析、そしてデータに基づいた政策決定において、専門研究機関として強い存在感を示している。

キャンパスも、太陽熱によるエアコンが使用されるなど「持続可能性」の実践を体感できるものであり、また全米留学生授業満足度で第2位になるなど、数だけでなく質も高い環境系の講義が受けられる。

産学連携でイノベーションを発信するスタンフォード大学


スタンフォード大学公式YouTubeチャンネルより

2位に選ばれたスタンフォード大学は、Googleをはじめとした数多くの最先端企業と提携しているイノベーティブな名門大学として知られている。

同大学が注目されているのは、なんといってもStanford Energy Systemsと名付けられた先進的なキャンパスのエコ化に関する取り組みによるところが大きい。二酸化炭素排出量を68%、化石燃料の消費量を65%、飲料水の使用量を15%削減するというこの取り組み。日照時間の長いカリフォルニアという立地を最大限に生かし、太陽光発電企業SunPower社と協同した太陽光発電所と、キャンパス内の太陽光パネルによりクリーンエネルギーを創出している。

加えて、今後はCentral Energy Facility(CEF)というシステムにより、キャンパス内で発生する廃熱を暖房システム等に再利用し、キャンパス内の暖房の90%をまかなう予定だ。

また現在、固形廃棄物の65%をリサイクルまたは堆肥化、2020年までには75%を目指すという高い廃棄物転換率、そして、学生が主導する数多くの環境関連プロジェクトも高く評価された。

同大学の環境関連の活動を行うクラブは20を超え、コミュニティガーデンで収穫された有機野菜や果物は地元の飢餓救済団体に寄付されるなど、地域と連携した様々なプロジェクトが行われている。

環境分野で活躍する人材を育成するランキング上位校

その他のランキング上位校に目を向けると、未来を担う人材を育成するという点で評価されていたのが、バーモント州スターリングカレッジ。スターリングカレッジは全ての学生が職に就いており、しかもその大半はキャンパス内で働いているという、「ワークカレッジ」と呼ばれる高等教育機関だ。

「持続可能性」に関する多くのプログラムを提供し、電気使用量の80%以上が太陽エネルギーでまかなわれるエコロジカルなキャンパスで学び働く学生たちの8割近くは、その経験を生かし、卒業後1年以内に自分の研究分野に関連した職業でキャリアをスタートしている。


ワシントン大学キャンパス公式YouTubeチャンネルより

シアトルに位置する、北西部屈指の名門校ワシントン大学は、自校内での取り組みのみならず、外部への積極的な働きかけが評価された。同校のウェブサイトには、「サステナビリティダッシュボード」が公開されており、サイト訪問者は学校の「持続可能性」への取り組みに関する情報やデータへアクセスし、学習の機会を得ることができる。

また、日本からも立命館大学から「持続可能な社会とイノベーション」プログラムを通して留学生を受け入れているなど、国際的にも「持続可能性」分野への関心を高めるリーダーとしての役割を担っている。

高等教育機関が「持続可能性」において担う役割

トランプ政権になってから、「持続可能性」に関してはネガティブな話題に事欠かない米国。
 
そもそも温暖化の存在自体に懐疑的な米大統領は、今年になってからも、1月に寒波が到来したことを揶揄し「温暖化はどうなった?君が必要だ、戻ってきて!」とツイートし、専門家やメディアから、そもそも大統領は「天気」と「気候」の違いをまったく理解していないと反発を受けた。

このように科学を軽視するとして、米国のアカデミック界と深い断絶が報じられている現政権の元で、高等教育機関の取り組みがどこまで現実的な解決策となるのかは疑問かもしれない。

しかし多数の世界をリードするトップ校を有する米国高等教育機関から発信される研究、技術やプロジェクト、そして輩出される高い環境リテラシーと知識、スキルをもつ人材は、国境を超えて「持続可能性」への取り組みにインパクトを与える可能性を秘めているといえよう。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit

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