英国のWe Are Social社が発表した最新の調査報告「Digital in 2019」によるとインターネット・ユーザーは1秒ごとに全世界で11人増えているという。現在、世界のインターネット・ユーザーは43.9億人(前年比+9%)だ。

この世界の流れに一石を投じる新たなムーブメントが米国で起こっている。それが「デジタル・ミニマリズム」だ。きっかけとなったのが2019年2月に発売された書籍『Digital Minimalism: Choosing a Focused Life in a Noisy World』。ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、USAトゥデイなど大手メディアでベストセラーとして紹介されたことも影響を与えているだろう。


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著者は気鋭のコンピュータ科学者であり作家としても知られる、ジョージタウン大学のキャル・ニューポート准教授。ソーシャルメディアのアカウントを持たず、ネットサーフィンにも時間をかけないという。

2016年には同氏のブログが話題となり生まれた著書『ディープ・ワーク:気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』が日本でも翻訳されたので、ご存知の方もいるだろう。

「デジタル・ミニマリズム」とは?


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デジタル・ミニマリズムについて語る前に「ミニマリズム」について理解しておこう。ミニマリズムとは最小限主義。1960年代に芸術分野で誕生した言葉で余計なものを削ぎ落とし、最小限まで突き詰めていくことだ。いまや生活や仕事、人生において必要なものを見極めてシンプルにする世界的なブームへと広がっている。

「スマートフォン、インターネット、何十億もの人々とつながるデジタル・プラットフォームは勝利の革新である。しかし、同時に機器の奴隷になったような気がする」と語るキャル・ニューポート准教授は、ミニマリズムを物理的な世界からデジタルの世界へ哲学として持ち込んだ。

デジタル・ミニマリズムを哲学として定義することで、どのテクノロジーやツールが最も価値をもたらし、また価値を与えないかを見極めることで、その恩恵を受けることができる。さらに積極的に低価値のデジタルノイズを取り除き、厳選した重要ツールを最適化して使用することで我々の人生は著しく改善できるというものだ。

またデジタル・ミニマリズムは、物から離れる断捨離や物を排除するデトックスとは異なる。新しい技術に対して拒絶や懐疑的になるのではなく、その価値を取り入れていくことも含まれている。ヴィジョンを持つことで持続可能なライフスタイルを形成していくのだ。

要はデジタル・ミニマリズムとはより快適で、より健康的な関係を自分らしく築くための取捨選択だと言えるだろう。

デジタル・ミニマリストになれるだろうか?


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前述の「Digital in 2019」によると世界の人々は平均6時間42分をオンラインで過ごしている。

オンラインで多くの時間を費やすことを望んでいる人はほとんどいないだろう。しかしTwitterをチェックしたい、Facebookを更新したい、最新のニュースや話題を入手したい…そんな衝動に無意識に駆られ、断片的にでも行っていないか? 情報過多で混乱していないか? 絶え間ないクリックやスクロールに疲弊していないだろうか。

キャル・ニューポート准教授はデジタル・ミニマリズムのアプローチとして「減法アプローチ」と「加法アプローチ」をあげている。

減法アプローチを「ときめくか、ときめかないか」を基準に片づける「こんまりメソッド」で知られる近藤麻理恵戦略としている。そのテクノロジーやツールがより良い生活を送るための魅力的なカギになるか、否かで選択する。

対照的に加法アプローチは、短期的にすべてのツールを排除することから始まる。その期間中に、自分がより良い生活を送るためのカギとなる原則を検討し、その生活の中で最も重要な役割を果たすツールを使用していくというものだ。

デジタル・ミニマリストはオンラインの「見逃し」を恐れない人々だ。彼らはテクノロジーやツールを使用する目的・方法・タイミングを知り、コントロールすることで生活を豊かにして人生の価値を高めている。

デジタル・ミニマリズムを試してみたら・・・


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デジタル・ミニマリズムのお試し項目をいくつかまとめてみた。

  • スマートフォンやタブレットを持たずに外出する。
  • 週1回、友人や家族に電話で話す。
  • ヘッドホンなしで長い散歩をする。
  • ニュースをオンラインではなく新聞で読む。
  • 地図アプリを使わずに知らない場所に行く。
  • メールを使わず手紙やハガキを送る。
  • デジタル安息日を作る。

スマートフォンやタブレットがない時代には至極普通のことが、実際に試してみると難しかった。改めてオンライン活動に時間を費やし、必要以上にあらゆることを知り、溢れる情報に惑わされていたことを実感する。

あくまでもオンラインの世界はオフラインの生活をサポートするもので、生活の一部なのだ。キャル・ニューポート准教授は「最善」と「十分」の違いは重要だと言う。

現代はデジタル・ツール、ソーシャルメディアとの関係を再考し、オフラインの世界の静けさや楽しさを再発見することが求められる時代かもしれない。デジタル・ミニマリズムとは進化するテクノロジーを支配することで自分のオンとオフのライフスタイルを最適にするための哲学だ。今後、日本をはじめ世界へどのように影響していくかとても興味深い。

参考までに米国Pew Research Centerの2018年の調査を紹介しておこう。米国成人(18〜49歳)のインターネット利用率は89%(日本76%)、ソーシャルメディア利用率は69%(日本39%)。米国では2016年から横ばいで変化がない。同世代のスマートフォンを含めた携帯電話の所有率は99%だ。

文:羽田理恵子
編集:岡徳之(Livit