都市のプレゼンスを左右する「メガハブ空港」世界ランキング〜首位はヒースロー、羽田は何位?

イギリスの航空コンサルタント会社OAGが発表した「メガハブ空港ランキング」。これは世界の空港ランキング、航空会社ランキングとは趣の異なる空港ランキングだ。


OAG the leading global provider of digital flight information www.oag.com

「ハブ空港」の定義

ハブ(Hub)とは車輪の中心部を指す英語で、ハブ空港とは各地からの路線が集中し中継地点となる空港のこと。

OAG社は900以上の航空会社と4000以上の空港のデータベースを解析し、月に2100万件のフライトステータスを把握するコンサルタント会社。今ランキングは同社が、世界で最も国際線での乗り継ぎが可能な空港、メガ・ハブ空港トップ50の2018年度版を発表したものだ。

指標は座席供給数に基づいて選ばれた、世界のトップ200空港での乗り継ぎの可能性を計ったもの。同時に、その空港における最有力航空会社が占める割合も発表された。


ハブ空港の必要性を解説した図 Your Heathrow ©2018

強い欧米勢

堂々の1位はイギリス・ロンドンのヒースロー空港、同空港が1位に輝くのは今回が初めてではない。2位はアメリカ・シカゴのオヘア空港、次いで3位はドイツのフランクフルト空港、次いでオランダ・アムステルダム空港、カナダ・トロントのピアソン国際空港など欧米主要都市の空港がランクインした。

アジアのトップはシンガポールのチャンギ空港が8位にランクイン、インドネシア、マレーシア、香港、タイ、韓国のランクインに続き、日本の空港は羽田空港が21位のランクインだった。

ヒースロー空港は、乗り継ぎ可能指数333で同指数306の2位以下を大きく引き離した。具体的には、2018年の最も過密な1日の例で実に66,000の国際線乗り継ぎパターンを記録。もちろん、乗り継ぎ時間は6時間の枠内と限られている中での数字だ。なお今年2位に浮上したオヘア空港は、今後もより多くの国際線乗り継ぎパターンの可能性を秘めており、指数はさらに上昇するとみられている。

アジアの空港の中で注目なのが、北京首都空港。定期便での世界最大座席供給量を誇る北京だが、国際線の乗り継ぎ可能便数においては、ヒースローの半分以下に過ぎないことで、ランキングは32位にとどまった。21位に甘んじた羽田空港は、乗り継ぎ先(目的地)の数が83都市と極端に少ないことが低ランクの原因だった。

有力航空会社の影響力

トップ20空港に共通してみられる現象は、最有力航空会社がそれぞれの地で40%以上のシェアを占めているということ。ヒースロー空港ではブリティッシュエアウェイズが52%を占め、シカゴオヘア空港はユナイテッド航空が48%、3位のフランクフルト空港はルフトハンザ航空が63%。ちなみに羽田空港は全日空の37%であった。

航空会社が自社のスケジュールを調整し、より多くの乗継便を提供するため当然の数値ではあるが、裏を返せば、多くの航空会社が仲良く共存すればするほど、国際線乗り継ぎの可能性と多様性を失ってしまうという両刃の剣。例えば旅程を検索する際に、提携関係の無い別々の航空会社(全日空と日本航空、のような組み合わせ)での乗り継ぎは料金も割高になることが多く、乗り継ぎ時間が不便なことも多い。

ハブ空港の存在意義

ハブ空港の存在はこのように、利用客の利便性と同時に航空会社の都合もある。例えば日本で、羽田空港を経由して乗り継ぎという選択肢ではなく、全て点と点を結ぶ航空路線にしたらどうなるか。

北海道の帯広空港から鹿児島の奄美大島空港までの直行便を座席数200の飛行機で例えば毎日往復運航した場合、どれだけ座席が埋まるのか想像してみたい。そしてこの路線を東京または大阪経由にした場合の座席販売数と比較した場合、それぞれの路線部分で座席占有率が大幅にアップ、効率がよくなるであろうことは想像に難くない。

一方で、確実に需要のあるこの路線を週に数便のみの運航に限定してしまった場合、採算が合うとしても利用者の利便性が損なわれる。何よりも、それだけ細かに路線を網羅するためのハード(機材)やソフト(人員)にも限界があるし、燃料などのコストをカバーするのに航空券代は高くなるだろう。これは国内線での想定だが、国際線の乗り継ぎともなればハブ空港の必要性がわかりやすい。

ではなぜハブ空港であることが重要視されるのだろうか。ハブ空港とその位置する都市は、国や周辺地域でのプレゼンスを高め、それによって地域の主導権を握る手段であると考えられるからだ。

島国である日本ではイメージしにくいが、ヨーロッパやアメリカなどの陸続きで外国(隣国)が存在する中で、最終目的地に着くまでにどの空港を「経由」するか、ということに意味がある。たとえ乗り継ぎだけだとしても、そこに人や貨物が到着することへの経済効果は計り知れないからだ。

ハブ空港では荷物や貨物の上げ下ろしがあり、乗り継ぎ客はその地に立ち寄る可能性も高い。たとえ空港から離れなくとも、館内で飲食や買い物をするだろう。人と物が集まりやすい地点となるため、雇用が生まれ経済の活性化が進む。素通りされるより、一度ハブ空港で足を止めてもらうことに地域経済としても大きな意味があるのだ。

ハブ空港の成長要因

ではハブ空港の発展には、どのような要因があるのか。地域経済と世界的経済の発展や航空機の進化、自由経済と国家の自由度、環境へのインパクト、地理的条件、空港運営会社と投資、国営航空会社、地域の人口統計、アライアンスの存在、地元ならびに周辺地域の政治的安定度などがあげられる。

なかでもヨーロッパ圏内で顕著に影響のあるのは、環境へのインパクトだ。環境保護への意識が高く、規制が厳しいヨーロッパでは航空機の発着を増やすことや、新しく滑走路や空港を増設するのは容易ではない。ヨーロッパ域内で、航空路に代わる高速鉄道の発展が継続しているのはこうした理由もある。

アライアンスは、提携関係にある航空会社同士お互いに持っていない路線を補い合い、乗り継ぎの利便性を高めるのに重要な意味を持つ。10年ほど前、早くからスターアライアンスに加入した全日空と、遅れてからワンワールドに入った日本航空の経営や利潤の伸びに大きく差が出たことも注目されていたことを思い出すだろう。


ハブ空港により域内でのプレゼンスを高めたドバイ ©The National/Guiseppe Cacace AFP

自由経済や国の開放度合、地元や地域の政治的安定度が重要な要因であることは言うまでもない。

中東でトップの18位にランクインしたアラブ首長国連邦ドバイ空港は、周辺地域の政情がやや閉鎖的で不安定であるにもかかわらず、ドバイやアラブ首長国連邦全体の治安、政情を安定させ、諸外国、外国人に対して寛容な姿勢を見せることで、域内でのプレゼンスが向上した。自国のエミレーツ航空の占める割合は45%だが、アジアやヨーロッパ、米国への路線も充実し、空港が24時間フル稼働。空港の拡張工事も進行中で、諸外国からの航空会社の乗り入れもしやすい。

ドバイを経由することで恩恵を受けるのは乗客だけにとどまらない。空港隣接のフリーゾーン(保税地区)では荷物の上げ下ろしをしても税金がかからないため、アフリカやヨーロッパ、アジアをつなぐ物流中継地点としての需要が高まった。20年ほど前は近隣国のバハレーンを経由するフライトが多く、日本をはじめ世界の金融機関や商社がバハレーンに中東の本部支店を構えていたが、現在ではそのほとんどがドバイへと移転しているほどだ。

新興してきたドバイとは反対に、ロンドンヒースロー空港は、地理的にヨーロッパやアフリカ、中東、アメリカ大陸へのアクセスがしやすくゆるぎない地位を歴史的に確立してきた。しかしながら今後、アジア諸国や中東、中南米の新興国経済が発展し、空港などのインフラが柔軟かつ急速に進化していくであろう潮流の中、滑走路の増設やさらなるインフラの拡充が迫られている。

しかしながら前述のとおり、歴史ある既存の空港は環境・騒音問題への懸念のほか、立ち退きを迫られる市民の根強い反対運動もあり、長い年月をかけた議論が行われ、そのうちに追い抜かれてしまう危険性も秘めている。


キャパシティの限界を迎えている現在のヒースロー空港 Your Heathrow ©2018

イギリスでは、住宅街が近くにあるヒースローに第3滑走路を新設すべきか、同じくロンドンにあるガトウィック空港がより適所であるのか、または滑走路の増設は全くもって不要なのか、議論は50年にも渡った。

2016年には遂にメイ首相がヒースローの拡張計画を承認し、2018年6月に下院で承認された。計画では、年間発着枠が48万回から74万回に増え、直接的な経済効果は60年間で740億ポンドとの試算。ヒースロー空港をより知ってもらうために開設されているYour Heathrowのホームページにも、ハブ空港の機能拡張へのメリットを訴える内容がわかりやすく解説されている。

しかしながら、これからもEU離脱問題に絡む課題や、今なお反対を続けている住民勢との話し合いなど、2025年という完成目標に向けてはまだまだ困難が続きそうだ。


2019年4月にさらなる進化を遂げたチャンギ国際空港 Courtesy of Jewel Changi Airport Devt.

世界のベスト空港ランキング

趣が異なるが、3月末にSkytraxが発表した「世界のベスト空港ランキング2019」は乗客としてのわれわれに、より身近なランキングだ。

国際線旅客の投票による人気ランキングで、アジアの空港が上位を占める。7年連続で1位に輝いたのはシンガポール・チャンギ国際空港で、その絶え間ないイノベーションと旅客を楽しませるエンターテイメント性で人気を博した。羽田空港は今年3位となった韓国インチョン空港と入れ替わり2位になり、世界で最も清潔な空港では1位となった。今回初浮上は9位の成田空港、日本ではほかに中部セントレア空港が6位にランクインしている。

世界の空港ランキングで人気を博したのは、訪日観光客の増加とそれに対応すべく行われてきた、日本の空港側の努力の賜物であろう。人気空港としての地位を確立できた今、いよいよ来年2020年に迎える東京オリンピックとその先を見据え、今後日本の空港が世界トップクラスのメガハブ空港として認識されることが、地域内での日本のプレゼンスを高め、さらに主導権を握れるかどうかの分かれ道になるだろう。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

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