「本当に欲しい未来はなんですか?」ソニーと若林氏が照らすU30のフューチャービジョン“trialog”

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「あなたが、本当に欲しい未来はなんですか?」

唐突に聞かれると、正直困惑してしまう内容だ。しかし自分一人で考えるのではなく、誰かと対話しながら模索するのであれば、何かしらの答えを得られるのではないだろうか。様々なテーマの未来について考えるtrialog(トライアログ)というイベントは定期的に開催されている。

trialogというのは“実験的な対話のプラットフォーム”だ。「What is the future you really want?(本当に欲しい未来はなんだ?)」を合言葉に、設定された1つのテーマについてエンジニア、クリエイター、ビジネスパーソンなど異なるジャンルや異なる視点の3人のゲストたちが意見を交わし、三者対話から育てられた希望の種をオーディエンスと共有する。

平成最後の開催となるVol.5のテーマは「新しいクリエイションのための、新しいチームのつくりかた」だ。本記事では、イベントセッションを取材し、その内容をお届けする。

「次の時代を創る世代が本当に欲しい未来とは?」3人の異なるゲストの対話から見える希望の種

trialogはコンテンツ・ディレクターとしてWIRED日本版をはじめ、数々の媒体に携わってきた編集者 若林恵氏がソニーと立ち上げたプロジェクトだ。共同企画者として、ゲームデザイナー/クリエイターの水口哲也氏も参加する。

本イベントの目的について、ソニー株式会社 ブランド戦略部の小堀氏がイベント冒頭で次のように述べる。

小堀氏(以下、敬称略):「本当に欲しい未来はなんだろう?」これをソニーだけでなく、また一人だけではなく3人の視点でみたら新しい未来が見えてくるのではと、我々は考えました。

また本イベントではターゲットをアンダー30(以下、U30)とし、未来を見据えて活動する世代を応援する。なぜU30向けなのか、trialog代表の若林氏が自身を例にあげながら説明した。

若林:自分も含め、経験やアイディアをおじさんは持っている。しかし未来を作るのは僕たちではなく、皆さんです。正直「なぜ俺がおっさんの未来を考えないといけないのか」という気持ちもあり(会場笑)、U30向けにしています。

「本物の大人になるには2つの扉がある」社会と真摯に向き合う世代が気づいた真理

SESSION1では、“仲間が私を成長させてくれる”というテーマで若林氏、ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社で社員として働きつつ、学生時代に創業したハピキラFACTORY CEO、慶應義塾大学大学院 特任助教としても活躍する正能茉優氏、楽曲ごとにそのテーマにあう仲間をアサインするというスタンスを取り、注目のアーティストともコラボを重ねる気鋭の音楽家 中村佳穂氏がそれぞれの経験から話を進めていく。

“社会に対して恐怖を感じること”というテーマに対して、正能氏は「実力以上にちやほやされること。だからこそ、自分の実力をその期待されているレベルまで追いつかせないといけない」と発言した上で次のように社会を2つの扉に例えて語りはじめた。

正能:私、世の中には扉が2つあると思うんです。1つ目は、周りの環境や世の中のムード感で開く扉。ハピキラで地方をテーマに事業をはじめたら、ちょうど地方創生ブームがやってきたり。自分の会社を持った状態で会社員としても働きはじめたら、働き方改革がはじまったり。私の場合、1つ目の扉は幸運にも開いちゃった感じがしています(笑)

ただ、1つ目の扉が開いた世界に着いてみて、そこには本物の大人とそうではない大人が混在していることを知りました。本物の大人たちは、それっぽいだけじゃなくて、「自分はこの分野で扉を開くんだ!」という鍵を、意思を持って手に入れて、2つ目の扉を開けているんです。私も今、2つ目の鍵を探しています。

自身の中で、大人のあり方を考えている正能氏だからこそ、なりたい大人に向けた行動や選択を日頃から考えているのだろうと感じさせられた。

「私ではなく“私たち”で戦う」バランスの良い貸し借りができるのが良い大人

SESSION1も終盤に差し掛かり、次世代の成長に対する認識と現状を踏まえ、若林氏が次のように切り出した。

若林:「会社に所属するだけだと自分は成長できない」と感じる世代が増えている。だからこういうイベントが増え、流行っているのだとも思う。それだけ自分を成長させてくれる空間をどうやって持つのか、クリティカルな問題になっている気がする。それについて、2人はどう思う?

正能:今日もこのイベントに同世代がこれだけ来てくれていることもそうですが、そういう感覚を持って、社内にとどまらず活動する同世代が増えている感覚はあります。でも、私たちが求めるべきは、一方的な“成長”じゃなくて、“貸し借り”の感覚だと思うんですよね。

会社だったら、新人時代に先輩から仕事を教えてもらったり助けてもらったりして作った借りを、後輩へ返したり、先輩に返したり。もしそれを社会という規模で借りるなら、いつか、社会にちゃんと返せるようにしていきたい。つまり、 “社会との貸し借り”みたいな感覚が大事なんじゃないかと。この構造は、会社でも、会社を超えた社会でも、根本は同じだと思います。

若林:正能さんは、自分が会社にも社会にも助けてもらってるという感覚が常にあるってことだよね。中村さんはどうでしょうか。

中村:大学時代、ギャラは出世払いということで多くの方々が手伝ってくれていました。自分が社会に出てから、とてもすごいことをしてもらってたのだとより深く実感しました。だからこそ、社会に出た今、自分が面白いなと感じる人には、足を運んででも手伝ってあげないとという気持ちです。

つまり、2人は社会という成長環境を上手に利用し、自身がやりたいこと、関心のあることを実現してきたのだ。その中で意識していたのが、社会との貸し借り。自分のため、相手のためという偏った意義ではなく、双方の関係をバランスよく捉えているからこその発想だ。

さらに話題が「合目的的に人を使っていくのは、いいことなのか?」という話から、仲間というものの捉え方へと議論が広がった。

中村:私にとって、一緒に活動してくれる人は横の世界の繋がりでもあり、武器でもあります。あくまでもその時に達成したいことを成し遂げるためのベストな選択です。武器を入れ替えて、つまりメンバーを変えてレベルアップするというものではないと考えています。

正能:確かに寂しいことですよね、目的のために人を選ぶというのは。武器の良し悪しで武器を選ぶ人生は嫌だなあ。

私は、誰かが主人公となって、武器(メンバー)を選んでいるのではなく、みんなそれぞれが武器だと考えています。私のナイフとあなたの弓矢で一緒に戦うと勝てるよねって。私の物語を手伝ってほしいというよりかは、“私たち”の物語をいっしょにつくっていこうというイメージです。

決して誰か一人が得をするのではなく、互いが武器となって相互協力をすることでそれぞれを高め、共に目的を達成していく。そんな姿勢が2人の言葉から伺えた。

ALLIANCEのあり方が組織と従業員の関係性を平和へと導く

SESSION2では、“仲間と組織の曖昧な関係”を紐解くというテーマで水口氏、マッキンゼーやネスレ、㈱ほぼ日などジャンルの異なる企業でビジネスをサポートしてきた篠田真貴子氏、PARTYや新たにスタートしたWhateverなどクリエイティブエージェンシーをつくってきた川村真司氏がそれぞれの知見から対談する。

“Alliance(同盟)”という言葉をキーワードに会話は進み、水口氏が自身の経験をもとに語りはじめた。

水口:篠田さんが監訳を担当した、Linked in 創業者リード・ホフマン氏らが執筆したALLIANCE。この本が私の背中を押しました。それまで組織のあり方に悩み、クリエイターと企業をどのようにつなぐのがベストなのかを考えていたからです。

対等な立場で同盟を結ぶからこそ、雇用・上下関係がフラットである。会社も従業員も、社長もフラットな関係性。つまり、終身雇用から終身信頼の時代になろうとしている。この時に、「俺が考えたことはアライアンスなんだ!」とビビッときた瞬間でした。

重ねるように川村氏が続けた。

川村:確かに、クリエイターで見るとアライアンスというのは相性はいいと思います。実は去年のテーマが“クリエイティブアライアンス”。互いに信じ合って仕事をすることにより、結果として利益も満足度も高めることができました。

篠田氏が、アライアンスの特徴や本来あるべきあり方について聴衆に分かりやすく語る。

篠田:アライアンスを一言で述べるのであれば、「ずっと一緒に居るのは現実的に無理だよね」ということです。例えば会社が5年間、事業拡大をサポートしてくださいと伝えるのと同時に、「案件が終了したタイミングで、その後どうするのか一度話しましょう」と決めておく。双方が自身の考えを伝えるきっかけを作ることが、会社、そこで働く従業員など関わる人たちの信頼関係へとつながるのです。

「管理部門もクリエイティブ」会社が自分を知るプラットフォーム

SESSION1, 2と終わり、若林氏が本日の内容をラップアップした。ここでは、その中での篠田氏とのやり取りをご紹介する。

若林:様々な経験をしている大人であれば、エベレスト級の仕事をしている人もいるだろうが、若い人の中には高尾山しか知らない人もいる。それこそ、仕事においてどのような準備が必要なのかすら分からなかったりするのです。

篠田さんに登壇してもらったのも、「仕事を仲間で取り組むことは楽しいよ」とアピールしたかったから。また、何よりもクリエイターにとっても、財務や労務を担当してくれる人が今後必要となってくることを彼らに知って欲しかったのです。

篠田:そうだったのですね。管理部門の仕事もクリエイティブです。決して数字を打ち込むだけが仕事ではありません。

会社というのは、「こういうことも向いているのかも」って自分のあり方を模索できるフィールドです。本当に欲しい未来において、もしかしたら、会社はちょうど良いプラットフォームになるかもしれません。

会社という組織で様々な経験をすることが、今自身のあり方が見えなくても、違った自分を知る一助になるかもしれない。

フリーランス、パラレルワーカーなど働き方の多様性が着目される昨今だからこそ、チームビルディングやそのメンバーの捉え方、アライアンスによる会社との協力関係など、年齢や経験に関係なく働くための方法を私たちは理解しておく必要がある。自身が希望を持って未来を切り開いていくためにも、きっと重要な武器となるはずだ 。

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