「ストレス都市ランキング」から見る世界各都市のストレス事情
「ストレス社会」といわれる現代。職場、通勤、家庭、学校さまざまな場面でストレスを感じることが多いかもしれない。
ストレスフリー社会の実現をミッションに掲げ、オンライン・クリーニング・サービスを提供するドイツ発のスタートアップZipjetが実施した「世界ストレス都市ランキング」では、世界主要都市のストレス事情を包括的に把握することができる。
このランキングは「都市」「公害」「家計・財政」「健康」の4カテゴリ17指数を計算し、そこから総合ストレス指数を算出している。数値が大きくなるほどストレスを感じやすい都市ということになる。対象となっているのは世界主要150都市。
総合ストレス指数がもっとも高い都市はイラク・バグダッド。指数は最大となる10ポイント。2~10位までは以下の都市がランクイン。アフガニスタン・カブール(総合指数9.98)、ナイジェリア・ラゴス(9.95)、セネガル・ダカール(9.95)、エジプト・カイロ(9.53)、イラン・テヘラン(9.10)、バングラデシュ・ダッカ(9.06)、パキスタン・カラチ(9.00)、インド・ニューデリー(8.98)、フィリピン・マニラ(8.92)。
イラク・バグダッド
一方、もっともストレス指数が低い国はドイツ・シュトゥットガルト(1.0)となった。このほかストレス指数が低かったのは、ルクセンブルク(1.13)、ドイツ・ハノーファー(1.19)、スイス・ベルン(1.29)、ドイツ・ミュンヘン(1.31)、フランス・ボルドー(1.45)、英・エジンバラ(1.55)、オーストラリア・シドニー(1.56)、オーストリア・グラーツ(1.69)、ドイツ・ハンブルク(1.69)など。
ドイツ・シュトゥットガルト
このように比較すると、所得水準が高い先進国と呼ばれる国はストレスが低く、開発・新興国と呼ばれる国ではストレスが高い印象を持ってしまう。しかし、カテゴリ別に見てみると所得水準の高さが必ずしも低いストレスにつながっているとは言えないことが見えてくる。
たとえば「健康」カテゴリ内の「メンタルストレス指数」では、韓国が9.70と高く、同指数の高さは全体で6番目に位置している。東京も8.61と高い。このほかメンタルストレス指数では、ベルギー・ブリュッセル8.49、大阪8.31、ノルウェー・オスロ8.07、米シカゴ7.52、スウェーデン・ストックホルム7.52、ロサンゼルス7.14、ニューヨーク7.04が高い数値となっている。メンタルストレス指数は、自殺率の加重平均や都市人口1人あたりのメンタルヘルスワーカーの数などから算出されている。
東京・品川
テクノロジーを活用したストレス低減の取り組み
大都市では概ねストレスレベルが高く、そこに住み続ける限り、ストレスから逃れるのは非常に難しいといえるだろう。
そんな中、テクノロジーを活用して都市住民のストレスレベルを下げようという試みが世界各地で実施されている。
スウェーデンの広告企画会社Clear Channelがストックホルムで実施したプロジェクト「Emotional Art Gallery」が興味深い。
同プロジェクトは、グーグル検索、ソーシャルメディア、マスメディア、交通情報などのデータから、ストックホルム市全体がどのような心理状況なのかを推測し、負の心理状況であればそれを緩和するアートを地下鉄通路に設置されたディスプレイに表示するというもの。
リアルタイムデータを活用したエモーショナルアート(Emotional Art Galleryプレスキットより)
モントリオール大学の調査によると、通勤で片道20分以上かかる場合、慢性的なストレスを抱え、心身ともに疲労がたまりやすくなる可能性が高いことが明らかになっている。
視覚や聴覚、嗅覚へ何らかのストレス緩和効果のある刺激があることで通勤環境は幾分改善される可能性があると考えられる。ストックホルムでの施策のようにリアルタイムデータを活用した、ストレス緩和施策は今後増えてくるかもしれない。
2018年10月末に開港したトルコのイスタンブール新空港では、Nelyと呼ばれるロボットが行き交う旅行客の感情を読み取り、その状況に応じた情報提供を行っている。
空港は出入国管理や手荷物検査で並ぶことが多く、ストレスがたまりやすい空間。ストレスの増加は空港の名税品売り上げの低下を招く可能性もあり無視できない問題だ。英国サリーのマーケティング会社The Sound Agencyが英グラスゴー空港で実施した実験では、空港内に鳥のさえずりや小川のせせらぎなどリラックス効果のある音を流したところ、免税店での売上が10%増加したという。
バイオフィリア仮説は、人間は自然を求める性質を持っていると唱えるものだが、グラスゴー空港の実験はその一端を示しているといえるだろう。
仮想空間の中の自然でもストレス低減効果は期待できる。カナダ・ビクトリア大学の研究者らが実施した研究では、自然の映像を基にしたマインドフルネスVRコンテンツをストレスレベルの高い患者に見せたところ、ストレスが低減。これは患者の自己報告だけでなく、脳波でも確認されたという。
ヘルスケア分野でのVR活用には期待が寄せられているが、VRの導入・利用コストが依然高く、普及には時間がかかると見られている。ただ、VR効果を実証する研究は増えており、数年後には広く普及し始めるとの見方も少なくない。ゴールドマン・サックスの予測によると、2025年のヘルスケア分野のVR・AR市場は51億ドル(約5,600億円)と116億ドルのゲーム市場に次ぐ規模に拡大する見込みだ。
「ストレス社会」という言葉を過去のものにできるのか。現在ストレスを低減するために実施されているさまざまなテクノロジー活用の取り組みとその効果に期待が寄せられる。
文:細谷元(Livit)