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昨年2018年12月にアメリカで可決された新しい農業法で、ヘンプ由来のカンナビジオール(以下CBD)の使用が国内50の州で合法化されたことにより、”CBD元年”ともいえるほど、昨年はさまざまなメーカーからCBDアイテムの発売が相次ぎ、市場が急速に成長した。
大麻に関するデータリサーチをおこなうシカゴベースのBrightfield Groupによると、その規模は今年2019年に約6億USドル(約660億円)、2020年には220億USドル(約2兆4千億円)にまで拡大すると試算されている。
かつてのゴールドラッシュになぞらえて「グリーンラッシュ」と呼ばれるほど、加熱するCBDマーケット。本稿ではミレ二アル世代をはじめ、CBDをライフスタイルに取り入れ始める人が増える一方で、法律・規制など複雑化するCBDを取り巻くアメリカの現状をお伝えする。
メンタル・フィジカルに効果のあるCBD
CBDとは大麻やマリファナに含まれる成分だが、一般的にイメージされる「ハイになる」という症状はCBDによるものではなく、同じように大麻草やマリファナに含まれるTHCという別の成分によるもの。つまりTHCを含まない、もしくは含有量の極めて少ないCBD製品で陶酔感を覚えたりすることはないようだ。
上述の農業法では向精神薬であるTHCの含有量が0.3%以下である大麻製品が規制から除外されたことにより、大麻関連商品の製造、流通や販売が合法とみなされるようになった。
世界保健機関(WHO)などによれば、現時点でCBDにおいて向精神作用の効果、依存、乱用の可能性は確認されていないといい、一方で精神的な不安の緩和、吐き気の抑制、体の痛みや炎症の軽減などの効果があることが報告されている。また、米国食品医薬品局(FDA)によって小児てんかんの治療にCBDを使用することが承認されたりと、徐々にその効能が認知されつつある。
使い方は、オイルやクリームを皮膚に塗布して使用するほか、カプセルや電子タバコとして体内摂取するなどさまざま。
アーリーアダプターはクリーンビューティーを求めるミレ二アル世代
Brightfield Groupが昨年2018年におこなった調査によると、各州でCBDの使用が合法化されたのち、最初にその食指が動いたのはミレ二アル世代だった。CBDは同世代にとって、リラックス効果をもたらしてくれるが、アルコールのように高揚感を感じたり二日酔いしたりすることもなければ、タバコのように中毒性もない、ヘルシーでクリーンなヘルスケアアイテムの位置づけなのだという。
ミレ二アル世代のセレブリティーがメディアでCBDの使用を告白していることもその認知度アップに影響している。歌手で女優のマンディー・ムーアー(35歳)は同世代の女性がターゲットのメディア「Coveteur」のインタビューで「ヒールによる足の疲れが酷かった頃にスタイリストからお勧めされて、Load JonesのCBDオイルを使い始めた。それからは足の疲れとは無縁で一日を終えることができるようになった」と語っている。
Load Jones CBDビューティー分野のリードカンパニー(同社Webサイトより)
異なる業界の大手企業も、流行に敏感でクリーンビューティーを求める層を逃すまいとCBDの取り扱いに積極的だ。
百貨店大手のバーニーズ ニューヨークは今年3月、ビバリーヒルズ店とカリフォルニア店にてCBD関連のラグジュアリーアイテムの販売を開始。同じく高級百貨店のニーマン・マーカスもオンラインと国内の5店舗でCBDのビューティーアイテムを販売すると発表した。化粧品小売大手のセフォラはいち早く昨年2018年よりCBD関連アイテムを取り扱っており、セラムやオイル、クリームなどアイテムのバラエティーも幅広い。
今回、筆者はセフォラで購入したCBDアイテム2点を試してみた。
今回使用したCBDアイテム(筆者撮影)
まず1点目は原材料のナチュラルさにこだわり、主にエイジングケア用品は医薬品レベルだと評判の高い「Flora+Bast」のセラム「AGE ADAPTING FACIAL SERUM」、セフォラのユーザーレビューでも5/5評価を獲得している人気商品だ。そして2点目はミニマルなパッケージデザインと機能性が多くのミレ二アル世代からの支持を得るコスメティックブランド「Milk Makeup」の化粧下地「Grip Primer」。
使用した感想は、どちらも含まれるTHCは0.3%以下なのでハイになることはもちろんないし、これといって「CBDを使っている」と気づかされることもなかった。しかし保湿力や肌の赤みを抑えてくれる点、肌トーンの調整効果など、製品単体としてどちらも五つ星を付けたいほど優れたアイテムだと感じた。CBDに興味がある人は抵抗感を持たずに試してみてほしい。
大手ホテルもCBDオイルマッサージの提供を開始
CBDは非日常やリラックスタイムを求めるレジャーとの相性も良く、ホテル事業大手も続々とCBDマッサージ事業に参入している。
マリオットグループは、アメリカの人気リゾート地、コロラド州アスペンにオープンしたホテル「St.Regis」で2017年以降CBD関連製品の販売を開始している。また、同ホテルに併設されるスパ「Remeda Spa」では、ヘンプ由来のCBDオイルを使用したマッサージを提供しており、身体の痛みや張り、炎症を抑える効果が期待できると、アスペンに多いスキー客から人気のサービスになっているという。本サービス開始後、前年比で37%の増収を達成したという事実も、世間のCBDに対する注目の高さを示している。
その他、コロラド州に位置するヒルトン・ダブルツリーも同様のサービスを提供しており、施術後余ったオイルを持ち帰ることができる点にも高評価が集まるほか、同店で販売されるバスボムやローション、オイルなどの売れ行きも堅調だという。さらに、同じくコロラド州のウェスティンホテルによる、ヘンプから抽出したオイルでおこなうマッサージサービス「Green CBD Spa Treatment」も登山後の疲れた観光客に人気だという。
St.Regis内のRemeda Spa(同社公式Webサイトより)
停滞する法整備 模索を続けるフード産業
2018年末の新農業法による規制緩和以降、国内の多くの都市でCBDを取り入れた食事やドリンクを提供する飲食店が急増した。食事を通して摂り入れることでリラックス効果を感じられたり、セレブリティーがSNSでCBD入りの料理について言及したりしたことも手伝い、たちまち「CBDフード」はブームとなった。
しかし一方で、FDAは「大麻や大麻由来の商品に対する人々の関心が高まっていることは認識している」としながらも、企業に対し、食品にCBDを添加することを禁止している経緯から、その判断に従うかたちで2019年2月、ニューヨーク市の保健局がCBDを使用した食品や飲料の販売を禁止。その他多くの州でも同様に飲食店でCBDフードを出すことを禁止する流れが相次いだ。
ニューヨーク市に関しては2月以降全ての飲食店がCBDメニューを取りやめており、今年10月以降はCBD入りの料理を提供した店に対して罰金が課される方針だという。今年4月にはCBD入りの食品を含む、大麻由来の化合物をどのようにして合法化するかなど、効率的な法律の制定に向けた公聴会がおこなわれる予定で、フード業界のCBDをめぐる動向に注目が集まっている。
現在アメリカのメディアの報道では、CBDには向精神薬が含まれない点や、大麻由来のCBDの使用自体は全ての州で合法である点を消費者に啓蒙するものが非常に多く見られる一方で、連邦州や地域による州法の違いなどから情報が交錯している状況だと感じる。
今年に入り、ドラッグストア大手のCVSやウォルグリーンズもCBDアイテムの販売を開始したことから医療分野でも普及し始め、その裾野はたしかに広がっている。そのメリットが世間に浸透し始めていることから、今後もさまざまなCBD関連製品が世に出てくるだろう。
「CBDの盛り上がりは2016年のビットコインのそれを思い出させる」、使い捨てCBDベープペンを販売するDosistの取締役、Jason DeLand氏はThe New York Timesにこう語る。今後ますます盛り上がるであろうCBD業界の動向から目が離せない。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)