「LEAP」が生み出す次世代の就農モデル。 農業未経験者が挑む新規就農者サポートサービスとは

LEAP seak 栗田紘

我々が生きていく上で最も重要と言っても過言ではない『食』。この食の大部分を支える産業が「農業」だ。そんな農業で働く人たちがどのような環境下に置かれているか、読者のみなさんはご存知だろうか。

実は昨今、農業領域において様々な課題が浮上している。この課題の影響から、毎年新規就農者(新しく農家になった人)のおよそ3割が離農(農業を辞めている)。

卸売業においても離農の影響で生産量が安定しない課題があり、この課題は消費者からすると野菜の高騰にも影響が出てくるのだ。このように、農業領域が安定しないことによる弊害も多いという現状がある。

そんな農業領域の課題、特に新規就農者が直面する様々な課題を解決すべく立ち上がったサービスが存在する。その名も「LEAP」。2019年秋に正式オープンとなるサービスだ。この「LEAP」を立ち上げたseak株式会社代表取締役社長の栗田紘氏は、5年前まで全くの農業未経験者だった。

今回は、栗田氏の農業領域参入への歩みに触れながら、農業が直面する課題とその課題を解決する「LEAP」に迫る。

新規就農者支援サービス「LEAP」とは?

「LEAP」は、“誰でも簡単に0日目で農業参入ができる”新規就農者をサポートするサービスだ。

主なサポート内容は2つ。
一つ目に、農業を始めるのに必要な「3つのモノ」を提供する。この3つのモノは、LEAPマテリアル、LEAPハウス、LEAPシステムだ。

まず、LEAPマテリアル。LEAP独自で生産・調達した農業の三種の神器と呼ばれる、苗・土の袋・肥料を提供する。

苗は、LEAPハウスの横に無農薬で苗を育てることができる自動制御の閉鎖型施設「苗テラス」を設置し、すぐに苗を取れるようにする。そうすることで、近場で苗を直送できることで品質を担保しつつ従来苗にかかっていたコストを15%圧縮できるという。

畑の土を一切使用せず、袋詰めした独自開発の土の中に苗を植えるという“袋栽培”を採用したことで、栽培の安定性が担保できる。また、従来土にかかっていたコストを40%圧縮。

使い終わった土を再利用してリパックができるため従来の方法よりもコストパフォーマンスが改善される。

次に、LEAPハウス。マテリアルを利用し食物を栽培する独自仕様のハウスを提供する。
ビニールハウス一式、水やりのための潅水設備とセンサー設置、井戸や電気のインフラ設備を全て独自仕様で実装していく。

墨田区の先進的町工場と連携して袋栽培に最適化された水やりセンサーを開発、水の管理を自動化。誰でも簡単に最適な水の管理がリアルタイムで実施できる。独自仕様のため安価なコストで抑えられる一方、高い性能も担保できるのがLEAPハウスの魅力だ。

最後に、LEAPシステム。LEAPマテリアルとLEAPハウスの 全データを統合・分析するシステムを提供する。

ハウス内で栽培する植物の茎の太さや葉の形などの生長形質、溶液や栽培環境など成長する過程の誘導要因に関するデータを取得。そのデータを写真と数値でチェックすることができるシステムで、就農者(以下、ファーマー)だけでなく、LEAP運営本部もデータ確認可能な体制を取る。それによりリアルタイムでサポートが入るのだ。

最大6つのポイントのデータ取得や、複数ハウスを横断したデータ比較も可能になっており、より立体的な分析を実現できる。

以上が「3つのモノ」に関してだ。
そして二つ目のサポート内容が、農業を始めるための「ワンストップ参入サポート」。

農地となる場所探し、栽培した食物の販売先探し、ハウスメンテナンスなど、農業を行うには様々な作業が必要になってくる。この作業をワンストップでサポートするサービスメニューを提供してくれる。

「3つのモノ」と「ワンストップ 参入サポート」のおかげで、“誰でも簡単に0日目で農業参入”の実現が可能となるのだ。

農家の課題は“収益”と“時間”

「LEAP」がなぜこのようなサポート内容を提供するのか、それは農家が抱える2つの課題解決を目指しているという。

農家には2つの大きな課題がある。それは、“収益”と“時間”だ。

新規就農者の約4割は年収100万円未満であり、10年の経験を積むことでようやく一人前の農家といわれる。

さらに、実際3,000平米の鉄骨ハウスをベースにしたLEAPのハウスユニットを物理的に立ち上げるには、減価償却費は年間425万円、運転資金は年間1,600万円とかなり大きな金額が必要になるというのだ。

始めるのも、始めてからも一筋縄では行かない農業であるが、LEAPではその課題をパッケージでまとめて解決しようと挑戦している。

まず、減価償却費と運転資金について、ファーマーとしての負担は0円で農業をスタートできる仕組みを作っていく。金融機関や事業投資会社と正式に連携し、リーズナブルな利率でファイナンスを拠出してもらうモデルを組んでいる。ファーマーが投資のリスクを背負う必要なく、初期費用&負債不要を実現できるというのだ。

さらに、LEAPではファーマーの所得保証制度を導入。
例えば、3,000平米でトマトを1年間栽培した場合、ファーマーの農業所得は年間270万円〜1,200万円。どんなに収穫量や販売単価が下振れしても、月額23万円相当は保証される。

この保証は、LEAPが自社栽培区画での4年間の技術開発と所得実証をしてきた確固たる証拠があるからだ。

これにより、収益面の課題を解決。そして、LEAPのサポート内容により0日で農業参入できることで、時間の課題解決にも繋がるという。

大手広告代理店勤務からベンチャー企業の立ち上げ…そして農業へ

これからファーマーになる人にとっては活用のしやすい「LEAP」を生み出した人物が、seak株式会社代表取締役社長の栗田紘氏。実は、5年前までは全くの農業未経験者だ。

栗田氏は大学で情報工学を専攻。卒業後は大手広告代理店に勤務、テレビ番組に関わる業務を行う。その後、大学時代に培ったITの知識と、広告代理店で培ったマスメディアやエンタメ知識を活かし、電子番組表制作の立ち上げに携わる。

そして、次に足を踏み入れた領域は、電動車椅子の開発を行うものづくりベンチャーだった。大手企業から一転ベンチャー企業へ。創業期の1年間をサポートするメンバーとして参画し、名もなきスタートアップ企業を軌道に乗せていったのだ。

これらの経験から、栗田氏は“ある想い”を抱くこととなる。

栗田 紘(以下、栗田氏):「ゼロからイチを作る仕事に本能的な憧れや嫉妬を抱くようになったんです。広告代理店の時は、単純にCM枠を売る広告サポートではなく新しい番組の立ち上げに関わり、電子番組表制作やスタートアップの時も立ち上げに関わって。

ゼロからイチを作っていく仕事の楽しさを感じると同時に、自分の立場上ひとりで究極のゼロイチを生み出すことはできなかった。『自分で究極のゼロイチを生み出したい!』と思っていた矢先、父親が体調を崩しまして。身近な人の健康を考え出したら、食に対する興味関心が高まって、自分ごと化し始めたんです。」

“ゼロからイチを生み出すこと”と“食”というキーワードの合流地点に、“農業”があると気づいたものの農業領域でゼロイチを生み出すためには農家にならないと難しいと考え、2014年から神奈川県秦野市の先進的農家に弟子入り。

1年の研修期間を経て、2015年に神奈川県藤沢市から認定を受けた農家として現在も農業を営んでいる。

また、現在は栽培している5品目の野菜(中玉トマト、ミニトマト、いちご、きゅうり、ズッキーニ)を「ゆる野菜」という独自ブランドとして数社の販売先に卸している。

この農業の経験からビジネスで得たヒントについて栗田氏はこのように語った。

栗田氏:「農業はビジネスで全く攻められていない領域でした。と同時に、参入障壁がかなり高い印象を受けたんです。

農業をやりたいと思っても、一人で立ち向かわなければいけないモデルになっていて。
農業には農地を見つける、資金を集める、設備を整える、植物を育てる、収穫物を売るというステップがありますが、全て自分一人で失敗とチャレンジを繰り返して…。それが参入障壁を高くしていると農業をしたことで実感しましたね。
であれば、この参入障壁を低くするサービスを生み出せばいいと考えたんです」

このように実際に農業を体験した栗田氏だからこそ、思いついたビジネスだと言えるのではないだろうか。

サービス展開の課題は“お金集め”と“仲間集め”

「LEAP」は2019年秋に正式オープンを予定している。
着々とオープンに向けた準備を進めていく中で、課題となっているのが“お金集め”と“仲間集め”だと栗田氏は話す。

栗田氏:「LEAPハウスの立ち上げにはかなりの資金を要します。会社で例えるなら、所有と経営執行の分離のように、投資家が用意した箱(ハウス)を、ファーマーが経営する形を取るので、この資金を投資事業として拠出してくれる人が必要です。」

資金の初期費用額はおよそ9,000万円にも及ぶ。この額を個人で負うことは非常に困難であるものの、投資することでリターンを考える金融資本はあるため、そこのマッチングを今後いかに進めていけるかがLEAPを運用する上で重要となっていく。

そのため、民間の金融機関や事業会社との連携の他に、政府レベルと独自のスキームを組むことも想定し、課題に向き合っている。

そして、もう一つ重要なのが仲間集めだ。

栗田氏:「そもそも農業をやる人の裾野をどうやって広げていくかが課題です。現状、農業に対して、大変そうだとか、儲からないんじゃないかとか、そういったイメージを持っている人は多くいます。

このイメージを持っている人たちに、僕らの農業モデルを理解するのには丁寧なコミュニケーションが必要と思っていて。 なので、これからの農業は僕らのようなモデルだというイメージを理解してもらうことから始めなければなりません」

簡単に農業ができる、このイメージを抱くことはなかなか難しいだろう。なぜなら、今までの農業は、収入や時間の課題があったのは事実だからだ。

しかし、LEAPを利用することで、従来のある種泥臭い作業から、PCやスマホでデータを分析するといったスマートな作業へと生まれ変わる。

スマートな農業というイメージを定着させるべく、マスメディアやプロモートを戦略的に活用し、ブランディングを強化することで、新しい農業のイメージを刷り込んでいくことが、仲間集めの近道になると栗田氏は述べている。

原動力は「農業の可能性とエネルギーを引き出したい」という想いだった

LEAPは日本の農業生産高5兆円、アジアの農業生産高100兆円(推定)の市場規模を目指している。中央アジアや西アジアはやっと通信ネットワークが引かれ始めているような場所だ。農業技術が全く整備されていない状況に置かれている。

栗田氏:「全く農業技術のない環境や場所でも、いきなり農業が運用できるような農業技術プラットフォームを目指すことが、僕らのサービスをやっていく意義があると思っています」

この目標の実現に向け、LEAPでは主に二つの取り組みを考えている。
一つは国際協力を主軸とする機関との連携だ。そういった機関には民間企業の技術輸出実証事業も存在しており、その事業内において農業は大きなテーマとして掲げられているため、事業連携は重要な要素になってくるだろう。

そしてもう一つは商社との連携だ。海外のサプライチェーンを持つ彼らから、現地政府や現地パートナーに対してLEAPをセールスしてもらうことで、アジアの市場規模を拡大させていく狙いを持つ。

もちろん日本においても同様に市場規模の拡大に努める。年間2万人の就農者を増やすという目標を政府は掲げているため、そこをLEAPで全て補える規模に拡大し、新規就農者の拠出機関という形を目指す。

なぜ、ここまで大きな目標を掲げ、目指していくのか。最後に、栗田氏を突き動かす原動力に迫ると、このように語ってくれた。

栗田氏:「一番のコアにあるのは“人の可能性やエネルギーを引き出したい”という想いです。エネルギーに蓋をされると、ある種怒りに似た感情が出てくると思っていて、日本の農業にはそれがかなりあるなと。離農率30%以上とか、10年下積みしないと一人前になれないとか、可能性を抑圧している以外の何ものでもなくて。

僕自身の積んできたキャリアが今の農業領域にいるプレイヤーの方々と全く違うからこそ、可能性やエネルギーを引き出せると感じました。このコアが原動力となり、僕を突き動かしてるのかなと感じますね」

取材・文:阿部裕華
写真:西村克也

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