移民流入ではなく「国民流出」が大問題へ、南・東ヨーロッパで加速する人口減少

少子化が進む日本で度々話題となる「合計特殊出生率」。女性1人が15〜49歳の間に産む子供の平均数を示す指標だ。

日本では2017年に生まれた子供の数が94万人と2年連続の100万人割れとなり、合計特殊出生率は1.43と前年の1.44から低下した。

国が人口を維持するために必要な合計特殊出生率は、死亡率の低い国であれば2.1ほど、そうでない場合は2.5〜3.3といわれている。

世界銀行によると、世界全体の平均合計特殊出生率は2016年時点で2.4。世界人口の維持に必要といわれる2.33を上回っており、世界全体では人口は増加傾向にある。

しかし、これはアフリカ諸国の高い出生率を反映したもので、欧州、北米、アジアなどでは概ね低下傾向となっている。たとえば、ニジェールの出生率は7.2と非常に高い。またソマリア6.3、コンゴ6.1、マリ6.1、チャド5.9などと多くのアフリカ諸国は3.0を上回っている状況だ。一方、アジアでは韓国が2018年に0.98を記録したほか、香港やシンガポールも1.2ほどと低い水準となっている。

出生率が低い国は、少子高齢化が進み自然と人口が減少していくことになる。人口減少は労働力の縮小につながることから、各国は出生率を改善するためにさまざまな取り組みを実施している。しかし、出生率が低い国において、状況が改善する兆しは見えていない。

こうした状況に追い打ちをかけるように、人口流出が加速し、人口減少問題がかつてないほどに悪化している国々が出てきている。

ルーマニア、ハンガリー、リトアニアなど南・東ヨーロッパの国々だ。また、この人口流出問題はスペイン、イタリア、ギリシャ、ポルトガルにも波及している。流入移民に対して厳しい目が向けられているフランスとは対称的に、これらの国々では人口流出が問題視されているのだ。

30年で20%近く減少した国も、低迷する出生率と加速する国民流出

他の地域に比べ欧州で移民流入や人口流出が問題視されやすいのは、欧州圏では人の移動が比較的自由であるからだと考えられる。

1985年のシェンゲン協定により、欧州の協定加盟国間の国境をパスポートなしで通過できるシェンゲン圏が誕生。2018年末には、欧州議会でブルガリアとルーマニアのシェンゲン協定加盟の是非を問う投票が行われ、協定加盟に半数以上の賛成票が投じられた。ブルガリアとルーマニアが加盟すれば、欧州域内でシェンゲン圏に入っていないのはクロアチア、キプロス、英国、アイルランドの4カ国となる。

状況がもっとも深刻化している国の1つルーマニア。出生率は1.6と少子高齢化が進み、若年層の西ヨーロッパへの人口流出が激しく、この30年で人口は2300万人から1960万人と、300万以上減少した。現在の総人口の18%に相当する数がいなくなったことになる。


(画像)ルーマニア首都ブカレスト

ルーマニアは欧州のなかでも高い経済成長率を誇っていたが、国民の生活水準は改善しておらず、多くの国民は希望を見いだせず、西ヨーロッパに移住したという。移住先で人気が高いのは北欧やドイツだ。

欧州メディアEuractivが伝えた社会学者コンスタンティン・マイロン氏の発言によると、国を出たルーマニア人は移住先での生活が困難になっても、母国に戻ってくる人は少なく、別の国に移住するケースが多いという。

かつては主に困窮した低所得層の国外脱出が多かったが、最近では高度スキル人材の流出も顕著なっている。PwCによる推計では、ルーマニアにおける高度スキル人材の流出によってもたらされた経済損失は100億ユーロ(約1兆2500億円)と同国GDPの6%に上る。

ルーマニア政府は人口流出に歯止めをかけたい考えだが、多くの専門家はこの流れはしばらく続くだろうと見ている。

ブルガリアも少子化と人口流出が重なり、この30年ほどで人口が900万人から710万人に減少。出生率は1.5。PwCが推計する高度スキル人材流出による経済損失額は62億ユーロ(約7800億円)で、GDP比13%以上に相当する損失を被っているという。

旅行先として人気の高いギリシャも例外ではない。2011年頃をピークに人口は減少に転じ、出生率も低いままだ。2011年の人口は1112万人だったが、2017年時点では1077万人に減少。出生率は1.26とかなり低い。

非営利学術団体HAGGの調査によると、このまま低い出生率が続き、移民流入がない場合、2050年にはギリシャ人口は830万人まで減少する可能性があるという。


(画像)ギリシャ

人口減少がもたらす問題意識の差

人口減少問題が深刻化する欧州の国々では、国民の問題意識に変化が生まれている。

欧州の諸問題を分析するシンクタンク、欧州外交委員会(ECFR)が欧州諸国を対象に実施した世論調査では、人口減少問題に直面する国とそうでない国の人々の意識に大きな差が生まれていることが明らかになった。

人口流出問題を懸念していると回答した人の割合は、ルーマニアが60%近くとなり最大となった。一方、同国で移民流入問題を懸念していると回答したのは10%ほどにとどまった。

この対局にあるのがスウェーデンやオランダなどだ。人口流出に対して懸念していると回答した割合は数%にとどまった一方、移民流入問題へは両国とも40%以上が懸念していると回答したのだ。

ルーマニアと同様に、人口流出への懸念割合が高かったのは、ハンガリー、スペイン、イタリア、ポーランド、ギリシャなど。

スペイン、イタリア、ギリシャに至って、50%以上の人々が人口流出を防ぐために海外移住を制限することに賛成すると回答している。

人口減少を食い止めるために、海外からの移住者受け入れを積極的に進めている国もある。

出生率1.3で、最近人口減少に転じたポルトガル。同国アントニオ・コスタ首相は人口問題を優先課題に掲げ、積極的に取り組む姿勢をさまざまなメディアでアピールしている。


(画像)ポルトガルのアントニオ・コスタ首相

現在ポルトガルの人口は1040万人ほど。低い出生率を考慮した場合、同国の労働力を安定させるためには毎年7万5000人の労働者を受け入れる必要があるという。ポルトガル政府は若年層の受け入れを強化するために、学生ビザの取得要件緩和や起業家誘致のための施策を導入した。こうした施策がどれほどの効果を発揮するのか、その成果が待たれるところだ。

少子化、人口減少、移住者の受け入れ、これらは日本でも無視できない問題になっている。人の移動が活溌な欧州での動向は、先行事例として何らかの示唆を与えるものになるはずだ。

文:細谷元(Livit

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