ここ数年、Z世代が労働市場に参入するようになってきた。Z世代とは、定義者によって若干前後はあるが、「1997~2012年の間に生まれた者」とされるのが一般的だ。米国のコンサルティング企業、ブリッジワークスによれば、米国におけるZ世代人口は6,100万人で、X世代の数を超え、団塊の世代の3分の2を占めるそうだ。

ミレニアル世代を含め、今までのどの世代とも違うといわれるZ世代。仕事探しの方法や就職観にも、彼ら彼女ら独特の考えと姿勢で取り組んでいる。


Z世代にとってモバイルテクノロジーは体の一部といえそう © Nben54 (CC BY-SA 4.0)

モバイルテクノロジーの申し子、Z世代

Z世代のZ世代たるゆえんはモバイルテクノロジーの存在にあるだろう。「デジタル・ネイティブ」と呼ばれるこの世代は、インターネットやコンピュータ、携帯電話のない生活をまったく知らない。生まれてからずっとモバイルテクノロジーに囲まれて育っている。

彼ら彼女らにとって、SNSやSMSを通じて他者と瞬時に、それも顔を合わせることもなしにコミュニケーションを取り合うことは当たり前のことだ。YouTubeやライブストリーミングなどを通し、世界中から発信される映像を好きな時に好きな場所で見る。物理的な距離は妨げにはならない。

格安航空会社の台頭やAirbnbの普及で手軽に海外に出かけ、さまざまな価値観や文化に直接触れるチャンスも増えた。スクリーン上での視聴に加え、こうした経験のおかげでZ世代はリベラルだ。「グローバル・シチズン」ともいえ、自分とは違う人種や宗教はもちろん性的指向をもオープンマインドで受け入れることができる。

金銭面からいうと、堅実派だ。ブリッジワークスによれば、20代ですでに引退後の貯蓄計画を持っているZ世代は対象者の35%、10代で何らかの貯金を始めている人は12%に上った。Z世代は2008年に起こった金融危機がきっかけで、世界が景気後退に見舞われる中育った。大卒の親が依然として学生ローンを抱えているのを目にし、また親もそのことを話して聞かせたことも影響し、財布のひもは堅い。

またZ世代は常にストレスに悩まされているといわれる。成長過程で親が金融危機に遭遇し、世界各地でテロや紛争が日常的に起こり、気候変動による天災も珍しくない中を生きているのだから当然のことなのかもしれない。

アメリカ心理学会が先ごろ発行した『ジャーナル・オブ・アブノーマル・サイコロジー』誌によれば、2017年現在、抑うつ状態を訴える割合は、16~19歳・20~21歳の調査対象者では各々約15%、22~25歳では約13%。ほかの世代と比べ高い割合になっている。将来の不確実性への不安がつきまとい、極力危険を回避しようと用心深い行動を取る傾向がある。

テクノロジー系をメインに、他業種にも興味

デジタル・ネイティブである特性を生かし、Z世代に人気の職種はやはりテクノロジー系だ。つい先だって発表された、米国の求人企業レビューサイト、グラスドアによる『グラスドア・エコノミック・リサーチ』によれば、一番人気はソフトウェアエンジニア。そしてソフトウェアデベロッパーが続く。テクノロジー系の職業に就こうというZ世代は全体の5分の1に上る。

調査当時、求人募集中だったソフトウェアエンジニア職の年間給与の中央値は9万8,500米ドル(約1,100万円)。米国労働省労働統計局の2017年第二四半期の統計によれば、16~19歳の年間給与の中央値は2万1,944米ドル(約240万円)、20~24歳が2万7,300米ドル(約300万円)というから、ソフトウェアエンジニアを目指せば、経済的な不安は解消されそうだ。求人件数も6万件に上り、機会も多い。

人気企業もしかり。トップ3を、1位IBM、2位マイクロソフト、3位グーグルとテクノロジー企業が占める。テクノロジー系はミレニアル世代にも人気だが、より多様性を見せるのがZ世代。ミレニアル世代の場合、人気企業トップ10のほぼすべてをテクノロジー系が占めるのに対し、Z世代の場合、メディア・エンターテインメント・グループのNBCユニバーサルや、航空機・宇宙船の開発製造を手がけるロッキード・マーティンといった別業種の企業がランクインしている。

トレーニングを提供する職場に好感


上司や同僚とは、職場内だけでなくプライベートでも「仲間」 © Pxhere

Z世代は職場環境にもこだわりがある。特に就職先を選ぶ際に重要視するのは、社内教育が充実しているかどうかだ。これには彼ら彼女らが学生ローンを敬遠し、大学に行かなかったことが関係している。YouTubeを見て育っただけあり、2~15分程度のユニットで展開されるビデオでのトレーニングを好む。さらにオンデマンドで、大学並みのレベルであれば言うことはない。

建物内の一体型システム設計を行う、米国のコンバージェント・テクノロジーで、テクノロジーのシステムインテグレーション産業に職を求める学生の訓練を行い、雇用を行っているライアン・マーシャル氏によれば、Z世代は自分に合う企業文化があり、充実した業務経験を提供してくれる企業で働きたいと考えているそう。彼ら彼女らが望むのは、ダイバーシティとインクルーシブネスが浸透した企業文化だ。

センター・フォー・ジェネレーショナル・キネティックス(CGK)で、ミレニアル世代・Z世代を専門に研究するヘザー・ワトソン女史は「Z世代は社内スタッフとの公私にわたっての交流を大切にする」と言う。CGKは米国を本拠地に、組織内の世代間ギャップを克服するため、リサーチに基づいたアドバイスなどを行う企業。Z世代にとって、職場での上司を含めた人間関係にワークとライフの明確な線引きはないそうだ。仕事上では上司のフィードバックを常に求める。テクノロジーで何でも即時に行うことになれたデジタル・ネイティブならではの特質といえるだろう。

CGKの創設者で、Z世代に対し、広範にわたり研究・調査を行うデニース・ヴィラ博士によれば、職務を真剣に考えているものの、職場には働いて楽しい環境を求める傾向にあるという。フレキシブルなスケジュール、日数が十分で取得しやすい有給休暇も大切だ。

対人ベタでも、企業の功績に貢献


リテールもZ世代が興味を持つ職種だが、ソフトスキルが不可欠 © natasha gepp (Pixabay)

Z世代は、団塊の世代やミレニアル世代など、以前の世代ではできて当たり前だったことができないという、雇用主の企業にとっては面倒な点もある。対人的な交渉・意思疎通・指導などを行う能力、ソフトスキルに欠けるという。なので、電話での応対やビジネスメールの書き方、顧客サービスに関しては教育が必要。携帯電話などを通してのコミュニケーションは多くとっているが、面と面と向かってという経験は少ないのだ。

それでも、企業はZ世代を雇用するメリットを見出している。教育などの投資を行えば、Z世代はすぐにそれにこたえてくれるという。ほかの世代より、努力しなければ成功しないという意識があるためだ。またテクノロジーへの精通ぶりは、ミレニアル世代をもしのぐものであり、さまざまなスキルをすぐに身につけ、ビジネス拡大と好収益に直接的に貢献してくれる。

ダイバーシティとインクルーシブを重視する企業のメリットは、社風にひかれて入社するZ世代のスキルと能力を企業活動に取り入れられることに限らない。インクルーシブを軽視する企業と比較すると、収益や業績向上面、革新的で活発な企業活動の面など、さまざまな点で秀でている。

就職にあたってZ世代がとる興味深い行動に、ネット上にある企業の「レビュー」のチェックがある。グラスドアの調査では、調査対象となった求職者の70%もが企業のレビューを見て参考にするという。好感を持つのは、積極的にレビューに対して返信したり、プロフィールをアップデートしたりする企業で、約70%がそうした企業に応募するそうだ。

企業側が発信するプロフィール情報には、企業に都合の良いことばかりが並べられ、偏りがある。実際そこで働いたことがある人などの意見を聞けてこそ、納得できる判断ができるというものだ。デジタル・ネイティブでありながら、堅実であるZ世代の特質は、こんなところにも見てとれる。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit