ウェアラブル端末が注目されて久しいが、最も身近なウェアラブル(=着用できるもの)は、衣服だろう。
朝起きてから寝るまで、風呂に入る時間を除けば、人間は常に服を着ている。スマホや時計や鍵を忘れて出かけることはあっても、服を着ないで外に出ることはない。
当たり前すぎて脳裏にも浮かばない事実だが、服にハイテク機能やセンサーが埋め込まれ“スマート”な働きをしたらどうなるか?
まだ一般的とは言えないが、数年前より「スマート(コネクティッド)・アパレル」と呼ばれる衣服型デバイスの研究が進んでおり、一部企業からは発売もされている。
スマート・アパレルとは何か?私たちの社会にどう影響を与えるのか?進化し続けるスマート・アパレルの最新情報をお届けする。
社会問題の解決も期待される、次世代型の衣服「スマート・アパレル」
改めて、スマート・アパレルとは何か?スマート・アパレルとは、小型センサーや導電性繊維などを生地に取り入れて開発された、衣服型のデバイスを指す。
通常の繊維素材にはないICT(情報通信技術)機能などを備えることから、様々な分野での利用が期待されている。
特に、医療・健康やフィジカル分野では、社会問題の解決への取り組みも始まっている。
スマート・アパレルの範囲は広く、スーツや上着、靴下、スポーツウェア、水着まで多岐に渡る。
開発もグーグルやサムスンなどのハイテク企業から、トミー・ヒルフィガー、リーバイス、ラルフ・ローレンといったアパレル大手、ニッチな分野に特化した中小企業まで、分野も規模も多様な企業が参入している。
スマート・アパレルはどのようなことができるのか?
では実際、スマート・アパレルはどんな働きをするのか?こちらも非常に幅広い。
例えば、サムスンが開発したスマート・スーツは、デジタル名刺交換、携帯電話のロック解除、他のデバイスとの対話が可能だ。
ラルフ・ローレンのポロテックTシャツは、スマートフォンのアプリと連動して、フィットネスの記録がつけられるようになっている。診断結果によっては、どんなエクササイズが必要かのアドバイスもくれる。
アンダーアーマーのスマート・パジャマは、体の熱を吸収し、赤外線を放出して睡眠の質を高める効果があるそうだ。
ピザハットはピザの注文機能が付いているスマート・シューズを開発したと発表している。
以上はほんの一例であり、まだまだユニークなスマート・アパレルはたくさんある。一重に「スマート」と言っても、スマートフォンのように複数の異なる機能を搭載したデバイスと違い、それぞれが用途や目的に応じた「最適な役割」をピンポイントで果たしているのが、現段階のスマート・アパレルであると言えるだろう。
しかし、今はまだ機能面の開発がメインで、ファッション性にはあまり手が回っていないのが現状だ。
サイズや色展開、デザインといった面では展開が少なく、服として「身につけたい」ものは残念ながら多いとは言えない。今後はファッショナブルかつ機能的なスマート・アパレルの開発が望まれる。
洗濯しても大丈夫?
スマート・アパレルと他のデバイスとの大きな違いは、洗濯をしたり干したりする必要があるということだろう。実際に何度も洗濯をして大丈夫なのか?
米国のスタートアップSirenが開発した、Bluetoothセンサーが埋め込まれた糖尿病患者用のスマート・ソックスは、100回以上洗濯しても問題ないことが示されている。また、乾燥機にもかけることができ、充電も必要ないとのことだ。
オーストラリアのファッションテクノロジー会社Wearable Xが開発したヨガパンツ「Nadi X」は、添付のバッテリーを外しさえすれば、洗濯機で洗うことは何の問題もないという。
日本では、東京大学・染谷隆夫研究室のスピンオフベンチャーとして設立されたXenomaが、e-skinというセンサー搭載型のボディスーツを開発したが、こちらも100回以上の洗濯にも耐えうることが証明されている。
スマートアパレルは、まだ一般的に出回っているとは言えないが、商品によっては購入も可能だ。その場合は、開発メーカーの公式サイトから注文するのが良いだろう。
現段階では海外メーカーによる海外向け商品が多いため、故障・返品の際の規約には気をつけよう。
では、最新のスマート・アパレルをいくつか紹介する。
ヨガの動きを取り込むパンツ「Nadi X」
先に触れたヨガパンツのNadi Xは、自宅でエクササイズを行う時に最適のウェアだ。
体の動きをセンサーが読み取り、Bluetoothを通してスマートフォンへ取り込まれ、自分のポーズを確認できる。専用アプリ(iOSのみ)に接続すれば、正しいポーズにするためのフィードバックももらえる。
筋肉の回復を促すウェア「アスリート・リカバリー」
米国のスポーツウェア大手アンダーアーマーが開発したスマート・ウェア「アスリート・リカバリー」。
服の内側にプリントされたバイオセラミックは身体の熱を吸収し、遠赤外線として反射させる機能がある。これにより筋肉の回復を促し、リラックス効果が得られるという。
同社はこの機能をベッドのシーツや枕カバーにも採用しているという。
スマホの操作ができるジャケット「Commuter x Jacquard」
リーバイスとグーグルが共同開発したデニムジャケット「Commuter x Jacquard」は、袖部分にセンサーが組み込まれ、Bluetoothを介してスマートフォンに接続することができる。
これを触れたり動かしたりすることで、音楽を聴いたり音量調節をしたりなど、スマホの一部操作が可能になる。地図アプリも使用できるとのことだ。
男性用・女性用とあるが、色はまだ一色のみ。新しい機能は、グーグルのアップデートにより自動的に追加されていく。
ランニング中の足の動きを取り込む「Sensoria Fitness Socks」
靴下に組み込まれたセンターが、歩行中もしくはランニング中の足の動きを読み取り、どのように着地しているかを検出する。
データはスマートフォンへ送られ、フォームの確認を画面ですることができる。ランナーの記録向上につながる画期的な商品だ。
また、歩数やスピード、高度と移動距離も割り出すことができるという。
糖尿病患者の壊疽(えそ)を防ぐ靴下「Siren」
糖尿病が重症化すると、動脈硬化などから足が壊疽(えそ)になる危険性がある。ひどい場合は切断も余儀なくされる怖い病気だ。
これを防ぐために開発されたスマート・ソックス「Siren」。
靴下の繊維全体に埋め込まれた小さなセンサーが足裏6カ所の温度をチェックし、炎症のサインを感知するとスマホアプリにアラートが送られるというものだ。
商品は定期的に取り換える必要があるため、月額での定期購買制をとっている。現在はアメリカ国内のみでの販売している。
UVレベルを検出する水着「Neviano」
フランスのアパレル企業Spinali Designの水着「Neviano」には、取り外し式の防水センサーが付いており、これで日光のUVレベルを測定できる。
もしUVが強く日焼け止めを塗る必要がある場合には、スマホにアラートが送信される。また、本人だけでなく、友人やパートナーなどに送ることもできるという。
水着は子供用から大人用、男女ともにあり、色やデザインも豊富だ。センサーは充電なしで約280日間持つという。
赤ちゃんの安全な睡眠を見守る「Owlet Smart Socks」
米国のOwletが開発した、赤ちゃん専用のスマート・ソックス「Owlet Smart Socks」。睡眠時に履かせておくと、赤ちゃんの心拍数や血中酸素濃度をモニタリングしてくれる。
データはBluetooth経由でリアルタイムでスマホに送られ、最大約30mまで通信が可能だという。
睡眠中の赤ちゃんの呼吸に異常がないかがわかる、パパやママを安心させる優れものだ。
文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)
eye catch img :Nadi X – Smart Yoga Pants that Guide Your Form