IKEAのリサーチラボ「スペース10」が考案。ブロックチェーンを活用した太陽光発電・電力売買システムとは?

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世界各国で政府やNGO/NPOを中心に温室効果ガス削減の取り組みが進むなか、企業による取り組みも増えてきている。

スウェーデン家具大手IKEA傘下のリサーチラボ「スペース10」は、ブロックチェーンを活用した太陽光発電・シェアの仕組みを公開した。「SolarVilla」と呼ばれるこのプロジェクトは、ブロックチェーンを活用して近所の電力売買を透明性のある形で直接行うことを可能にし、第三者の介入を無くしコスト削減に繋げている。

今回は、太陽光発電の可能性と現状を俯瞰し、スペース10が考案したSolarVillaの詳細をお伝えする。

太陽光発電の威力と有用性

ユネスコとEolss社が共同出版する「Desalination and water resources」には、平均して太陽は地球の表面に年間約9万テラワットのエネルギーを供給するという結果が出されている。それに対して今日グローバル規模での年間電力消費量は、約20テラワット。

つまり、私たちが現在消費しているエネルギーは、太陽から地球の表面に到達する電力の4万分の1以下ということだ。この数の比較を図で表すと以下のようになる。別の見方をすれば、1年になんと2時間だけ太陽の電力を集めることができれば、現在の需要をすべて満たすことができることになる。

さらに太陽光発電はここ数十年の間に毎年より安くそしてより簡単になり、その急速な技術の進歩とパネルの普及はほぼ確実に続くものとみられている。アドバイザリーファーム・ラザードが2018年11月に発表した「年間エネルギー効率化分析(LCOE バージョン12.0)」では、代替エネルギー技術、特にユーティリティ規模の太陽光および風力からの発電コストの継続的な低下を示している。

そして以下の図から分かるように、風力発電や太陽光発電のシナリオは、代替エネルギーコストとして石炭や原子力などの従来の発電のコスト範囲に限りなく近づいてきいる。

LAZARD’ SLEVELIZED COST OF ENERGY ANALYSIS — VERSION 12.0 P6

太陽光発電の世界的な設備容量も急激に増加しており、2015年末に約227GWeに達したと世界エネルギーカウンシルは報告した。国別で言うと、ドイツが過去10年間に太陽光発電設備の導入を主導しており、その他中国、日本、イタリア、そしてアメリカが主導する形で続いている。

国際エネルギー機関の2018年の見通しによるとこの傾向はさらに続き、さらにその競争力の強化により、太陽光発電は2025年までに風力発電、2030年頃には原子力発電、そして2040年以前には石炭の発電力を超すと予測されている。

この傾向に伴い、太陽光電力供給システムの柔軟な運用がこれまでになく重要になってきている。太陽は断続的であり安定して一定の量を供給する為にはストレージで貯蔵することが不可欠である。多くの国で、それらに対応する技術の開発や、これまでにない大規模な新しい方針への柔軟性が求められている。

IKEAのリサーチラボ、スペース10によるSolarVille構想

この太陽光発電の有用性を追求しているのが、コペンハーゲンにラボスペースを設けているスペース10だ。出資は大手家具メーカーであるIKEA。スペース10は、より持続可能でより良い暮らし方を創造するという使命の下、様々な研究と設計を行っている。

この太陽光発電プロジェクトは「SolarVille」と呼ばれ、太陽エネルギーの資金調達、生産、配給、そして消費のための最先端技術とデジタルサービスをより効率的な方法で活用する方法を模索するのを目的としている。

「気候変動を阻止し、その破壊的な影響を管理または軽減するために増大するコストを削減したいのであれば、太陽光に投資する以外に選択肢はほとんど残っていない。太陽光発電の利点は非常に大きく、グローバルなエネルギー供給システムにおけるその将来の中心的役割は保証されている。私たちが直面している唯一の課題は、その成長を加速させる方法手段を作ることだ」とスペース10はそのホームページで語っている。

現在、SolarVilleプロジェクトは1:50の縮尺のモデル村を形成しており、それは太陽から電力を集める小型のソーラーパネルで動くミニチュアの村だ。すべての建物はワイヤーで繋がっており、どの家庭でもエネルギーを共有できるようにするマイクログリッドを形成している。

SPACE10 

村の電力供給の仕組みは、以下の6ステップで説明されている。

  1. 太陽の光を加える

    人類が必要とするエネルギーよりはるかに豊富な量を与えてくれる無料の太陽光が、自然界には存在する。まずその光を村に与える。
  2. ソーラーパネルを取り付ける

    太陽からのエネルギーを受け取るための太陽電池パネルを設置する。一度インバーターと共に設置されれば、それ以後は初期投資以外は無料で、持続的に再生可能エネルギーを供給してくれる。
  3. ストレージシステムを取り付ける

    太陽は常に照っているわけではないため、必要なとき常時電力を確保するために、受け取ったエネルギーを蓄える必要がある。その為のストレージシステムを取り付ける必要がある。ストレージは技術的にも価格的にも急速に発展しているため商業的にも現実できる。

    また、他者に共有できることに加え、エネルギーを貯蔵することは、別の技術を用いて他に役立てることも可能だ。一例として太陽エネルギーは水素に変えることが可能であり、それはまた別の選択肢も生むだろう。
  4. 電力を分配する

    コミュニティ内の世帯間でエネルギーを直接接続して分配する。ワイヤーは近所の世帯を簡単につなぎ、独立型のマイクログリッドを形成する。
  5. ブロックチェーン技術でシステムを管理する

    ブロックチェーン技術は、エネルギー資源を広く展開するための安全で分散型の取引プラットフォームを構築する。ブロックチェーンは人々が直接ピアツーピアベースで取引すること、そして取引内容の保存することを可能にする。分散元帳テクノロジーは、電力の流れを記録および管理するために使用され、トランザクションの検証と記録、および特定の条件が満たされたときの自動実行を可能にする。

    これにより取引コストが削減されるだけでなく、透明性とセキュリティが向上し、システムへの参入障壁が低下する。従来電力会社を通じて行われていたこの過程での仲介者の削除により、手頃な価格のクリーンな電力が人々へ提供される。

  6. SPACE10

  7. グリッド外のエネルギーも組み立てる

    上記の段階は今日全て可能な技術であり、SolarVilleはそれを実証している。さらにこのシステムで特記するべきは、このシステムはコミュニティから電力を買っており、その支払はそのコミュニティに留まっているということ。それは、コミュニティのエンパワーメントにも繋がる、とスペース10は語る。

このプロジェクトの概念は、昔でいう自給自足の原理だ。多く田んぼを持ち米を生産する、隣人の米を買っているため、その地域の米はそこで共有して他からは買う必要がない。輸送のためのエネルギーやコスト、商社の介入の必要性もない。同じ原理で、村の一部の人々はより多くの太陽電池パネルを設置することによって、または自世帯で少ないエネルギーを消費することによって、過剰なエネルギーを隣人に分配することができる。

ブロックチェーン技術のプラットフォームは、仲介者なしで直接その余剰エネルギーを地域に売ることを可能にし、取引は安全で透明な台帳に記録される。スペース10によると、このデザインは使いやすくかつインストールしやすいものであり、ブロックチェーンを実行するソフトウェアはすべて無料ということだ。

SolarVilleは、太陽光パネル、マイクログリッド、ブロックチェーンなどの技術を組み合わせて使用することで、持続可能な新たな機会を創出するプロジェクトだ。その地域のエンパワーメントにも繋がり、シェアリングエコノミーとしても注目されるだろう。今後はその実用性に期待したい。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit

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