「ワイン発祥の地」から「ブロックチェーンの中心地」へ、36歳首相が主導するジョージアの野望

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電子政府の取り組みで世界最先端を行くといわれるエストニア。

税務申告、医療記録の取得、自動車の購入など、通常であれば役所でさまざまな書類の提出が求められるが、同国ではそのほとんどをオンラインで完結することが可能だ。

そのエストニアのすぐ後を追う国々がいくつか存在するが、そのなかでも「南コーカサス」諸国の動きに少しずつ関心が集まり始めている。

日本では聞き慣れない南コーカサス。アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア(グルジア)、これら3国の総称だ。北はロシア、南西はトルコ、南はイランと国境を接し、西は黒海、東はカスピ海に面している。

3国とも冷戦時代はソビエト連邦構成国であったが、ソ連崩壊を受け独立を果たした。エストニアも冷戦時代にソ連に併合され、ソ連崩壊によって独立。エストニアを含むバルト三国と南コーカサス諸国は同じような歴史をたどっている。

アゼルバイジャンはエストニア発の電子政府システムをエストニア以外で初めて導入した国となり、電子国家としての地位を確立しようと取り組みを加速しているところだ。アルメニアも2000年頃から欧州連合などの支援を受け、行政のデジタル化を進めている。

一方、ジョージアではブロックチェーンを活用した土地登記システムの導入をきっかけとし、ブロックチェーンによるガバナンス強化を進める計画だ。

世界銀行の「ビジネスのしやすさランキング」でかつてジョージアは100位以下であったが、2008年に15位、現在では6位にまで順位を上げており、同国の経済改革には高い評価が与えられている。

南コーカサスでいま何が起こっているのか。今回はジョージアの最新動向から、同地域が注目を集める理由を探ってみたい。

「ワイン発祥の地」ジョージアと日本の関係

ジョージアは、九州2つ分ほどの広さの国土(約7万平方キロ)に370万人が暮らしてる。首都はトビリシ。

ワイン生産が盛んで、紀元前6,000年頃のブドウの種や醸造跡が見つかっており「ワイン発祥の地」ともいわれている。


ジョージアのワイナリー

豊かな自然が広がる山岳地帯や世界遺産に登録された歴史建造物を有しており、毎年多くの観光客が同国を訪れている。

2016年の観光客数は270万人で、観光収入は21億6,000万ドル(2,400億円)に上ったという。さらに2017年には27億ドル(約3,000億円)、2018年には32億ドル(約3,550億円)と観光収入は右肩上りに伸びている。


多くの観光客を惹き付けるジョージア

日本との関わりは取りざたされることが少ないが、スポーツ、文化、経済面での関係が強まりつつある。

日本相撲協会に所属する大関栃ノ心はジョージア出身。大関に昇進した2018年5月末には、当時のジョージア首相や大統領がツイッターを通じて祝福のメッセージを送っている。ジョージア出身の力士で大関に昇格したのは栃ノ心が初めて。

経済面では、日本とジョージア2国間の自由貿易協定の話が持ち上がっている。

地元紙ジョージア・トゥデイが2019年3月18日に伝えたところでは、ジョージアのジョージ・コブリア経済・持続的発展相率いる代表団が東京で世耕経済産業相らと会談。両国の貿易規模が拡大していることを背景に、2国間の自由貿易協定の可能性が示唆されたという。

ちなみにジョージアから日本へのワイン輸出は2018年に前年比で28%増加した。

ジョージア側は、同国のエネルギーセクター改革に触れ、再生可能エネルギー関連プロジェクトなどへ日本企業の参加を打診したようだ。

ブロックチェーン活用で、土地登記からあらゆる行政サービスの電子化へ

このジョージアのエネルギーセクター、他国に比べ大幅に安い価格で電力を供給している。これが同国がブロックチェーンを活用するきっかけをつくったといっても過言ではない。

ジョージアには山岳地形を活用した水力発電ダムが多く、余剰電力が生まれており、一部を隣国に輸出しているほどだ。


エングリ ・川の水力発電ダム

ビットコイン価格が上昇を続けていた2015年頃、ビットコインマイニングで利益を上げようとする企業が急増したが、そのうちの1社Bitfuryはジョージアの比較的緩い規制と安価な電力に目を付け、マイニングセンターを開設。

ジョージア政府も協力的で、ニューヨーク・タイムズなどによると、45エーカー(東京ドーム約4個分)もの土地をBitfuryに1ドルで提供したといわれている。

ジョージア政府がBitfuryに対し寛大な対応を行った背景には、ブロックチェーン技術を導入したいという思惑があった。

この思惑通り、2016年4月ジョージア政府はBitfuryの支援を受け、ブロックチェーンを使った土地登記システムの試験的導入に踏み切ったのだ。

それまでのジョージアでは、私有地の登記率が25%と低く、不動産取り引きの大きな障壁だったという。

その後2017年2月ジョージア政府とBitfuryは、この取り組みを本格化させることで合意。ブロックチェーンを活用することで、土地登記手続き費用を95%削減するという目標が設定された。また、そのための法規制も整備され、土地登記問題は改善に向かったとされる。

2019年2月ジョージア政府が発表したデータによると、2016年8月以降に土地登記を行った私有地の所有者は60万人を超えたという。

土地登記手続きが簡素化されたことに加え、手続き費用が大幅に下がったことが私有地所有者の登記を促したと考えられている。

ジョージア政府は、土地登記だけでなく、その他さまざまな行政サービスにもブロックチェーンを導入し、コストを下げ、国民の行政サービス利用を促したい考えだ。

2018年6月9日、当時のジョージア財務相マムカ・バフタゼ氏はクロアチアで開催されたIMF・世銀会合にて、ブロックチェーンを活用した土地登記システムに言及、ジョージア政府の取り組みはこれにとどまるものではなく、さらに野心的な取り組みを行っていくと強調している。

このバフタゼ氏は1982年生まれで若干36歳。この会合のおよそ10日後、当時の首相であったクビリカシビリ氏の辞任にともない、ジョージア首相に選出されている。


36歳でジョージア首相に選出されたバフタゼ氏

バフタゼ氏はトビリシ国立大学で経営管理・ミクロ経済学学士号を、ジョージア技術大学でメカトロニクス工学学士号を取得。さらにモスクワ大学とINSEADでそれぞれMBAを取得している。

財務相に就任する以前は、ジョージア鉄道CEOや国際エネルギー公社事務総長を勤め上げた人物だ。

国のトップがビジネスセンスを持つ若い世代であることから、ジョージアにおける電子政府基盤を構築する取り組みは今後加速することが見込まれる。

エストニアのように電子国家として世界をリードする国となることができるのか、その真価に注目が集まる。

文:細谷元(Livit

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