日立キャピタルが実践する“成果が伴う働き方改革”。 KSFは経営層の本気度と従業員の共感

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働き方改革は成果が求められるフェーズへ

数年前から注目が高まり、大企業から中小企業まで多くの会社が実践してきた働き方改革。メディアもさまざまな事例を取り上げてきたが、各社が取り組みを本格化してから1~2年を経たいま、働き方改革の“成果”に注目が集まっている。成果を出す働き方改革には、どのようなKSF(Key Success Factor:重要成功要因)があるのだろうか。

働き方改革により生産性を向上、慢性化していた残業のありかたを見直すことで、年間6万時間もの時間を創出したのが日立キャピタルだ。“豊かな個”の実現を図るべく、働き方改革を推進した日立キャピタル・人事担当の阿部氏に、実際の取り組みやその成果、さらには、働き方改革の秘訣を伺った。

※本件は取材当時(2019年3月)の内容です

ゴールは残業ゼロではなく「豊かな個」の実現

日立キャピタルが働き方改革プロジェクトを立ち上げた背景について、阿部氏はこのように語った。


日立キャピタル株式会社 人事勤労部 阿部和行氏

阿部氏:「政府が『働き方改革実現推進室』を設置した2016年度、日立キャピタルの平均残業時間は約25時間でした。しかし、それらすべてが本当に必要な残業であるのか。私は疑問を覚えました。残業ありきのマインドになってはいないか、あるいは、必要のない業務を行っているのではないか。そのような状況下、2016年12月、当社の社長から『残業ゼロ』の目標が提示されました。」

当時、人事勤労部内では『はたして働き方改革のゴールは“残業ゼロ”なのか』という疑問も。そこで、外部から有識者を招致、議論を重ねた結果、過労リスク対策など“守りの働き方改革”だけではなく、知見を広げて、スキルを高めることで、広く社会から求められる『豊かな個』の実現と、それらによる強い組織づくりをめざす“攻めの働き方改革”が重要と考えた。

ちなみに、日立キャピタルでは、従業員一人ひとりを“財産”と捉える。同社において、世間一般とは異なる『人財』という表記を用いるのもその表れである。つまり、その財産である従業員一人ひとりの個を育てたいということだ。そして、これらの活動のコンセプトとなるキーワードを“豊かさ”とした。

阿部氏:「生産性を高めて残業を減らすことで、個人の時間を創出できます。その時間を活用して、従業員一人ひとりがやりたいことに挑戦。それにより、豊かな個人が育つと、会社にとってもプラスになる。『豊かな個』は会社の成長を促すと考えました。」

働き方改革へのアクションを促進するにあたり、最初の起爆剤となったのが社長へのプレゼン大会だ。

阿部氏:「働き方改革プロジェクトのキックオフ会議で、プロジェクトに参画する社内各部門が社長へのプレゼンを実施しました。社長がプロジェクトメンバーに対して自らの思いを熱く語り、積極的に意見を交換する様子を間近でみて、働き方改革の実践を会社の重要なミッションと捉え、率先して後押ししようという熱意を感じました。

これにより、経営層はもちろんのこと、プロジェクトチームの一体感が高まり、全社横断的なプロジェクトとなっていきました。一方で、関係者には“豊かさ”というコンセプトに共感してもらうため、『業績に貢献する従業員は生産性が高く、実は自分自身の時間を充実させている。個人の豊かさは、会社の業務にも生きる』ことを繰り返して強調しました。

日頃から、社長自らが『人間力を磨き、一人ひとりがマーケット価値の高い人財になることで、組織を強くする』との考えを発信しており、経営層やプロジェクトメンバーは、この取り組みを前向きに受け止め、浸透していきました。」

2017年4月、働き方改革は本格的に始動し、順調に滑り出すように思われたが、従業員の反応は薄かった。そこで、まず取り入れたのが経営、管理職層によるメッセージ発信だ。

阿部氏:「立ち上げ時に構築した経営層の協力体制を生かし、まずは、社長による社内向けの期初メッセージにおいて、働き方改革に言及してもらいました。あわせて、執行役や部長、支店長が各々に『人財づくり・時間づくりのために、[自ら]〇〇に取り組みます!』と宣言、それらを社内イントラで徹底的に周知させていったのです。

さらに、職場の課題を直接把握することを目的に、社長をはじめとする執行役による定時退社日のオフィス巡回を実施するなど、会社の本気度を従業員に伝えることで、社内の雰囲気も変わりました。」

縮減した残業代を従業員に還元。働き方改革を自分ごとに

現場の指揮官である管理職は、生産性の向上による残業時間縮減のカギを握る存在だ。しかし、プロジェクト始動直後、管理職の多くは残業時間縮減の必要性は理解しつつも、その実現には懐疑的であった。日々、全力で業務に取り組んでおり、これ以上、残業時間は減らないといった考え方が現場に蔓延していた。

阿部氏:「そこで、まずは管理職の皆さんに年間残業時間計画を作成してもらいました。部署の残業時間を個人ごと、月ごとに計画することで、残業状況を可視化し、見通しをもった働き方を促しました。

さらに、社内イントラ上で平均残業時間を部署ごとに開示したのです。他の部署と比較することで、『なぜあの部署は残業が少ないのか』『なぜ自分の部署は残業が多いのか』など振り返りの機会が増え、残業時間縮減の意識づけにつながりました。」

何よりも効果が大きかったのは、部署単位の残業時間縮減実績に応じて、ボーナスを支給したことだ。縮減された残業代を従業員に還元することで、残業の縮減に対する意欲が高まる。経営層の後押しもあり、残業代縮減金額のほとんどを従業員に還元した。

阿部氏:「大胆な取り組みですが、残業時間縮減に本気で取り組む契機となり、『短い時間で、より高い成果を出す』『残業が当たり前ではない』という意識づけができました。」

社長、執行役、管理職の協力姿勢を土台に、制度の見直しも行った。副業を認めるとともに、男性の育児休暇取得も促進。社内には、105種類にも及ぶ手作りのポスターを掲示し、意識の変革を呼びかけた。管理職から現場担当者の一人ひとりまでが一体感を持って働き方改革に取り組んでいった。

年間6万時間を創出。大きな成果で、自信が確信に

このような意識の醸成と制度改革により、生産性が向上し、初年度からめざましい成果があがった。

阿部氏:「人事勤労部のみでなく全社を巻き込むことで、人事による意識改革以外にも、全社横断的、かつ大胆な改革に取り組むことができました。例えば、従来のオペレーション業務における社内申請などは、ペーパーレス化を図り、電子申請に切り替えることで、全社で年間6万時間を創出するに至りました。

これは、複数のIT関連部署から結成されたチームが働き方改革に参画、効率化できる業務を見出すとともに、さまざまな悩みを有する従業員とのコミュニケーションをもって少しずつ改善していった成果です。何人もの承認が必要であった書類は、さまざまな観点から、誰に何を確認してもらうべきかを検討するなど、プロセス自体の見直しも行いました。」

同じくプロセスを見直し、システムの導入も行った営業事務部門では、年間1,300時間を創出した。さらに勤務制度については、フレックスタイム制度などを導入し、多様な働き方を推進するだけでも、残業時間は大幅に減少した。また2018年度よりサテライトオフィスを導入し、業務の効率化、残業時間縮減だけではなく、働き方の意識変革を促した。

阿部氏:「全社の平均残業時間においては、2016年度は約25時間でしたが、2018年度には約14時間。つまり、2年間で約半分となりました。これまで『年次有給休暇が取得しにくい』といった声があったことも事実ですが、この2年間でほとんど聞かなくなりました。」

残業時間縮減による時間の創出を達成したあとは、従業員の“豊かさ”を実現するため、個々人の自分磨きに向けた時間活用を評価するインセンティブ制度も設けた。

業務時間外や休日に、『スポーツ』『イベント参加』『自己啓発』などといったアクティビティに取り組むごとに、年間上限ポイントの範囲内で3,000ポイントを支給。1ポイント1円相当に換算のうえ、舞台鑑賞チケット、育児用品、英会話の教材など、提携企業が提供するサービスと交換できる。

阿部氏:「制度導入初年度である2018年度は、4,972件もの申請がありました。Webアナリスト、ファイナンシャルプランナーなどの資格取得に向けた勉強、歌舞伎や能など日本の伝統芸能の鑑賞など、従業員のプライベートの過ごし方に変化が生じています。業務に直結しない経験が、新しいアイデアの種となる可能性もあり、豊かな個の実現にもつながっていると考えています。」

経営層が本気になると、従業員も共感、自ら行動する

阿部氏:「今回のプロジェクトのKSFは経営層が本気で取り組み、それに共感した従業員一人ひとりが実行に移したこと。そして、『まずはやってみよう』というマインドで失敗を恐れずに挑戦したことです。もちろんのこと、うまくいかず、断念した取り組みもありますが、トライ&エラーを繰り返すことで、大きな成果を生むに至りました。」

阿部氏は、従業員有志によるさまざまな活動など、社内コミュニケーションの活性化に対するあらたな評価のあり方も考えたいと語る。従業員の自発的な行動をサポートし、豊かな個の実現と自立を促していく。

取材:木村和貴
文:萩原かおり

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