世界汚職ランキング、清潔度1位はデンマーク、最下位ソマリア、日本は18位〜ミレニアル世代最大の懸念「汚職」問題の知られざる重大性

世界各国のミレニアル世代がいまもっとも懸念している課題を知っているだろうか。

2017年に世界経済フォーラムがミレニアル世代を対象に実施した意識調査がある。この調査では、世界180カ国3万人以上のミレニアル世代に、テクノロジー、経済、価値観、キャリア、政府などに関して抱いている懸念を聞いた。

グローバルレベルでもっとも懸念されているのは「気候変動」だ。3年連続で1位に選ばれている。

一方、国内レベルにおいては「政治の透明性不足・汚職」がトップにランクインした。自分たちの住む国の政治が透明性を欠き、多くのミレニアル世代が政府への信頼を失っている現状が浮き彫りになったのだ。

日本ではあまり議論されないが、世界には国家システムが機能せず、国民が困窮している国が多数存在する。アフリカの国々やベネズエラなどがそれにあたる。最悪の場合、国家崩壊にもつながりかねない状態で、こうした国や近隣職国に住む人々にとっては深刻な問題となっている。

国家の機能不全を招く要因は内的なもの外的なもの含めさまざまあるが、「汚職」は主要な要因の1つといえるだろう。世界のミレニアル世代が懸念する汚職問題。どのような影響を与えるのか、最新事例を交えその実情を探ってみたい。

「世界汚職ランキング」に見る、汚職と国の安定性

世界各国の汚職を監視する国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)」。同NGOは毎年、各国の汚職度合いを指数化したランキングを発表している。

このランキングは、国際機関などが公表しているさまざまなデータをまとめ指数化したもの。0〜100の数値を算出、その指数が高いほど汚職が少なく政治の透明性が高いということになる。

2019年1月末に発表された最新版で、もっとも指数が高かったのは北欧デンマークだ。指数は88ポイント。世界でもっともクリーンな国ということになる。最新版で評価対象となったのは世界183カ国。


世界でもっとも汚職が少ない国、デンマーク

2位以下には、ニュージーランド(87ポイント)、フィンランド(85)、シンガポール(85)、スウェーデン(85)、スイス(85)、ノルウェー(84)、オランダ(82)、カナダ(81)、ルクセンブルク(81)、ドイツ(80)、英国(80)などがランクイン。

一般的にクリーンなイメージと安定した国家基盤を持つ国々といえるだろう。ちなみに日本は73ポイントで18位だった。

一方、下位にはどのような国があるのか。

最下位は10ポイントのソマリア。このほか、シリア(13)、イエメン(14)、北朝鮮(14)スーダン(16)、ベネズエラ(18)、コンゴ(19)、ハイチ(20)などが下位に位置している。

どの国も汚職問題が深く根付いていると指摘されており、紛争状態やハイパーインフレなどで国家基盤は非常に脆い状態になっている。


戦の跡が生々しく残るソマリア首都モガディシュ(2014年10月)

このランキングからは、汚職と低成長・低開発の相関関係を見て取ることができる。

汚職は国の経済成長を阻害してしまうのか。そこに因果関係は存在するのか。研究者の間では意見が分かれており、全会一致の結論には至っていない。

たとえば、賄賂によって普通では長いプロセスを要するお役所手続きを簡略化し、ビジネスを活性化させるという見方がある一方で、汚職によって取引コストと不確実性が増大し、それが結果的に国の経済成長を阻害してしまうという意見もある。

因果関係については明確な答えは出ていないようだが、国別の状況を鑑みると、高い汚職度合いと国の困窮状態は密接に関係している場合が多く、世界のミレニアル世代が見るように、憂慮すべき懸念事項として認識すべきということが分かってくる。

インドネシアとベネズエラ、汚職がもたらす深刻な問題

アジア太平洋地域のなかでも汚職が日常茶飯事となっているインドネシア。TIのランキングでは38ポイントで93位に位置している。

このインドネシアの汚職について、インドネシアの安全保障専門家であるヨハネス・スライマン氏の考察は傾聴に値する。

スライマン氏は、賄賂などの汚職は遅いお役所手続きを避け、ビジネスを活性化させる上で一定の役割を担っており、それがインドネシアの高い経済成長率に一部寄与している可能性があるとしつつも、長期的には経済に負の影響を与えると指摘している。

ビジネスを加速・活性化できた企業は利益を増やすことが可能だが、政府の汚職体質が変わっていない場合、増えた利益の分だけ賄賂を求める役人も増える可能性が高いという。

そうなるとコスト増につながり、企業の競争力は削がれてしまう。また、そのような噂が広がると、インドネシアでビジネスを展開したいと考える海外企業は少なくなり、法人税による税収が大幅に下がることも考えられる。

さらに、汚職体質が続くと、官僚組織において実力ではなく金がものを言う構造が強化され、プロ意識の欠如した役人が増え、有能な人材が集まってこない状況につながってしまうという。

税収が下がり、プロ意識の欠如した役人だらけになった国家は、実質的に崩壊したも同然だと指摘している。

道路や橋など公共インフラの工事を担う業者は、役人に賄賂を支払い、安い建材を使って工事を行う。保守管理もほとんど行わないため、公共インフラも信用できないものに成り下がってしまうのだ。

インドネシアでは、2011年末に東カリマンタンで橋が崩落し、18人が死亡する事故が発生したが、その背景にはこのような汚職体質があったと見られている。

インドネシアだけでなく、汚職による国家税収への影響は全世界で無視できないものになっている。IMFの推計では、汚職よって生じる経済損失は全世界で年間1.5〜2兆ドル(約166兆〜222兆円)に上るという。

フィリピンでは脱税により、GDPの2.7%に相当する74億ドル(約8,200億円)の年間損失が出ているともいわれている。

TIのランキング172位のベネズエラの状況は、一層危機感を喚起するものといえる。

ランキングが示す通りベネズエラの汚職度合いは非常に高い。

2013年に米調査会社ギャラップが実施したベネズエラの世論調査では、国民の75%がベネズエラ政府に汚職が蔓延していると回答。前年の63%から10ポイント以上増加した。これにともない政府への信頼度も39%となり、前年の54%から大幅に下落した。

汚職の蔓延と政府に対する不振の高まり、さらには原油価格の下落などの外的要因が加わりベネズエラはハイパーインフレを引き起こし、悪化の一途をたどっている。

インフレ率は2016年に800%に達したが、その後も自国通貨「ボリバル」への信用は回復せず、米ドルなど外貨への交換がとまらない状況だ。


ベネズエラのハイパーインフレ

ブルームバーグが公表しているベネズエラのインフレ率を推計する「Cafe Con Leche 指数」では、コーヒー1杯の値段からインフレ率を計算。

これによると、ベネズエラではコーヒー1杯の値段はこの1年で0.75ボリバルから2800ボリバルに上昇、インフレ率は37万%に達したという。

2018年8月にベネズエラ政府はデノミネーションを実施。デノミ前は、コーヒー1杯が2億8,000万ボリバルだった。

こうした状況を知ることで、汚職と国家基盤の脆弱性に強い関係があることを知り、世界のミレニアル世代がなぜ「汚職」を懸念事項のトップに選んだのか、その理由を理解することができるのではないだろうか。

文:細谷元(Livit

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