2019年2月末、ドイツ自動車大手のダイムラーとBMWは、自動運転技術開発で提携することを発表。両社は、高級車市場で競合する企業どうしであるが、研究コストがかさむ自動運転分野ではタッグを組んで他の企業連合や新興企業との競争に体制を整える計画だ。また自動車運転技術の標準づくりにも注力するという。
両社の連携はこれにとどまらない。同年2月22日には、カーシェアリングや配車など両社が手がける一連のモビリティサービスにおける協業を一層強化する目的で、10億ユーロ(約1,240億円)を投じる計画を明らかにした。両社は2018年3月、それぞれが運営するモビリティサービスを統合することで合意。今回の発表では、それらを5分野に再編し、5つの合弁事業として運営することが明らかにされた。
競合どうしのBMWとダイムラーが連携を強化するという事実は、世界の自動車市場がいま大きな変革期にあり、自動車メーカーはその市場変化に適応せざるを得ない状況に追い込まれていることを物語っている。
ガソリン車から電気自動車へのシフト、自家用車保有の減少、排ガス規制の強化、消費者の環境意識の高まりなどさまざまな要因が入り混じり、自動車を取り巻く環境は大きく変化しているのだ。
今回は、BMWとダイムラーを連携強化に駆り立てた、世界の自動車市場で起こる大きな変化についてお伝えしたい。
環境規制コスト増に販売台数低迷、変革を迫られる自動車メーカー
自動車メーカーが直面する課題の1つが、環境規制の強化による対応コストの増加だ。これによりディーゼル・ガソリン車の販売から利益を上げることが難しくなっている。
ダイムラーの2018年決算では、純利益が前年比で29%減少。販売台数は前年と同水準であったものの、排ガス不正に関する費用や米中貿易摩擦による関税負担増などが利益を圧迫したという。また、電気自動車と自動運転車の研究開発費が増加していることも利益減に影響した。
2018年、ダイムラーが研究開発に投じた資金は91億ユーロを超え、前年比で5%増加。一方、トラックと乗用車を含めた年間販売台数は、2%増にとどまった。
乗用車だけでみると、主力「メルセデス・ベンツ」の販売台数は238万台。前年の237万台から0.4%の微増。中国を含めアジア太平洋地域での販売が好調だった一方で、欧州と米国ではそれぞれ前年比減となっている。
BMWも同じ状況下にあり、2018年の業績見通しを下方修正している。2018年9月同社は、同月に欧州で導入された排ガス・燃費検査にかかる費用が発生したことなどで、前年比と「ほぼ同水準」としていた利益見込みを「若干下回る」に修正した。
環境規制に関するコストに加え、世界市場において自動車販売台数が伸び悩むことも予想される。
現在、世界最大の自動車市場である中国では、地元大手自動車メーカーが販売台数の伸び悩みに頭を抱えている。
米フォードと提携する中国国有自動車メーカー、重慶長安汽車はこのほど、2018年の業績は純利益が前年比で90%ほど減少するとの予想を発表。またフォードとの合弁会社の販売台数は前年比で54%も減少したという。米中貿易摩擦や株価急落などによって消費者需要が冷え込み、重慶長安汽車だけでなく、各社が販売低迷に苦しんでいるといわれている。
一方、欧州の一部では都市部で自家用車を減らす取り組みが進められており、今後この動きが広がれば、新車販売台数の伸び悩みは一層深刻化する恐れがある。
英ロンドンでは「世界的な自転車都市」を目指すアクションプランが進行中だ。ロンドン人口の増加にともない悪化する交通渋滞・大気汚染問題を解決するために、自動車ではなく自転車の利用を促進しようというもの。ロンドン市内に自転車道を張り巡らせ、市内の自転車による移動回数を2017年の70万回から2024年までに130万回に増やす計画だ。
ロンドンのサイクル・スーパーハイウェイ
フィンランドでは、首都ヘルシンキで自家用車による移動を減らす都市交通変革プロジェクトが実施されている。同プロジェクトでは、公共交通と自転車利用を促進するインフラ整備を進め、自家用車保有率を下げることが目標の1つに定められている。
フィンランド・ヘルシンキのトラムとシェアサイクル
フィンランドと同じ北欧のデンマークでも自転車利用が促進されており、通勤などの移動で自動車を利用する人は少なくなっている。特に首都コペンハーゲンは「世界一の自転車都市」と呼ばれ、2016年には市内を走る自転車の数が自動車を上回るという記録を達成している。
ダイムラーとBMWの母国ドイツでも、持続可能な都市交通を目指し公共交通利用を促進する動きが活発化しており、自家用車を保有するインセンティブは弱くなりつつあるようだ。たとえば、2018年初頭にはベルリン市交通局がアディダスと共同で、180ユーロのスニーカーを700ユーロに相当する公共交通の定期券として使えるキャンペーンを実施。また公共交通の無料化なども検討されている。
環境コストの増加に加え、自動車販売の伸びが見込めない状況に直面するなか、ダイムラーとBMWが10億ユーロを投じ強化しようとするモビリティサービスは、世界的な変化に順応した自動車メーカーの次世代ビジネスのあり方を示すものといえだろう。
そのモビリティサービスとは、ワンストップの移動情報検索・予約・支払いを可能にする「Reach Now」、電気自動車充電関連の情報検索・支払いの「Charge Now」、駐車場検索の「Park Now」、配車サービスの「Free Now」、カーシェアリングの「Share Now」の5つ。
これらのサービスは現在、世界中に6000万人の利用者を抱えている。たとえば、Free Nowは欧州と中南米を中心に展開し、現在25万人のドライバーが2100万人の利用者に配車サービスを提供。Share Nowは世界31都市で展開し、利用者は400万人に上るという。
自動車メーカーが自動車販売以外で持続可能な収益源を構築することができるのか。ダイムラーとBMWのモビリティサービスはその試金石となるはずだ。
文:細谷元(Livit)