世界中で10代の若い世代を中心に登録者が2億人に達し、欧米では「社会現象」と呼ばれているオンラインゲームが存在する。2017年にリリースされ、短期間にユーザー数を爆発的に伸ばした「フォートナイト」だ。

世界中で1億3,900万人のユーザーを抱える動画配信サービス、ネットフリックスに最大の競合であると言わしめるほどの影響力を持っている。またVerge誌は、フォートナイトを「2018年でもっとも重要なソーシャルネットワーク」だったと評するほどだ。

社会現象と化し、影響力のあるソーシャルネットワークと呼ばれるフォートナイトとはどのようなゲームなのか、なぜこれほどまでに人気を博しているのか。その理由を探るとともに、今後どのような展開が予見されるのか、可能性と課題をお伝えしたい。

オンラインゲーム内に新たなソーシャル空間を作り出した「フォートナイト」

フォートナイトは米国のゲーム開発会社Epic Gamesが2017年にリリースしたオンラインゲーム。「世界を救え」「クリエイティブ」「バトルロイヤル」の3つのモードがあり、それぞれ異なったミッションをこなしていく。

世界を救えモードは、98%の人間が消えた世界でソンビのような敵を倒しながら、生存者を救出していくというもの。Windows、Mac、プレイステーション4、Xboxでプレイすることができる。有料パックを購入する必要がある。

クリエイティブモードは、島のなかでバトルアリーナやレース場など好きな建築物を建てていくモード。人気のある建築物は、バトルロイヤルモードで採用される場合があるという。

バトルロイヤルモードは、最大100人のプレーヤーたちが、1人または1組になるまで戦うモード。対戦相手を倒すと銃などの武器が手に入り、ゲームを有利に進めることが可能となる。世界を救えモードと異なり無料でプレイできる。ゲーム内でスキン(キャラクターの外見変更アイテム)やエモート(ダンスなど感情表現の動き)などを販売しており、同ゲームの主要な収益源となっている。

これら3つのモードのなかで、同ゲームを社会現象にまで導いたのはバトルロイヤルモードといわれている。

同モードが無料でプレイでき、Windows、Mac、プレイステーション4、Xboxに加え、ニンテンドー・スイッチやiOS、アンドロイドにも対応したことなどが理由の1つと考えられている。


ニンテンドー・スイッチでプレイできるフォートナイト・バトルロイヤルモード

バトルロイヤルモードはローンチ後1年でユーザー数が1億2,500万人に増加。SuperData Reserchによると、2018年3月にはゲーム内課金を中心に月間売上高が3億1,830万ドル(約350億円)に達したという。

同モードにおける日間プレーヤー数は数百万人に上る。Variety誌によると、2019年2月16日プレーヤー数が760万人に達し、イベントのない通常日としては最高値を記録したという。

イベント日では、2018年11月に記録した830万人が最高だったが、2019年2月2日に実施されたDJ・Marshmelloによるバーチャルライブで1,070万人のプレーヤーが参加し、これまでの記録を大幅に塗り替えた。

そのイベントとはバトルロイヤルモード内で実施された10分間のバーチャルライブ。この間、武器の使用は無効にされ、多くのプレーヤーがエモートでダンスをするなどライブイベントを楽しんだようだ。

Marshmelloは、米国の人気DJ。YouTubeチャンネルのフォロワーは2,950万人。同チャンネルで、フォートナイトでのバーチャルライブの様子が公開されたが、視聴回数は2,700万回(2019年2月22日時点)に迫っている。

もともと高い人気を誇っていたMarshmelloだが、今回のバーチャルライブで、ツイッターやインスタグラムのフォロワー数がさらに増えたという。


Marshmello

音楽業界にとってもこのMarshmelloのバーチャルライブは、未来のライブの形を示す重要なヒントになったようだ。多くのプレーヤーを擁するフォートナイトのようなプラットフォームでライブを開催すれば、通常ではありえない数百万人以上の参加者を動員できることになる。


Marshmelloのフォートナイト・バーチャルライブ(YouTube Marshmelloチャンネルより)

このことはコンテンツを配信する空間としても大きな可能性を秘めているといえる。

2019年1月米CNBCが伝えたところによると、ネットフリックスは株主に宛てた書簡のなかで、同社にとっていまもっとも脅威となる競合は、ディズニー・プラス、HBO、アマゾン・プライム・ビデオなどの動画配信サービスではなく、YouTubeやフォートナイトなどの新しい形のエンターテイメントだと明言したという。

特にフォートナイトは、中毒性が高く1日の大半をゲーム内で過ごすプレーヤーは少なくないといわれている。広告やコンテンツ配信の場としての可能性が高いといえるだろう。

また、Verge誌が伝えているように、ソーシャルネットワークとしても機能し、新しい文化を醸成する空間としてもその可能性に注目が集まっている。

求められるゲーム中毒問題への対応

欧米において社会現象とまでいわれるようになったフォートナイト。

バーチャルライブの空間として、文化創出の空間として、その可能性に期待が持たれている一方、子供たちのゲーム中毒症状を悪化させる要因であるとして名指しで批判されている。

ブルームバーグによると、米国在住の17歳の青年はフォートナイトでの武器集めなどで1日12時間もプレイしていたという。高校での成績が悪化したため、親がその青年のプレイ時間を削減したものの、すぐにもとに戻ってしまった。その親は、子供の心をここまでコントロールするゲームは見たことがないと語っている。

一部の子供たちは、ゲーム中毒から抜け出すためにリハビリセンターに通っているという。英国の子供の中毒症状改善専門家ロリーン・マーラー氏は、フォートナイトを「ヘロイン」のようなものだと指摘、一度はまったら抜け出すのが難しいゲームだと述べている。

子供だけでなく大人への影響も計り知れない。

英国のある離婚相談ウェブサイトによると、2018年中に離婚したカップルのうち、200組がフォートナイトを含むビデオゲームが離婚理由になったと記載しているという。

中毒症状を悪化させる要因として、特に批判されているのが「ルートボックス」の問題だ。

ゲーム内購入で入手できるアイテムがランダムであるため、ギャンブル性を高め、中毒症状を悪化させていると批判されている。ルートボックスはフォートナイトに限らず、多くのゲームが採用しており、これらを規制しようという動きがいくつかの国で始まっている。

ルートボックス問題への批判を受け、Epic Gamesは2019年1月末、アイテム購入時にボックス内を見られるように仕様を変更、ランダム性を排除している。

バーチャル空間の可能性を広げるフォートナイトだが、さらなる進化を遂げるには、子供の中毒を防ぐためのさらなる対策が求められるだろう。

またプレーヤー側のリテラシーを高めることも重要といえるだろう。社会現象となったフォートナイトが今後どのように発展していくのか、その動向から目が離せない。

文:細谷元(Livit