集中豪雨や干ばつ、記録的な猛暑など、地球温暖化が要因と思われる異常気象が世界各地で頻発している。

それに危機感を募らせた一人の少女は2018年8月、学校を休んでスウェーデンの国会議事堂前に座り込み、「Strike for Climate」(気候変動のためのストライキ)というプラカードを隣に置いた。

それからわずか数か月。16歳の彼女はTEDやCOP24、世界経済フォーラムといった国際的な舞台に招かれてスピーチをし、世界中で何万人もの学生が同様のストライキを始める事態となっている。

何が10代前半~半ばの学生たちを駆り立てているのか、世界で急速に広がる気候変動ストライキの動きに迫る。

地球の危機を訴えるため金曜日に学校をストライキする「Fridays for Future」


当時15歳のグレタ・トゥーンベリはひとりで地球温暖化対策を訴えるストライキを始めた(グレタ本人のツイッターより)

気候変動ストライキを始めたスウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリが、地球温暖化の危機について知ったのは8歳の頃。

それを防ぐために電気を消したり、紙をリサイクルしたりするよう言われたが、彼女は大人たちが地球温暖化を本気で防ごうとはしていないことに、強烈な違和感を覚えた。

温暖化が私たちの生存を脅かす深刻な問題で、それを食い止めるために残された時間はわずかなのに、なぜそれが大きなニュースや日々の話題になっていないのか? 化石燃料が地球温暖化の原因のひとつならば、なぜその使用を禁止する法律ができていないのか?

グレタにとってこれは大きすぎる矛盾だった。この問題を考えるあまり、彼女は11歳の時に鬱になり、2か月で体重が10キロ減り、発達障害とも診断されたという。

TEDでのグレタのスピーチ。彼女が気候変動に関する活動をするようになった経緯が語られている

そしてスウェーデンでも記録的な猛暑と乾燥という異常気象で山火事などの被害が多発した2018年夏、グレタは行動を起こした。新学期が始まり学校に行く代わりに、気候変動による危機を訴えるストライキをすることにしたのだ。

学校に行かず国会議事堂の前に座るというストライキを実行中だとTwitterで発信すると、すぐに情報がソーシャルメディア上で広がり、3日目には10人、5日目には35人と参加者が増えていった。

グレタはこの学校ストライキを3週間続けた後、毎週金曜日にストライキをすることに決め、この活動を「Fridays for Future」と名付けた

彼女はTwitterを通じて、世界中の同世代に「それぞれの政府や自治体が、地球の気温上昇を2度以内に抑えるための確実な道を歩き始めるまで、この活動を続けよう」と呼び掛けている。

ソーシャルメディアを通して爆発的に世界のティーンエイジャーに広がったストライキ


COP24でのグレタのスピーチ。国連広報センターによる日本語訳が付けられている

2019年2月末現在、グレタ・トゥーンベリのFridays for Futureストライキは28週目になり、世界中で何万人もの学生が参加するほどに広がっている。

特にヨーロッパでは、2019年に入ってから急速に学校ストライキが大規模化し、ベルギー、スイス、ドイツ、イギリスなどで数万人規模の参加が報告されている。

数人規模から始まった各地の学校ストライキがソーシャルメディア上で連携し、各国で活動団体が立ち上がり、数万人規模のデモを行う大集団となっているのだ。

各国の代表はSNSのグループチャットなどで連絡を取り合っているといい、グレタ自身もブリュッセルやパリのストライキに出向いて一緒にデモを行うこともある。

日本でも2月22日に国会議事堂前で初めて気候変動デモが行われ、約20人の学生たちが参加した。Climate Justice(気候正義*)を訴え、今後も活動していくという。

*「気候正義」とは、先進国に暮らす人々が化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした気候変動への責任を果たし、すべての人々の暮らしと生態系の尊さを重視した取り組みを行う事によって、化石燃料をこれまであまり使ってこなかった途上国の方が被害を被っている不公平さを正していこうという考え方(国際環境NGO FoE Japanのウェブサイトより )

世界で学校ストライキに参加している学生の多くは、まだ選挙権を持たない16歳以下で、小学生・中学生にあたる10代前半の学生の姿も多く見られる。

彼らにとって、数十年後の地球の気候は「自分ごと」だ。それなのに、年齢が低いせいで今の自分たちは気候変動対策の議論に参加することができず、大人たちは温暖化抑制に本気で行動しているようには見えないことに、いら立ちを感じている。

グレタの発信をきっかけに、多くの学生たちが「自分たちが政治的な力を持ちうる年齢に達する頃には、地球温暖化の被害を食い止めるには手遅れになっている」と気づいた。そして今の大人たちに、もっと真剣に気候変動対策に取り組んでもらおうと、学校のストライキという行動を起こしているのだ。

行政との対立が強まるオーストラリアでの気候変動ストライキ


オーストラリアでのストライキでは、アダニ社による炭鉱開発を止めろという明確なメッセージが掲げられている

ヨーロッパでの学校ストライキと少し毛色が異なるのが、オーストラリアでの動きだ。

現在のところ、ヨーロッパでの気候変動ストライキは(学校を休むという手段への批判はあるものの)政治家や学者など社会的地位のある人々からも、比較的好意的なコメントが寄せられている。一方オーストラリアでは、政府が学校ストライキに強く反対し、学生との対立を深めている。

オーストラリアはグレタ・トゥーンベリの行動が真っ先に波及した国のひとつだ。グレタのストライキ開始から2か月も経たない2018年10月に、「School Strike 4 Climate Action」というプロジェクトが始動。

11月30日にはオーストラリアの30か所以上で同時ストライキが決行され、約1万5千人の学生が学校を休んで参加した。これに対し、オーストラリアのモリソン首相は「子どもは学校に行くべきだ」と真っ向から否定。

「我々が学生たちに望むのは、学校でもっと勉強することで、政治活動ではない。学校が議会になることには賛同できない」と強く反対している。

オーストラリアでの気候変動ストライキで特徴的なのは、学生側からの要求が極めて具体的なことだ。

School Strike 4 Climateのウェブサイトでは「クイーンズランド州で計画されている炭鉱開発事業を中止すること」「石炭と天然ガスの新規採掘事業を凍結すること」「2030年までにオーストラリアが再生可能エネルギーへ100%転換すると約束すること」という3つの要求が掲げられている。

中でもクイーンズランド州の炭鉱開発の事業主であるアダニ社を名指しした ♯StopAdani というハッシュタグが多く使われ、元々炭鉱開発に反対していた市民団体などとも繋がった政治活動となっている。

意識喚起と政治的要求にニ分化しつつある各国でのストライキ


イギリスの学生団体UKSCNによる気候変動ストライキ

多くの国に広がった気候変動ストライキだが、学生たちが訴える内容は様々だ。まだ活動が始まって数か月のため、同じ場所でのデモであっても参加者が掲げるメッセージにはばらつきがあるが、徐々に方向性が二分化されてきているように見受けられる。

ひとつは学校をストライキしてデモをするという行動自体で、ひとりひとりの危機意識を喚起しようというパターン。自分たちの気候変動ストライキがニュースなどで大きく報道されることで、大人たちが地球温暖化抑制に本気で取り組むようになることを願っている。

このパターンの場合には、政府や教育関係者などの「大人たち」からも好意的に受け止められていることが多い。

たとえばオランダで2月上旬に1万人規模のデモが行われた際、ルッテ首相は気候変動を憂いた学生たちの行動に「素晴らしい」とコメント。気候変動対策を担当するヴィーベス経済相も「将来の気候変動は、我々の世代より彼らが直接被害を受けるものだ」と学生たちがストライキやデモを行うことに理解を示している。

もう一つは、政府の地球温暖化対策の現状に不満を持ち、具体的な改善を要求するパターン。これは前述のオーストラリアでの活動が顕著だが、政府の特定の政策に対する抗議活動という構図が明確なため、政府・自治体と学生の対立が深刻化していくこととなる。

オーストラリアではニューサウスウェールズ州の教育相が「授業をストライキしてデモに参加した学生や教師は罰せられる可能性がある」「働いていないならストライキをする権利はない。学生がストライキをするのは法に反している」という強硬な警告メッセージを出し、グレダ本人にTwitterで”Your statement belongs in a museum. ”と反撃されて物議を醸す事態となっている。

学生ストライキが政府や国際社会の取り組みに具体的な影響を与えるか


2019年1月に行われた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でのグレタのスピーチ

これまでのところ、学生たちの気候変動ストライキを受けて、各国政府の温暖化政策が大きく変わったというニュースはない。学生たちの行動に好意的なオランダ政府も、「我々は既にやるべきことを最大限やっており、これ以上にできることはない」という姿勢は変わらない。

しかし2月21日にブリュッセルでグレタと面談した欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長は、「次の会計期間である2021~2027年のEU予算に、1兆ユーロの気候変動対策費用を組み入れる」という考えを示した。

ロイター通信はこれを「スウェーデンの学生リーダーが、気候対策に数十億円を使うという約束をEUから勝ち取った」と表現したが、学生たちのストライキが、各国政府や国際機関の取り組みに具体的にインパクトを与えるかどうかは、まだ不透明だ。

グレタをはじめとする各国の代表は、Fridays for Futureの節目となるアクションとして、3月15日(金)に全世界での同時ストライキを計画中で、世界150以上の都市で学生デモが起きると予測されている。

この記事を書いている間にも、凄まじい勢いで世界中に広がり続けている学生たちの気候変動ストライキ。

1人の高校生グレタ・トゥーンベリが始めた「地球環境に対する危機意識から、学校をストライキする」というこれまでにない行動が、どのような成果を生み、どのような結末を迎えるのか、今後の世界の学生たちの動きから目が離せない。

文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit

eye catch img:オーストラリアSchool Strike for Climate ActionのFacebookページより