マイナス45度の極寒、厳しい気候を魅力に変える「都市デザイン」とは? ウィンターシティ、カナダ・エドモントンに学ぶ

最低気温がマイナス20℃をきることも少なくないカナダ第五の都市エドモントンの冬は厳しい。

暗く雪に閉ざされた長い冬は、外国からの観光客、また企業・高度スキル人材の誘致において障害となりがちだが、この凍てつく冬をあえて生かし、魅力的な街づくりを目指すエドモントンの街づくりが話題となっている。

「ウィンターシティ」をコンセプトにしたこの取り組みの成果は目覚ましく、エドモントンは昨年には世界の旅行先都市ランキング50や、世界の人工知能企業人材集積都市第3位に選出された。

厳しい気候を魅力に変えて、世界の人びとを惹きつける街を創り上げたエドモントンの都市デザインとブランディング、また気候など困難な条件の中でも、都市の「強み」を創り出す世界の都市の街づくりを紹介する。

凍てつく冬を生かす、エドモントンの都市デザイン

エドモントンは人口100万人を超えるカナダ第五の都市だ。カナダ最大のショッピングモールがある大都市でありながら、すぐ近くには自然豊かな国立公園もあり、多様なイベントが通年行われることで、フェスティバルシティとも呼ばれている。

名門大学アルバータ大学も有するこの街は、近年カナダのAI研究開発を牽引している。

このように一見、観光客や企業・人材誘致に、アピールする材料に事欠かないように見えるエドモントンだが、マイナス45°Cを記録したこともある凍てつく長い冬という課題を抱えていた。

一年のほぼ半分が雪と雲に閉ざされるエドモントンでは、冬の最低気温はシベリアと並ぶレベルにまで下がる。


カナダ第五の都市エドモントン(アルバータ州観光公社公式チャンネルより)

そんなエドモントンを劇的に変えたのが「ウィンターシティプロジェクト」だった。

シティデザインとブランディングの成功例ともされるこのプロジェクトがユニークなのは、エドモントンにはこれだけ強みがある中で、あえて弱みともいえる寒く暗い冬を「強調」しているところだ。

この「ウィンターシティ」は、4つの柱からなる包括的なプロジェクトとなっている。冬でも楽しめる屋外活動や移動の足を確保する「ライフ」、冬の気候に適し、光を効果的に取り入れる建物で街づくりをする「デザイン」の二つの柱は、厳しい冬でも快適な生活空間を創出する。

実際、冬がもたらす困難さは必ずしも気温に比例しない。屋内の寒さや暗さ、また屋外の交通機関の乱れや、足元の悪さといったものは、建物やインフラの整備でかなりコントロール可能だ。

エドモントンでは、歩行者が信号で長く待つのを避けるための工夫や、積雪でも多様な形で移動する人びとが一緒に使えるような道路の整備を行い、ショッピングモールは光が入りやすく明るいつくりに変えた。


厳しい冬を快適に楽しむ

しかしエドモントンのウィンターシティプロジェクトが世界の注目を集めたのは、何より冬に関してポジティブなイメージを創り出したことだろう。

エドモントンの街を突き抜けるように流れるノース・サスカチュワン川のほとりに広がるヴィクトリア公園には、冬になると虹色の氷の道が白く輝く森をバックに浮かび上がる。

このカナダ初の人工アイストレイル「フリーズウェイ」は、ブリティッシュコロンビア大学の建築家の学生Matthew Gibbs氏によって考案され、2013年COLDSCAPES国際デザインコンペティションで優勝したプロジェクトだ。

最初は冬の通勤を楽しくする方法として考案されたそうだが、現在はレインボーカラーのライティングで彩られ、冬ならではのアウトドアアクティビティとしても住民や旅行者を楽しませている。

そして、ウィンターシティプロジェクトの3本目の柱は「エコノミー」。冬を生かしたイベントが観光客を惹きつける。

毎年2月に開催されるシルバースケートフェスティバルは、約7万人が訪れるエドモントンの冬の一大イベントだ。参加者はアイススケートといったウィンターアウトドアスポーツを楽しみ、各国のチームがつくりあげた雪や氷の彫刻が、冬の暗闇に炎で照らしだされる。


シルバースケートフェスティバル(アルバータ州観光公社公式チャンネルより)

最後の、しかしまぎれもなく重要な第4の柱は「ストーリー」だ。冬をつらい季節としてなんとかやりすごすのではなく、美しい季節として称え、ポジティブに楽しむエドモントンライフを、市民に、カナダ国内に、そして世界に発信する。

ソーシャルメディアも活用したこの取り組みの成果か、昨年エドモントンは初めて、ロンドンやパリといった有名な都市が並ぶWorld’s best citiesランキングにランクインした。

個性あふれる世界のシティブランディング 


酷暑でも楽しめるシティライフを提案するドバイ

極寒の冬を魅力に変えたエドモントンだが、真逆ともいえる気候であり、やはり世界から注目されているのが、ドバイだ。砂漠の街ドバイでは気温50度にも達する夏になると、服装や街づくりでなんとかできる暑さを超える。

しかし、ほぼ屋内で過ごさざるをえない季節があるゆえに、きらびやかなショッピングモールやホテルステイを発展させ、「近未来都市」として注目を浴びるようになった。

そして、産油国のイメージを活用し「世界一」のスポットを次々にうちだした世界一高い建築物ブルジュ・ハリファに。

世界最大の噴水ドバイファウンテン、世界最大の人工島パームアイランドが次々と建築され、インドアで有意義な休日をすごせるよう、東京ドーム約23個分もの広さの世界最大のショッピングモール、ドバイモールには1,000を超えるショップ、世界最大規模の水槽を有する水族館と世界最大のインドアスキー場が並ぶ。

2016年には世界最大の屋内テーマパーク、 IMGワールズ・オブ・アドベンチャーが開園した。

面積の多くが砂漠に覆われ観光資源に乏しく、屋外での活動が困難な凄まじい暑さという条件の中で、人工的に作り出された「近未来都市」ドバイを訪れる外国人数は順調に伸び、パリやロンドンと並ぶレベルに達し、1人あたりの観光客が使う金額については世界トップも記録しているという。

このような都市デザインとブランディングは、ヨーロッパでも成果をあげている。その一例が、フランス南東部の都市リヨンだ。

フランス第二の都市でありながら、以前は、あまりにも知名度が高すぎる首都パリと競うにはなんだかパッとしない街という印象はぬぐえなかった。

しかし、道路や公共交通を迂回させて作る都市デザインにより、歴史地区の保全をはかり、効果的に街のライティングを配置することで「光と歴史の街リヨン」としての街づくりを進めた。

2007年からは「オンリーリヨンプロジェクト」として、国内外へ積極的にリヨンの魅力のPRを開始、周辺で産出されるワインや牛肉などのトップクラスの食材と、豊かな食文化を生かし「ガストロノミー・シティ」としても、リヨンをフランス国内、そして世界中の人に知らしめた

昨年末にはリヨン国際美食館もオープンし、「美食といったらリヨン」のイメージはますます高まっている。

凍てつく暗く長い冬、屋外に出るのを躊躇するほどの酷暑、決定打となるような観光資源の不足、有名すぎる近くの都市との競合など、エドモントン、ドバイ、リヨンはそれぞれの課題を乗り越えて魅力ある街を創り上げてきた。

欠点ともいえる部分の克服のみを考えるのではなく、その街ならではの新たな価値を創り出す、都市デザインとブランディングの巧みな取り組みは、実際に知名度のアップや観光客、人材の誘致という形で成果を生み出している。

そしてなにより、弱みともいえる部分を生かす、隠れた強みを魅力として発信する、そのポジティブな姿勢は世界中にインスピレーションを与え続けている。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit

img:Pixabay

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