「世界一の自転車都市」コペンハーゲンで起こるモビリティ変革

「自転車都市」と聞いてまず連想するのは、オランダ・アムステルダムかもしれない。

しかし、世界各国の都市では自転車を都市交通の要にしようという取り組みが進められており、アムステルダムの地位は安泰ではない。

デンマークの都市交通コンサルティング会社Copenhagenaize Desin Coが2年に一度実施している「自転車にやさしい都市ランキング」。自転車インフラや施設、自転車に関する都市計画など14の指標をもとに、世界136都市をランク付けしている。

その最新版となる2017年のランキングで1位となったのは、デンマークのコペンハーゲンだった。2位はオランダ・ユトレヒト、3位はアムステルダム、4位はフランス・ストラスブール、5位はスウェーデン・マルメ。

コペンハーゲンが評価されている主な理由は、これまでに1億3400万ユーロ(約166億円)が投じられ、一貫した都市計画のなかで、街中に自転車道が整備され、多くの人々の自転車利用を促進してきたからだ。現在、同市市民の62%が日常的に自転車を利用しているという。

コペンハーゲンの試みは、自転車を都市交通の要にしようとする世界各都市からベンチマークとして注目を集めている。


コペンハーゲン市内にある自転車専用道

コペンハーゲンが世界一の自転車都市として評価される理由

北欧デンマークの首都で、同国最大の都市コペンハーゲン。人口は約60万人、面積は88平方キロメートル。

20年ほど前から自転車を都市交通の要にするための取り組みが続けられており、自転車道や自転車専用信号などのインフラにこれまで多大な投資が行われてきた。

同市の取り組みは奏功し、2016年には同市で自転車の数が自動車を上回る記録を達成。同年、コペンハーゲンを走っていた自動車の数は1日あたり25万2,600台、一方自転車は26万5,700台となったのだ。この20年でサイクリストの数は68%も増加している。

コペンハーゲン市は、今後10年で同市の主要地区における交通を「自動車フリー」にすることを目標に掲げており、自転車利用を促進するために、さらなる投資と取り組みを行っていく計画だ。また2025年までに、コペンハーゲンにおける通勤手段として、自転車の利用率を50%に高める計画もある。現在、約41%の人々が通勤で自転車を利用しており、実現可能な目標値と見られている。

コペンハーゲンの現在の人口は60万人ほどだが、今後15年かけて71万5,000人に増加するとみられている。コンパクトな都市であるため、自動車の増加によって渋滞が起こりやすくなる。しかし、自転車インフラが整備されているため、街でもっとも速い移動手段は自転車であるということが認識されやすく、人口増でも都市交通の効率性を保つことができるという。


Christiania Bikes

なぜコペンハーゲンでは、これほど多くの人々が自転車を利用するようになったのか。サイクリストを優先した道路のデザインや至るところに施されたユニークな工夫が多くの人々の自転車利用を促進しているようだ。

ユニークな工夫の1つとして挙げられるのが、サイクリストの信号待ちを最小限にする「グリーン・ウェーブ」という仕組みだ。

街なかで自転車を乗ると何度も信号待ちをしなくてはならず、煩わしいと思うことは多いはずだ。

グリーン・ウェーブは、通勤時間帯の信号のタイミングを管理し、サイクリストたちが通過する交差点で常に青信号で進めるようにする仕組み。赤信号で何度も待たずに済み、快適に通勤することができる。コペンハーゲン市の主要自転車道で実施されている。

通勤時間以外でも青信号だけで快適にサイクリングできる工夫も施されている。それが自転車道沿いに等間隔で埋め込まれたLEDライトだ。走行している自転車と同じ位置にあるLEDが青く光っている場合、次の交差店の信号は青信号になっていることを示す。青信号のタイミングを見計らって自転車のスピードを調節すれば、すべての交差点を青信号で渡ることが可能だ。

またセンサーをつかってサイクリストを検知し、そのサイクリストが進む次の交差点の青信号の時間を若干長くするという試みも実施されている。

すべてのサイクリストが常に青信号で渡れるわけではなく、赤信号で待つ場合もある。信号待ちのサイクリスト向けにも、ユニークな工夫がなされている。多くの交差点ではサイクリスト用の足台と手すりが備えられているのだ。信号待ちでも自転車を降りずに待つことができる。


Supercykelstier.dk

行政がサイクリストの声を聞き、リクエストに応えるのも自転車利用を増やす秘訣だ。

2010年、コペンハーゲン市はサイクリストの要望を受け付けるためのウェブサイトを開設。道路の陥没に関する情報や交差点でのサイクリスト専用待機ゾーンの設置などさまざまなリクエストの受け付けを始めた。コペンハーゲン市によると、2013年までに道路陥没に関する7,944件の情報を受け付け、そのうち6,396件について修繕工事を行ったという。

コペンハーゲン市民の生活の一部になっている自転車。2017年11月に実施されたデンマークの選挙で候補者のほとんどが自転車に関するマニフェストを掲げていたことからも、同国における自転車の重要性をうかがい知ることができる。

デンマークのサイクリスト・フェデレーションの調査では、選挙候補者の52%がより多くの道路スペースを自動車ではなく自転車に配分すべきだと主張していたことが判明。道路スペースの大部分は自動車の利用を大前提に設計されているが、それを不公平と見る候補者が多いようだ。また、自転車道の整備を公約に掲げた候補者の割合は94%に上る。

現在、コペンハーゲンではサイクリストの増加にともない自転車道の拡張が進められている。世界一の自転車都市として交通変革を進めるコペンハーゲン。その動向から目が離せない。

文:細谷元(Livit

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