日本で毎年2月に話題となる「恵方巻きの大量廃棄」問題。2019年1月、農林水産省が小売業界に向けて需要に見合う数を販売するよう通知を出したが、結果としては例年と変わらない大量廃棄が行われたとする報道もあった。日本だけではなく「食品の廃棄問題(食品ロス)」は世界中で現在社会問題となっている。
食品ロスとは?
食品ロスとはまだ食べることができる食品を廃棄することを指す。農林水産省の平成28年度の調査によると、日本の食品産業全体の食品廃棄物等の年間発生量は1900万トンとされている。
そのうち平成28年度の食品廃棄物等多量発生事業者による食品循環資源の再生利用等実施率は、業種別にみると、食品製造業は95%、食品卸売業は65%、食品小売業は49%、外食産業は23%となっており、まだまだ小売業や外食産業では徹底されていないことがこの数字からわかる。
また、世界全体では2011年5月にドイツのデュッセルドルフで行われた国際会議Interpack2011でFAO(国際連合食糧農業機関)が発表した報告によると、世界の人間が消費するために作られた食品の3分の1、量にして約13億トンが年間で廃棄されている。
先進国で無駄にされている食料の方が開発途上国よりも多い。食品ロスは先進国と開発途上国とではその理由は異なる。開発途上国では収穫技術や厳しい気候条件での冷蔵と冷却技術やインフラや輸送システムがよく整備されていないことによることが多い。
それに対して、先進国では農家と仲買人の売買契約が農作物の廃棄量に大きく関わっているとされる。また消費者が見た目の悪い食料を排除してきれいなものだけを売ろうとするサプライチェーン側の問題もある。
世界各国の食品ロス問題とその解決策
食品ロスが世界中で問題になる中で、各国のその対策について紹介しよう。
・フランス
食料ロス(食品の廃棄問題)は世界中で議論されており、各国さまざまな解決策が試されている。法整備としては、まず世界で初めて2016年2月にフランスで食品廃棄禁止法が成立された。この法律は賞味期限切れ食品の廃棄を禁止するための法律で、今後400平方メートル以上の敷地面積を持つ大型スーパーでは賞味期限切れ食品や賞味期限が近付いている食品の廃棄が禁止されている。廃棄したい食品は廃棄する代わりにチャリティー団体やボランティア組織などへ寄付するよう義務付けられている。
もしこの法律が守られてない場合は、最高で75,000ユーロの罰金、もしくは最大2年間の禁固刑を課せられることとなっている。しかしフランスでは大規模スーパーは国内全体のスーパーのわずか5%ほどしかならず、小中規模のスーパーや小売店ではこのルールが適用されないため、意味がないのでは、との声も多い。
・イタリア
イタリアでもフランスと同じ2016年9月に食品廃棄禁止法が成立された。イタリアの法案は、食品を寄付することにインセンティブをつけるもの。食品を寄付にまわす企業にはゴミに対する税金を減免したり、食品の安全に対する規制をゆるめたり、賞味期限を過ぎても寄付ができるようにしている。
・スペイン
スペインの取り組みとしては「Nevela Solidaria」(ネベラ・ソリダリア、連帯する冷蔵庫)というプロジェクトが2015年4月にスペイン北部のビスカイヤ地方のガルダカオコ市のGBGE(ガルダカオコの市民救援ボランティア協会)の手により始まった。
最初の1カ月の試用期間の間に200キロの食品廃棄を防げることが分かり、現在では市内と全国各地に13の連帯冷蔵庫が存在している。この連帯冷蔵庫は個人でも法人でも誰でも自分では食べる予定のなくなった余った食料を入れて、誰でも取り出すことができる。
イギリスの場合(The Real Junk Food Project)
Let’s REALLY Feed the World | Adam Smith | TEDxWarwick
The Real Junk Food Project(ザ・リアル・ジャンク・フード・プロジェクト)を立ち上げたAdam Smith(アダム・スミス氏)は、オーストラリアでシェフとして働いたり農業に従事して、その食品ロス問題に自ら直面した。そして、農作業を一緒にやっていたと同僚の一人に「自分の地元をまず変えることができないなら、世界を変えることはできないよ」と言われ、ハッとする。
そこで、地元のイギリスのリーズに戻り、チャリティー団体としてはなく、9つの「企業」として、この食品ロス問題に取り込むことにした。それが「The Real Junk Food Project」である。残った食品をごみ箱に持っていくのではなく人の口に持っていくことにしたのだ。
2013年12月に起業して1週間でまず「Pay As You Feel Cafe(払いたいと思った分だけ払って、というコンセプトのカフェ)」をオープンした。「払いたいと思っただけ払って」というのは「無料で食べていって」というわけではなく、人と食料、資源、そこにかかった時間と労力に価値を持たせ、その価値があるという感覚をまた人に返すといことである。このカフェに来て何かを食べたりした人は金銭的に寄付をしたり、窓や床を掃除したりして労力として協力することができる。
食料はスーパーの廃棄処分とされたものや街の市場、フードバンクなど「食品を取りにきてくれ」とメールで依頼が送られてきて、いろいろな場所から集めに行く。ここでは集めた食品を調理して売っていて、そのまま期限切れのものを「販売」していることにはならないため、法に触れることはない。
ちなみに、フードバンクとは包装がだめになったりしていて、食品そのものには問題がないが売ることができなくなった食品などを企業から寄付を受け、生活困窮者などに配給する活動およびその活動を行う団体のことである。ただフードバンクも3カ月以上食品を貯蔵しておくことができないなどのルールがあるため、そこからこのプロジェクトは食品を集めているのだ。
オープンして最初の年に23トンもの食料を廃棄から守り、12,000食の料理を作り、1万人の人に食を与えた。24人か26人くらいしか座ることができない小さなカフェであるので、この数字は驚異的だ。最初のカフェをオープンしてから13カ月で100以上もの世界中からのオファーがきて、結果として現在世界7か国で127か所のカフェがすでにオープンしている。
またカフェだけでなく、日本でいう「こども食堂」のような、家で一人でごはんを食べるリーズの15,000人の子どもたちにも食の場を与えている。
Food waste warriors: The pay-as-you-feel supermarket – The Real Junk Food Project, Leeds
また、カフェではなくスーパーも10カ所オープンした。「Social Supermarkets(ソーシャル・スーパーマーケット)」では週休2日で午後3時から6時までの3時間オープンし、カフェではキャパを超えた量の食料をフードバンク、カフェ、レストラン、ホテル、一般家庭などから集め、人の手に渡す橋渡しとなっている。キャビアやロブスターなど高級食材までも手に入るというから驚きだ。
廃棄となる予定だった年間1,000トンの食料を人々に渡すことに成功している。廃棄されそうになっていた食料を人々が取りにきて、自分が支払いたいという金額を支払うシステムである。2018年9月には24時間営業で年中無休のスーパー「Kindness(カインドネス:親切、の意味」というスーパーもオープンさせることにも成功した。
買い物ができるのは基本的に会員のみで、スーパー内では食料品を提供するだけでなく、
生活保護受給者へのサポートの活動も行う。債務の処理や料理、履歴書の書き方や家計簿のつけ方など、経済的自立を促すような献身的なサポートで地元住民を支える。
この動きは世界に波及し、現在ではこのソーシャル・スーパーマーケットは、ドイツ、フランス、オーストラリア、日本と北米でもすでにオープンしている。日本では東京都多摩市のNPO法人「シェア・マインド」が2017年9月から月に1度「無料スーパー」を開いている。
また「F4S:Fuel for School(学校に燃料を)」というプロジェクトでは、2015年に地元のカトリック教会からスタートし、現在ではイギリス北部のブラッドボードの地元の合計24校と協力して、食品ロス問題について、子どもたちに考えるようにする機会を作っている。
まずは朝食を子どもたちに与えることから始め、また野菜を育てたりしている。このプロジェクトのリーダーNathan Adkinson(ネイサン・アドキンソン氏)は英国の国際教育機関「Varkey Foundation(バーキー財団)」が設立した「Global Teacher Prize(グローバル・ティーチャー賞)」の候補者50人にも選ばれた。
The man using ‘junk food’ to stop food waste – BBC News
創業者のアダム・スミス氏は語る。
「うちのカフェで取り扱い食品の量を増やしたいとかそういうわけではない。いつか、こういうビジネスがなくなることを願っている。
この世界的な問題を次の子どもたちの世代に解決させなければならない。そのためには皆の一人ひとりのアクションが必要だ。一人ひとりがちゃんと意識して食料を手にするようになれば、プラスにもマイナスにも地球環境や社会に影響が出て、この食品ロスの問題の解決へとつながるのだ」。
社会問題としてではなく、まず環境問題として取り組んでいるのだと、強く訴えるアダム・スミス氏。他人のことではなく、まずは自分でもできることはないか、一度考えてみる必要があるだろう。
文:中森有紀
編集:岡徳之(Livit)