フォロワー数5000以下でも活躍、「ナノ・インフルエンサー」に企業が注目する “まっとうな” 理由

ユーチューバー、ブロガー、インスタグラマー・・・ SNSから発したネット上の有名人「インフルエンサー」。その影響力は、今や俳優やタレントに匹敵する勢いだ。

企業はインフルエンサーを起用した広告を打ったり、彼らに商品を使ってもらい、それをSNS上にポストしたり。はたまたコラボ商品を開発したりと、インフルエンサーを使った宣伝広告は加熱する一方だ。

これまでインフルエンサーを起用する場合、フォロワー数が100万以上の幅広い認知度を持つ「メガ・インフルエンサー」が中心だった。しかしその裾野が拡大している今、インフルエンサーの細分化・多様化が進んでいる。

中でも注目され始めているのは、フォロワー数が1,000~5,000程度の「ナノ・インフルエンサー」だ。

小規模のコミュニティにおいて絶大な信頼を得ている彼らは、メガ・インフルエンサーを凌ぐ購買決定力を有する言われる。ナノ・インフルエンサーとはどんな存在なのか? 彼らが台頭する背景は何か?

メガ、マクロ、マイクロ、ナノ・・・ 細分化するインフルエンサー


ナノ・インフルエンサーのAlexis Baker,(上段)とHaley Stutzman(下段)

サンフランシスコにあるデジタルマーケティング会社CMSWireによると、現在インフルエンサーは、4つのカテゴリーに分けられるという。

  1. メガ・インフルエンサー:フォロワー数100万以上の著名人。テレビタレントや俳優もこれに属する。老若男女、様々な人に知られているため、一回の露出で幅広い層に情報がリーチする
  2. マクロ・インフルエンサー:メガ・インフルエンサーのワンランク下であり、フォロワー数は10万~100万。メガ・インフルエンサーとの違いは、彼らはSNSがきっかけで名声を得たところだ。いわゆる(SNS出身の)インフルエンサーとは、マクロ・インフルエンサーを指す。
  3. マイクロ・インフルエンサー:10万以下のフォロワー数を持つ、比較的ニッチで専門的な分野に強いインフルエンサー。メガやマクロよりも均一的なオーディエンスを持ち、特定の分野で強い発言力を有する。いわゆる「専門家」「オタク」に近い位置にいる。
  4. ナノ・インフルエンサー:フォロワー数1,000~5,000の、最小規模のインフルエンサーで、自身のコミュニティ内で強い影響力を持つ。親族、クラスや地域社会でのリーダー的存在に匹敵する。

このように、一口にインフルエンサーと言っても幅広い。上位に行けばいくほど知名度(フォロワー数)は上がり、一度に広い対象へのリーチが期待できる。そして下位にいくほどオーディエンスは狭まるが、深いエンゲージ度が期待できる。企業のインフルエンサーへの投資額も、上へいくほど高額になる。

インフルエンサーマーケティングを専門とするアメリカのIntellifluenceのCEO、Sinkwitz氏は「一般的に、オーディエンスが多くなればなるほどターゲットが散漫になる。プロモーション商品に対する適切な影響力、購買決定力を持つインフルエンサーを選ぶ必要がある」と言う。

大好きな友人に勧められて「買っちゃう」感覚

では今、ナノ・インフルエンサーに注目が集まる理由は何だろう。彼らは雲の上のセレブではなく、オーディエンスにとっては「友人」のような親しみやすい存在だ。ちょうど、AKB48がデビューしたての頃のような、「手に届く」身近なインフルエンサー。

小さいコミュニティを形成する彼らは、いわばクラスの人気者であり、住んでいる地域のリーダーであり、趣味のクラブに属するエキスパートなのである。

彼らからの言葉は宣伝文句というより「信頼できる友人からの言葉」として、リアリティを持ってメンバーに受け入れられる。

例えば、友人に「このリップ、保湿効果があってすごくいいよ!」と言われたら「じゃあ、私も買ってみようかな」と思うだろう。ナノ・インフルエンサーには、そんな小さくも強い購買決定力があるのだ。

オハイオ州コロンバスに住むKelsey Rosenbergは、インスタグラムで1900人のフォロワーを持つナノ・インフルエンサーだ。彼女は自身のアカウントで日常のポストのほか、定期的にフィードに地域の企業やレストランの「広告」を組み込んでいるという。

「私はバーのハッピーアワーで友人に話すように、インスタグラムで彼らに話しかけているのよ」と言う。

コストの低いナノ・インフルエンサー

ナノ・インフルエンサーに注目が集まるもうひとつの理由は、かけるコストが安く済むことが挙げられる。インフルエンサー市場が盛り上がるにつれ、彼らへの使用コストも嵩む一方だ。

はじめは、テレビタレントと比べたら安く済んでいたマクロ・インフルエンサーも、フォロワー数の増加や注目度の高まりにつれ、価格もうなぎのぼり。

また彼ら自身も、はじめは初々しい感覚を持っていたとしても、広告オファーが増えていくにつれ「セレブ」のようになり、高い金額を要求していくことも珍しくはない。

一方、ナノ・インフルエンサーの多くは「素人」である。彼らは、商品の無料提供や少額の謝礼、イベントへの招待でも引き受け、何より企業側の要求を聞き入れやすい。

インフルエンサーに選ばれたことを素直に喜び、その謝礼で身を立てるのではなく、あくまで「サイドビジネス」「趣味」として捉えている。

バージニア州に住むAlexis Bakerは、インスタグラムで約3000人のフォロワーを持つ。

彼女はシャンプーや化粧品会社からオファーを受け、その広告を随時ポストしている。Bakerの友人たちは、ポストに#sponsoredや#adというハッシュダグを見て、彼女がインフルエンサーであることに非常に驚いたという。

Bakerは、普段は地元の企業に勤めている。「もし有名になって独立したら・・・ それは素晴らしいことです。でも私はそれを望みません。私はこうして、素敵な写真を撮ってインスタグラムにアップすることが好きなのです。そしてそれが広告として効果があるなら満足です」。

高額化するインフルエンサー市場

ここで、「失敗例」をひとつ紹介する。フォロワー140万人を要する、アメリカの人気インスタグラマーLuka Sabbat。2018年、彼は「契約違反」を申し立てられ、訴えられた。

SabbatはPR会社を通してSnapchatとインフルエンサー契約を結んだが、その内容を履行しなかったという。

契約内容は、Snapchatの開発したチャット用サングラス「Spectacle」の記事を、ストーリーに3つ、フィードに1つポストする。そしてミラノ、パリのファッションウィーク期間中にサングラスをかけて登場し、ファンの撮影に応じるというものだった。

報酬額は6万ドル。彼はストーリーとフィードに1つずつしか投稿しなかったと、PR会社に訴えられたのだ。

企業側にとって、有名なインフルエンサーに高い金額を払って使用し、その対価が得られるかは賭けでもある。その点、ナノ・インフルエンサーは狭い範囲ではあるが確実に購買に繋げられる手堅い存在であり、たとえ失敗したとしても、低コストのため打撃もほとんどない。企業にとっては扱いやすく、都合が良い存在でもあるのだ。

サンタモニカのデジタルマーケティング会社RPAのMike Dossett副社長は、ナノ・インフルエンサーの利用は「論理的に明らかに利点がある」と言う。「彼らは単価が低いから、企業は大勢のナノ・インフルエンサーを使うことができます。それによって、ブランド独自のコンテンツを作成することも可能なのです」。

ナノ・インフルエンサーの今後

いいことづくめのように見えるナノ・インフルエンサーだが、欠点はないのだろうか。

まずは、その効果が狭く限定的であることはこれまでにも述べてきた。もうひとつは、契約交渉からブランドコンテンツのレビューの仕方など、ブランドを扱う一連のプロセスに慣れていないことだ。その点、経験豊富なインフルエンサーはスムーズである。ナノ・インフルエンサーにはこの点において、何らかの教育の必要性がある。

とはいえ、広告ツールとしてのSNSは今後もより重要度を増すことは必須だ。多くの企業がナノ・インフルエンサーに注目し始めていることは確かであり、その存在感は高まっていくだろう。

しかし、現在は成功している有名なインフルエンサーも、元は一般人であったはずだ。彼らの注目がアップするに従い知名度が上がっていき、今の地位を形成している。

今は無名のナノ・インフルエンサーも、いずれはそのステップを踏み、化ける可能性もある。そのとき、彼らの存在価値やコストも変わっているだろうし、企業側と「相思相愛」の関係を築けるかは不明である。

インフルエンサー市場は急速な勢いで変化している。その変化をどれだけ予測できるか、そして柔軟に対応できるかが、成功のカギかもれない。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit

モバイルバージョンを終了