フィットネス市場の主戦場はジムから自宅へ。Eジム・ホームジムの台頭

フィットネス産業の国際業界団体IHRSAの最新調査によると、2017年世界のフィットネス市場の売上高は872億ドル(約9兆5,000億円)に達した。フィットネスクラブの数は20万カ所以上、会員数は1億7,400万人。

国別で最大の市場は米国。2017年の売上高は300億ドル(約3兆3,000億円)、フィットネスクラブ数は3万8,477カ所、会員数は6,090万人。売上高2位はドイツ(56億ドル)、3位は英国(55億ドル)。

2008年米国のフィットネスクラブ会員数は4,560万人だった。2008年比でその数は30%以上増加している。IHRSAは2030年までに世界のフィットネスクラブ会員数を2億3,000万人に増やすイニシアチブを開始。消費者の健康意識の高まりとともにフィットネス市場は今後も拡大する可能性が大きいとみられている。

一方、ジムではなく自宅でエクササイズをしたいというニーズの急速な高まりを受け、自宅でのエクササイズを前提としたプロダクトやサービスが数多く登場、新たなフィットネス市場が台頭している。

ミレニアル世代に人気のスピンクラス、自宅で参加できるPeloton

健康を増進・維持したいと考えジムの会員になったものの、仕事が忙しくジムに行く頻度が時間とともに下がっていき、数カ月後には退会してしまった。このような経験を持つ人は多いはず。

英ガーディアン紙がいくつかの消費者調査をまとめたところ、英国ではジム入会後8週間以内に退会する人の割合は80%以上と非常に高い割合であることが判明。他の調査でも、時間が経つにつれ会員維持率は一定の割合で減少することが指摘されている。

会員がジムを辞める理由はいくつかあるが、ジムまでの距離は主な理由の1つとして考えられている。

米国のデータ分析企業Dstilleryが750万人に上る匿名データを調査したところ、ジムまでの距離が短くなるほど、ジムに通う頻度が高くなることが明らかになった。ジムまでの距離が3.7マイル(約6キロ)の場合、ジムに通う頻度は1カ月あたり5回以上となったが、5マイル(約8キロ)以上の距離になると、その頻度は1回に下がったという。

Dstilleryの調査結果からはジムに行かずに自宅でも健康を増進・維持できる環境が整えば、人々は自宅でエクササイズをするようになることが示唆されている。

米国発の自宅フィットネス・スタートアップPelotonの短期間での躍進は、ホームジム、それにテクノロジーを掛け合わせたEジムの需要の高さを実証している。


Pelotonウェブサイト

2012年に設立されたPeloton。新しいコンセプトを基にした自宅フィットネス向けのランニングマシンとエアロバイクを開発・販売、またフィットネス・コンテンツを配信している。

ウェルネスメディアのWelltodoが業界関係者の話として伝えたところでは、2018年10月時点で、Pelotonの配信コンテンツ登録者数は60万人、評価額は40億ドル(約4,400億円)に達した。もしジムであれば、米国で5番目の規模になっているという。

現在、米国、英国、カナダで事業を展開。2019年中には新しいショールームを20拠点開設し、計60拠点での販売体制を構築する計画という。

ミレニアル世代を中心に人気を集める、バイクを使った有酸素運動のスピンクラス。Pelotonは1万以上のスピンクラス・コンテンツをオンデマンド配信している。また1日14回のライブ配信も行っている。


Pelotonが配信するスピンクラス動画

英テレグラフ紙によると、Pelotonユーザーには元サッカー選手のデビット・ベッカム氏、映画俳優のヒュー・ジャックマン氏、オリンピックメダリストのマイケル・フェルプス氏など多くの著名人が名を連ねているという。

Pelotonスピンバイクの価格はベーシックタイプで、2,245ドル(約25万円)。また、会員費として月額39ドル(約4,200円)が必要となる。

Welltodoによると、Pelotonの2018年の売上高は7億ドル(約770億円)に達する見込み。今後近いうちにIPOが実施される可能性もあるという。

自宅エクササイズを手軽にするフィットネス・プラットフォーム

自宅フィットネス分野を盛り上げるのはPelotonだけではない。

場所を選ばず効果的なエクササイズの方法をコーチするフィットネス・プラットフォームが急速に増えていることも自宅フィットネスを促進する要因だ。

英国発の「Fiit」は、家でのエクササイズを前提としたコンテンツを配信するフィットネス・プラットフォームだ。Pelotonのようにスピンバイクやランニングマシンなどの大掛かりな器具は使わない。


Fiitウェブサイト

有酸素運動、筋力強化、ヨガの3つのカテゴリがあり、それぞれお気に入りのインストラクターを選び、エクササイズを行うことができる。スマートフォンまたはタブレットでコンテンツ視聴が可能だ。

無料版かプレミアム版を選ぶことができるが、無料版ですべてのコンテンツを視聴することができる。プレミアム版では、心拍数や消費カロリーを計測するデバイスが提供され、データのライブトラッキングやデータを活用したパーソナライゼーションが可能になるという。サブスクリプション費用は3カ月毎に45ポンド(約6,400円)、または年間120ポンド(1万7,000円)。

Fiitの調査によると、現在市場には15万以上のフィットネスアプリが存在しているが、30日以上利用されるのはこのうちの2%、90日以上では1%に絞られるという。

競争の激しいデジタル・フィットネス市場。生き残るには差別化が必要になる。

「Kenzai」はエクササイズだけでなく、栄養や知識に関するコンテンツを配信、包括的なアプローチで差別化を図るフィットネス・プラットフォームだ。ストレッチバンドなど簡易な器具でできる効果的なエクササイズ動画に加え、栄養学や解剖学の観点から身体に関する知識を向上させる情報を配信し、デジタル・パーソナル・トレーナーのような存在として人気を集めている。インドや日本でも展開している。

インターネットの普及で、教育分野ではオンライン教育が、労働市場ではリモートワークが増加している。フィットネス市場でも、同じような流れが起こる可能性は非常に高いといえるだろう。Pelotonを筆頭に、自宅フィットネス企業が、既存フィットネス市場をどのようにディスラプトするのか、今後の展開が楽しみだ。

文:細谷元(Livit

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