日本だけでなく、アメリカやヨーロッパ・・・世界中でフリーランスが増え続けている。それに伴い、”個” の力を高めるテクノロジーが各国で続々と誕生し、フリーランスを支援するサービスの市場も成長中だ。
今回の記事では、各国で成長するフリーランス市場と、新たに生まれた「フリーランス・ファースト」なサービスについて紹介し、企業に属さないフリーランスの ”新しい働き方” についても考察する。
ドイツのコワーキングスペース『FACTORY CAMPUS(ファクトリー・キャンパス)』のエントランス(写真:著者撮影)
世界でフリーランスが増加中
クラウドソーシングの「ランサーズ」が2015年から実施している『フリーランス実態調査』によると、日本で2015年に913万人だったフリーランスの人口は2018年に1,119万人に増加し、現在、労働人口の約17%を占める。
日本だけではない。アメリカのクラウド会計ソフト「FreshBooks」の調べによると、同国のフリーランス人口は約4200万人。これは労働人口の約33%に該当する。イギリスでも、同国の国民統計局によると、2001年以降、フリーランスの数は増加の一途をたどっており、現在、労働人口の約15%を占めている。
各国でフリーランスの数が増え、経済効果も無視できない規模になるに従い、フリーランス向けの「フリーランス・ファースト」なサービスも増加している。特に働く場所、コミュニティ、本業以外の業務の効率化に関するサービスが拡大している。
コワーキングスペースは年率20%の成長
JWT Intelligenceが発表した『The Future 100: 2019』によると、 コワーキングスペースはロンドン、ニューヨーク、シカゴなどの主要都市で、年率20%で拡大している。
コワーキングスペース「WeWork」の時価総額は200億ドルにものぼり、フィットネス事業にも参入。女性専用のコワーキングスペース「The Wing(ザ・ウィング)」は3,200万ドルもの資金を調達しており、8,000人が入会待ちと人気沸騰中だ。
同僚や上司がいないフリーランスにとって、横の繋がりは非常に重要だと言える。コワーキングスペースを利用することで、仕事獲得、ネットワーク構築、業務効率化などさまざまなメリットを享受することができる。
WeWorkのメンバーになるともらえるグッズ。中央はスマホに貼って使えるカードホルダー(写真:著者撮影)
ドイツ発、大学キャンパスのようなコワーキングスペース
例えば、ドイツの商業都市デュッセルドルフのコワーキングスペース『FACTORY CAMPUS(ファクトリー・キャンパス)』はメーカー、既存企業、スタートアップ、アーティストなど、さまざまな領域の人たちを繋げ、互いに学び、成長するための環境を提供している。
キャンパスという名前の通り、外観はまるで学校(写真:著者撮影)
施設にはランチスペースとワークスペースがあり、ランチスペースでは他のメンバーとコミュニケーションを取りつつ仕事ができる。利用者同士、気軽に自分のサービスやプロダクトのレビューを依頼したり、ランチを食べながら仕事の話をしたりしているそうだ。
ワークスペースには、一つ一つ区切られたデスクスペースがあり、空いていればどこを使うのも自由。デスクは上下可動式で、立って仕事もできる。メンバー同士の交流にはSlackを使用しており、定期的にイベントも開催されている。
デュッセルドルフは経済だけではなく、芸術、文化面でも有名。利用メンバーには、フリーランスや起業家、オフィスワーカーだけではなく、アーティストやクリエイターも多く所属しているそうだ。
ソーシャルキャピタル(社会資本)の登録で無料利用可
オランダ発のコワーキングスペース「Seats2meet」には、自身のスキル(ソーシャルキャピタル)を登録し、助け合うことが前提で、ワークスペースを無料利用できる。アムステルダム、ユトレヒトなどオランダの主要都市で利用可能だ。
アムステルダム中央駅徒歩5分の好立地、Meet Berlage(写真:著者撮影)
筆者がよく利用するのはアムステルダムのMeet Berlage。Seats2meetの公式サイトで席の予約ができる。アムステルダム中央駅を一望でき、最近はユーザーの満足度を高めるために素敵なコーヒー・バーができた。
個人利用できるデスクが欲しい場合は有料登録が必要だが、オープンスペースの机は無料。ブロックチェーン勉強会や、コーチングなど定期的にイベントも開催されている。
顔見知りの利用者には、Eラーニングのサービスを開発している男性や、翻訳家のフリーランスの女性、ライター、研究者などがおり、職業もさまざまだ。ランチタイムやクリスマス、イースターの時期は一緒に食事もし、交流を深めている。
イースターの時期には朝食会が開かれた(写真:著者撮影)
コワーキングスペースにはそれぞれ個性があるが、Meet Berlageの特徴は「ガツガツしていない」ことかもしれない。「何かを作り出さなくては」「何かを達成しなくては」「成功しなくては」・・・そういったプレッシャーはなく、利用者一人ひとりがのんびりと自分のやるべき仕事をして、ゆるく繋がっている。
1日の終わりには、余ったサンドイッチやクロワッサンが無料で振舞われることもある。食品廃棄を良しとしないオランダ人らしい行動だと感じた。
Seats2meetの会員ページ。ワークスペースの予約状況やフォーラムへの質問などを管理できる(画像:Seats2meet公式サイトより)
一方で、コミュニティ機能もしっかりと整備されている。Seats2meetの会員ページには、自身のプロフィール登録や予約状況の確認だけではなく、利用者同士が質問しあうフォーラムもあり、活発に意見が飛び交っている。
企業とフリーランス、より良い関係を模索するコミュニティ
コワーキングスペースの他にもフリーランスを対象とした様々なコミュニティが生まれつつある。
例えば、2017年にイギリスのCasey Bird氏によって作られた『Freelance Circle』では、フリーランスがエージェンシーをレビューすることが可能だ。
フリーランスのコミュニティプラットフォーム『Freelance Circle』(画像:『Freelance Circle』公式サイトより)
このサービスが誕生した背景には、イギリスにおけるフリーランス人口の増加と、その40%近くをクリエイティブ産業の人々が占めるという事実がある。広告エージェンシーもプロジェクトを進めるにあたってフリーランスと組むことが増えているのだ。
創設者のCasey Bird氏いわく、「フリーランスと代理店、双方のビジネスをより良くする使命を持ってコミュニティを開設した」。
これまでは単発、一回限りの労働力としてフリーランスと仕事をすることが多かったかもしれないが、フリーランス人口の増加により、仕事の仕方も変わってきている。長期的なビジネスパートナーとして良い関係を築くためには、片方だけの意見の押し付けではなく、対等な関係として仕事ができる状況を作ることは有意義ではないだろうか。
外部の人と仕事をすることで、仕事の進め方を見直すきっかけにもなるはずだ。パートナー企業から適切なレビューをもらうことができれば、フリーランスにとってのメリットも大きい。
本業に集中するためのサポートサービス
フリーランスになると、これまで会社が代行してくれた経理・納税作業を個人で行う必要が出てくる。見積書・発注書・請求書の管理は意外と煩雑だ。特にクリエイティブ系の職種のフリーランスの中にはバックオフィス作業が苦手な人も少なくない。
手書きのイラストロゴが印象的なANNA(画像の出典:ANNA公式サイト)
イギリスで2018年にバックオフィスサービス『ANNA』がローンチされた。
クリエイティブ業界の事業者に特化したANNAは、Absolutely No-Nonsense Admin(絶対的にナンセンスじゃない管理)の略で「バックオフィス業務を絶対にスマートにこなす」という決意が感じられる。スマホで全てが完結し、AIが自動で学習して請求・支払い漏れをリマインドしてくれる。ポケットの中で全てのバックオフィス業務が完了するのだ。
また、サンフランシスコで2013年に創業したHoneyBookは、顧客からの問い合わせ、契約、ドキュメント管理、タスク管理、支払いなどのデジタル決済、全てがオールインワンになったサービスを提供している。
筆者はIT業界での勤務経験が10年以上、フリーランスとしては4年目だが、問い合わせ、ドキュメント管理、タスク管理、支払い、契約書管理、全てがまとまったサービスは見たことがなく驚いた。
確かにこれらがまとまっていたら非常に便利だし、業務が効率化されるだろう。アプリから決済・送金が簡単にできる点は海外ならではだと感じる。
アプリから簡単に支払いの受け取り・請求書管理ができる(出典:アプリダウンロードサイト)
フリーランスの増加と働き方の変化に、まだ企業慣習や法律が追いついていない国も多い。
しかし、フリーランスの人口が増えるに従って、彼らが能力を最大限に発揮するためのサービス開発も進んでいる。これまで、「フリーランスは企業に仕事をもらう個人」といった、完全に対等とは言えない関係であったが、それも変わってくるだろう。
企業のように業務プロセスが定まりきっていないフリーランスのタスク管理・トラブル対応なども、コミュニティやサポートサービスの成長によってより洗練されていくのではないだろうか。
文:佐藤まり子
編集:岡徳之(Livit)