今年も1月8日~11日まで米国ラスベガスで開催されたコンシューマー向け電化製品の展示会「CES」ではさまざまな新商品・新技術が発表され、世間の注目を集めた。
中でも2016年頃から徐々に盛り上がりを見せている「ベビーテック」分野では、「時短」や「効率アップ」に貢献するプロダクトが目立った。本稿では、仕事や育児に忙しい子育て世代の期待に応え、ゲームチェンジャーとなるような画期的なアイテムを紹介する。
今は「見る」だけじゃない、進化するベビーモニター
近年ベビーモニター市場は成長を続けており、英国のリサーチ会社Technavioの調べによると2023年までに、1億1千USドル(約120億円)規模にまで拡大するという。
今年のCESで「ベスト・ベビーテック賞」を受賞した製品の一つが、「新世代のベビーモニター」を謳う「Miku」だった。
Mikuの一番の売りは、AIを搭載したセンサーフュージョンテクノロジーが赤ちゃんの呼吸、心拍数、睡眠や動きのパターンを暗闇でも検知してくれること。部屋の温度や湿度など赤ちゃんの過ごす環境が適正に保たれているか知ることができる。しかもこうした情報は赤ちゃんに何かを取り付けることなく、すべてカメラを通して分析されるため、すでに市場に出回っているウェラブルテックなどとは一線を画している。
Miku、部屋のインテリアにも馴染むシンプルなデザイン(同社の公式Facebookアカウントより)
双方向スピーカーを通じて別室にいるユーザーが赤ちゃんに話しかけたり、歌を聞かせたりもできる。赤ちゃんのお気に入りの音楽を組み合わせて作ったプレイリストを再生することも可能。インターネットが遮断された場合もローカルで動作し続けるのでモニタリングが中断される心配もない。そして、カメラが撮影した動画や写真をそのままスマートフォンに保存してくれるという、機能満載だ。
さらに、同社が提供する有料サービス「MikuMind」に登録すると、赤ちゃんの睡眠レポートや専門家からのアドバイスを受け取れたり、思い出に残るようなビデオや写真の編集もしてくれたりする。価格は399USドル(約43,000円)で、2019年2月1日から配送開始予定。現時点では米国内のみでの販売だが、今後順次販路を拡大していく予定だ。
Nanit(同社公式Facebookアカウントより)
現行モデルが人気のモニター「Nanit」から登場した新モデルで、すでに発売されている「Nanit Plus」も、CESを通じてさらに広く知られることとなった。
スマホアプリでどこからでも赤ちゃんの様子をチェックでき、起床時・就寝時などはプッシュ通知してくれる。またタイムラプスで昨晩の就寝の様子を見たりアマゾンの提供するアレクサと連携させて昨晩の赤ちゃんの睡眠時間や起床時間を尋ねたりもできる。こちらも有料サービス「Nanit Insight」に登録すると、ビデオ編集機能や睡眠記録と育児に関する専門的なアドバイスを得られるという。
価格は379UDS(約41,000円)と、Miku同様、ベビーモニターの中では安くないが、アマゾンのレビューを見てみると「値段の価値はある」や「望んでいたベビーモニター」など半数以上が五つ星評価をつけており、評判は上々のようだ。
Nanit Breathing Wear(同社公式ウェブサイトより)
また、2019年の春に同社が発売予定の「Nanit Breathing Wear」は、寝ている赤ちゃんをこのおくるみで包むと、赤ちゃんの呼吸の様子をスマホでチェックできるというもの。NanitがBreathing Wearの幾何学模様を読み取ることで、赤ちゃんの呼吸の様子を正確に分析するというしくみ。コットン100%で電子機器は一切ついていないため洗濯機で洗うことができるという、手入れのし易さも魅力的だ。
ここまで取り上げたベビーモニターはいずれも、赤ちゃんの様子の録画、記録にとどまらず、これまで親が時間を割いてきた育児に不随するタスク――例えば、スマホアプリに手動で子どもの成長を記録したり、成長段階で発生する悩み(部屋の温度は適正か?わが子に見合ったスリープトレーニングとは?など)の解決策を調べる――などを一括して請け負ってくれる。
Nanit社の調べによると、赤ちゃんが産まれて最初の一年は、親は平均44日間の睡眠時間を奪われる。これらのデバイスが、少しでも毎日の生活にゆとりをもたらしてくれるかもしれない。
ワーキングマザーの生産性を上げるスマート搾乳機
米国で出産後職場に戻る女性のうち、四分の一はなんと出産後10日以内に職場復帰しているという。そうなると当然、母乳育児中のワーキングマザーは職場に搾乳機を持参しなければならず、彼女らにとって搾乳機の大きさ、搾乳方法のスマートさや作動中の静けさは最も譲れない点だ。
Willow(同社公式Facebookアカウントより)
スマート搾乳機「Willow」は2017年にリリースされて以降、ウェアラブルで持ち運び可能、スマホアプリと連携させて搾乳量のトラッキングができること、搾乳後は本体からミルクバッグを取り出してそのまま保存できる点などが評価され、業界をリードしてきた。
本年度のCESで披露された新バージョンでは、ユーザーからのフィードバックを反映させ、より早く静かに搾乳できるようになった。組み立ても以前より簡単になり、搾乳量を確認できる覗き窓もついた。
Elvie(同社公式Facebookアカウントより)
また別のスマート搾乳機「Elvie」も、ベスト・ベビーテック賞を受賞。Willowと同様、授乳ブラの中に収めて使えるチューブレス&持ち運び可能なデザイン。アプリで搾乳したミルクの量のトラッキングもしてくれ、同製品が売りにしている搾乳音の静けさは寝ている赤ちゃんを起こさないほどだという。
こうしたスマート搾乳機の最大の魅力は、搾乳中に手が空くため、お母さんが搾乳と同時進行で別のことができること。米国のリサーチ会社Zion Market Researchによると、米国内での搾乳機の需要は2017年の870億USドル(約10兆円)から2024年には1,080億USドル(約12兆円)にまで拡大するという。このことは、今後これら高価格帯のデバイスにのトレンドがシフトしていくであろうことを示している。
子どもの病院通いの負担軽減へ――医師によるオンライン診察
医療データを扱うUpToDateによると、6歳以下の子どもが9月~4月の間に病気になる平均回数は6~8回。子どもが病気になった時、病院へ連れていくか自宅で様子をみるか、判断に悩む経験をした親は少なくないだろう。そんなシチュエーションで役立つのが、医師によるオンライン診察を可能にする自宅用診察キット「Tyto」だ。
Tytoに含まれるキット(同社公式ウェブサイトより)
キットには聴診器、耳鏡や体温計などが同梱されており、保護者がこれらを使用して、オンラインで医師の診察を受けることができる。そして、通常の診察と同様に、処方箋が出されたり、病院へ行って直接医師の診察を受けるべきかが告げられる。
本製品は子どもだけでなく、病院に行く前に専門家のアドバイスが欲しい人なら誰でも利用可能。米国の医療保険を通じて実質無料で購入できるため、今後広く普及していくことが予想される。
米国農務省が2010年に試算した、同国の赤ちゃんが生まれた家庭の最初の年の平均支出は12,000USドル(約130万円)、中でもテック関連への支出は増加傾向にあるという。今、赤ちゃんを産み育てている世代の多くはミレニアル世代。共働き比率が高く、育児に割けるリソースが限られている中、テクノロジーを効率的に取り入れる姿勢がうかがえる。
育児は毎日休みなく続くものだからこそ、少しでも負担を軽減させたいもの。ベビーテックのますますの進化に期待したい。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)