【SDGs】ダイビング・ツーリズムで加速する持続可能性アップの取り組み最前線

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観光産業のなかでも「ダイビング」は人気ジャンルの1つである。現在世界で認可されたPADI(パディ)ダイバーは2500万人おり、さらにその人気から近年は年間100万人の新しいダイバーがライセンスを取得していると言われている。日本から東南アジアへのLCC就航増加も後押しし、ダイビング人気が高まっているようだ。

しかし、この楽しいレクリエーション活動にも持続可能な社会への義務が生じている。今回は、ダイビング観光にともなう海洋環境への影響を紹介したうえで、「Green Fins(グリーンフィン)」団体の持続可能なダイビング観光を構築する取り組みの最新動向をお伝えする。

減少し続けるサンゴ礁

海洋環境保護は、国連のSDGs(2030年までに世界を変革するための持続可能な開発目標)の14(水面下の生活)と12(持続可能な消費と生産)に該当する分野だ。

しかし近年、ダイビング人口の増加にともない、サンゴ礁やビーチの管理が不十分な新興国の観光地では、サンゴ礁が損傷し、エコシステムが損なわれる危機にある。増え続ける観光客数は、サンゴ礁へのストレスの増加につながる。さらに地球温暖化など気候変動による圧力をうけ、サンゴ礁はこれらに対処する弾力性がなくなり、死滅する状態になってきているのだ。

世界自然保護基金(WWF)の調査では、世界のサンゴ礁の半数以上である58%が潜在的に人間の活動に脅かされているという統計が出ている。2018年の段階で、人類はすでに世界のサンゴ礁の27%を死滅させており、現在の破壊率が続くと今後30年間で世界のサンゴ礁の60%が破壊されるだろう、という恐ろしい結果が公表されている。

サンゴ礁の圧迫や死滅の原因は、様々な要因に起因する。リーフワールド財団が2015年から2017年にかけて498名のダイバーを試験研究した結果、ダイバーが入水して浮力を調整している際、半数以上の63.5%のダイバーがサンゴ礁に接触しているという統計が出ている。

防水加工の袋に入れたスマートフォンやカメラを首に下げてダイビングするダイバーやカメラマンも多いが、その74%が気づかないうちにカメラをサンゴ礁に接触しダメージを与えてしまっている。

頻繁にダイビングが行われる海では、ダイビングセンターが場所を決定するアンカーの設置も毎年7.1%ものサンゴ礁に影響を与えているという結果が出ている。無造作にアンカーを下すのではなく、浮標に停泊させる、他の停泊している船とつなげる、近くの桟橋につなげるなどの対策が必要なのだが、その事実が周知されていないことも多い。

サンゴ礁に影響を与えると、無論その周りのエコシステムにも影響が出てくる。まず、サンゴ礁を住処にする魚や甲殻類たちは住処を奪われ減少する。貴重な品種の魚は絶滅する可能性もある。

そして魚たちの減少は、漁業や観光業で生計を立てているその近隣に住む住人の生活の収入源に影響を与えていく。WWFの調査では、世界の4億5000万人が主要なサンゴ礁から60㎞以内に住んでおり、その生活手段や食糧の多くを海洋環境に頼っている。

さらに、サンゴ礁が防波堤となっていた地域が地震の津波を受けた際、それまで地盤を守っていたサンゴ礁が無いため、影響が増大して直接被害を受けるなどの影響も挙げられる。

人類が圧迫し続け、一度破壊されたサンゴ礁を元に戻すのは簡単ではなく、長い年月とそれを取り巻く環境が必要だ。例えば、ハチの巣サンゴは1cm成長するのに20カ月の年月を要すると言われている。

海洋環境保護団体グリーンフィン

このように海洋環境への深刻なダメージが進行する中、グリーンフィンと呼ばれる環境保護スキームが、2004年から国際連合環境プログラムとイギリスの慈悲団体であるリーフワールド財団の協賛の元に立ち上がった。

持続可能な海洋環境への取り組みをしている認証機関団体として、現在はタイ、ベトナム、フィリピン、インドネシアなど東南アジアを中心に、ドミニカ共和国などカリブ海やモルディブなどインド洋も含めて活動している。

この団体の使命は、海洋観光業による海洋環境への悪影響を軽減し、持続可能性を向上させることである。世界最大のダイビングトレーニング・インストラクター協会であるPADIとリーフワールド財団とのパートナーシップにより、持続可能なダイビングの支援をする。

その主な対象は、ダイビング・インストラクター事業体とダイビング業界だが、活動は企業、地域社会、政府と協力するような仕組みになっている。グリーンフィンに認証され、アクティブメンバーとなるためには、トレーニングと評価を受け、認証されなければならない。そのステップを以下に紹介する。

海洋環境への影響を最小に留めることを誓約したダイビングセンター(上図①FREE Membership)は、始めにグリーンフィンの行動規範に従うことに同意しなければならない。そして、少なくとも年に一度のトレーニングセッションと評価プロセスを受ける準備をする。

まず、十分に訓練されたグリーンフィンスタッフが該当のダイビングセンターを訪れ、1時間のトレーニングプレゼンテーションを実施する(②)。続いて、有効な評価資格を持つグリーンフィンの審査員が、センターが行うダイビングに参加し、スタッフとダイバーの行動を実際に観察する(③)。

評価には結果に基づく管理アプローチを可能にするために、リーフワールド財団によって開発されたグリーン環境アセスメント評価システム(GEARS)を採用している。全体的な目標を達成するのに必要な項目、そしてマイルストーンの成功を測定することができるモニタリングシステムだ。

各目的のための加重スコアに基づいて、緑/黄/赤の評価システムで評価を行い、業界全体の問題をシンプルに分離し、管理している。この評価システムは、業界唯一の標準としてリーフワールド財団が維持管理している。

この評価を終えると、ダイビングセンターが次回の評価時に改善すべき3つの焦点領域を特定することができる(⑤)。

トレーニングと評価が無事18カ月以内に実施されれば、センターはアクティブメンバーとして登録される(⑥)。アクティブメンバーは証明書を授与され、グリーンフィンのロゴをセンターに飾ることが許される。

また、グリーンフィンのサイトやソーシャルメディアに名前も掲載されることで、その活動内容を顧客や社会に公表することが可能になる。トレーニング・評価・コンサルティングの更新は1年ごとであり(⑦)、トップ10ダイビングセンターとして特に注目され表彰されたセンターは、その認証された環境保護に対する方針と実績から、ビジネスも増えることが期待される。

これらの指標と認定は、ダイビング希望の観光客に環境に配慮した選択肢を与えている。

無料で平等に機会が与えられ、行動を義務づけるメンバーシップ

さらにこの団体の特筆すべき点は、メンバーシップにはどのダイビングセンターも自由に参加することができ、その費用は無料という事実だ。参加国の全てのダイビングセンターが、環境保全のプロセスに役立つアプローチに参加する機会が、平等に与えられている。

通常グリーンフィンのような非営利組織は、パートナーシップを組むためにスポンサー企業を募りそこからの寄付を集めたり、メンバーに年会費を課してその運営費を捻出している。しかし、グリーンフィンはリーフワールド財団に援助されているためこのような費用体系がない。

参加に伴う費用をメンバーに請求する代わりに、メンバーは行動規範を遵守し、海洋環境を保護するために常に管理方針を改善する精神を持ち、実際に行動することが要求されている。

そのことを示す団体の根本的な精神である行動規範は15項目で構成されている。


グリーンフィンの15の行動規範

行動規範の内容詳細を見てみると、グリーンフィンの理念を掲げ社会に公表する義務から、スタッフやダイバーに対する教育の義務づけ、定期的なダイビングサイトでの水中清掃の参加、サンゴ礁を守るためのデータベースの作成のためのモニタリングや報告までが記載されている。

単純にダイバーや運営センターが海やサンゴ礁に対する損傷を防いで海洋環境の保護を図るだけではなく、さらなる環境の改善や、地域社会や観光客の呼びかけを確保しているのだ。つまり、グリーンフィンは「資金より実際の行動」を求める行動規範とスタンスを保持している。

海洋生物の素の生態を見られるダイビングというレクリエーションが、今後30年、50年、100年と存続するためには、活動の海洋環境への影響を減らし、世界中のサンゴ礁に与えるダメージを軽減するのが唯一の方法だ。

グリーンフィンはその活動を体現し促進している団体であり、ダイビングセンターはその積極的な参加を推奨されている。今後ダイビングを楽しむダイバーたちに、ぜひ注目してもらいたい団体だ。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit

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