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卵・乳製品を含め、動物性食品を一切食べない「ヴィーガン」。食事に関する制限はベジタリアンよりも厳しい。そんなヴィーガンのライフスタイルが”食”以外でも成長しているのをご存知だろうか。
ニールセンが植物由来の食品協会(PBFA)と行った調査によると2017年、米国の植物由来食品の売上高は前年度比8.1%増の31億ドルだった。さらに、ヴィーガン・ファッションは2018年、2019年の主要トレンドとしてJWT Intelligenceの「The Future 100 Report」で紹介されている。
日本ではまだまだ馴染みの薄いヴィーガン・ライフスタイルだが、大企業を動かすほどのトレンドとなっている。ヴィーガンが経済に与えるインパクトや、その背景にある価値観について考察する。
欧米を中心に成長するヴィーガン市場
Vegan(ヴィーガン)は、肉や魚、乳製品など動物性食品を摂らない完全な菜食主義者だ。この言葉が生まれたのはイギリスで、もともとは「酪農製品を食べない菜食主義者」を表していた。
ニールセンが植物由来の食品協会(PBFA)と行った調査によると、2017年、米国の植物由来食品の売上高は前年度比8.1%増の31億ドルだった。調査会社Packaged Factsによると、植物由来の乳製品代替品の売上高は、3年以内に乳製品と乳製品の代替飲料を合わせたものの40%を占めると見込まれている。
日本ではあまり馴染みのないヴィーガンだが、なぜこんなにも欧米で注目を集め、市場が成長しているのだろう。その背景には、まず第一に動物愛護・環境保全の意識の高さがある。
日本にはない認証マークと選択肢
卵や肉を購入する際、それらがどのような環境下で産み落とされ、飼育されているか考えたことはあるだろうか。
鶏もストレスは感じるし、病気にだってなる。「狭いケージに数羽ずつ敷き詰められ、ストレスや疾患を抱えながら産み落とされた卵」と「出来るだけ自然に近い状態で育てられた鶏の卵」だったら、あなたはどちらを購入したいだろうか。筆者は、断然後者だ。
現在、筆者が住んでいるオランダでは、スーパーで見かける卵に「Beter Leven」と呼ばれる認証マークが付いている。
オランダのオーガニック認証マークBeter Leven(Beter Leven公式サイトより)
この認証マークの星印が多ければ多いほど、家畜たちは健康的な環境で飼育されている。あるスーパーでは、認証マークだけではなく屋外で放し飼いにされる鶏の写真も掲示されていた。
公式サイトには、下記のように認証マークをわかりやすく説明した動画も掲載。ヴィーガンが欧州で受け入れられているのは、このように消費者が「自分たちが食べるもの・身に付けるものはどこから来ているのだろう?」と考え、「自分はこの商品を買おう」と選択する機会が日常的にあるからかもしれない。
オランダだけではなく、EU各国ではオーガニック認証制度が設けられ、環境や生物に優しい商品・食品には認証マークが貼られている。ヴィーガンやベジタリアン向けのレストランも、日本に比べるとずっと多い。そして最近では、コスメやファッションの分野でもヴィーガンを見かけるようになった。
ヴィーガン・ライフスタイルはファッションにまで波及
ヴィーガンの波は食に止まらず、ファッションの領域にも大きく波及している。調査会社JWT Intelligenceのレポートでは、2018年に引き続き2019年も主要トレンドの一つとしてヴィーガンが取り上げられている。主にクリーン・フードやラグジュアリー・ヴィーガンの分野などだ。
JWT Intelligenceの『The Future 100: 2019』ではVEGAN LUXURYがトピックの一つにあげられ、高級ブランドのヴィーガンへの取り組みが紹介された(JWT Intelligence『The Future 100: 2019』より)
ヴィーガン・ファッションとは、毛皮やレザーなど動物由来の素材を身につけないライフスタイルだ。食と同様、普段はなかなか意識する機会がないが、私たちが身を包む衣服の素材の中には動物を殺して作られた素材も多々ある。
また、衣服の製造工程では、使用される化学物質によって環境汚染が引き起こされ、年間で何百万トンもの廃棄物が発生している。
ファッションにおけるヴィーガンとは、こうした現実から目を背けず、動物愛護・環境保護の精神に基づいて自分たちの生活を見直そうという考え方だ。動物由来の衣類は買わない、という活動のほか、代替素材の開発にも注目が集まっている。
これまでに、パイナップルのゴミ、リンゴの皮、きのこ、紅茶キノコ、ワイン、そしてバイオ加工皮革ブランド、ビーガンシルクが素材となった皮革の代替品が生まれた。
発酵した紅茶キノコがレザーの代替素材に
コンブチャ(英語: Kombucha)とも呼ばれる発酵飲料「紅茶キノコ」は、健康飲料としてだけではなく、靴・鞄・衣類など幅広い分野に利用できる代替素材として注目を集めている。性質が皮に似ている上に、分解可能なため環境に優しく持続可能性が非常に高いのだ。
環境に優しいこんぶ茶の靴を、あなたもそのうち履くかも(Hipsters rejoice, you could soon be wearing sustainable vegan kombucha shoesより)
アイオワ州立大学の研究者たちが環境にも人体にも優しい素材を作るために開発をすすめているようだ。米国環境保護庁からの助成金も得ている。
パイナップルの葉から作られたヴィーガンシューズ
ファッションブランド、ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)も、ピニャテックス(Pinatex)と呼ばれるパイナップルの葉を原料としたビーガンメンズシューズを発売。動物を殺さず、環境負荷も少ない商品だ。
ピニャテックス(Pinatex)にはレザーと比較して、軽くて柔らかく、耐久性や通気性に優れいている。抗菌性にも優れ、水に濡れても手入れがしやすいという特徴がある。
ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)は、ヴィーガンシューズに止まらず、ブランド全体でサステイナブルなモノ作りに取り組んでいる。2016・17年の秋冬シーズンからは、毛皮の使用を廃止した。
ピニャテックス(Pinatex)を使用したヴィーガンシューズ。カラーバリエーションも豊富(ヒューゴ ボス(HUGO BOSS)公式サイトより)
こうした動きを受け、高級ブランドも高級毛皮やモヘアのようなファブリックを捨て、消費者の倫理意識に寄り添う必要が出てきている。
モダン・ラグジュアリーは、”贅沢”ではない
前述したように、消費者は衣類やアクセサリーにも持続可能性や透明性を求めるようになった。動物や地球と共存するために、必要な情報の開示と真摯な姿勢をブランドに求めているのだ。
ヴェルサーチとバーバリーは、2018年に毛皮を使わなくなると発表した。ロンドン・ファッション・ウィークAW18からもはじめて毛皮がなくなり、ヘルシンキファッションウィークにいたっては、2019年から皮製品の使用を禁止し注目を集めた。
各ファッションブランドのエグゼクティブ、デザイナーの間でもヴィーガンの動きは高まりを見せている。動物虐待のない製品作りに精力的なのはステラ・マッカートニーとカルバン・クライン。両ブランドにヒューゴ・ボスとアルマーニが続いた。最近ではマイケル・コース、グッチも賛同している。
「現代的な贅沢とは、社会的・環境的責任を持つことだ」とバーバリーのCEO、マルコ・ゴベッティ(Marco Gobbetti)は語る。これまでの大量生産・大量消費の時代は終焉を迎えたといっていいだろう。
トレーサビリティーを求める消費者
しかし、ヴィーガンや動物愛護の動きは以前から存在した。これには、消費者の単なる倫理観の高まりに止まらない変化があるように感じる。
消費者はもはや、ただ「消費」するだけのひとではない。自分が食べるもの・身に付けるものがどこからきているのか、生産や廃棄の過程で環境や他の動物に悪影響を与えていないか、トレーサビリティー(追跡可能性)を求めている。きちんとしたストーリーを持つブランドが選ばれているといってもいい。
ヴィーガンというと、非常に厳しい絶対菜食主義者というイメージが強いが、こうした価値観の変化も重なって、ヴィーガン自身の定義も変わっていくかもしれない。日本においては、厳しいヴィーガンスタイルを維持するのは難しいかもしれないが、「この素材はどこから来ているのだろう」「自分が捨てたものはどうなるのだろう」と一歩立ち止まってみるだけでも違うはずだ。
周りを見渡してみると、環境や動物に配慮したブランドも数多くある。欧米で高まりを見せているヴィーガンのムーブメントは、日常の中で少しずつでも実践する価値があるように思える。
文:佐藤まり子
編集:岡徳之(Livit)