プラスチック・フリーを加速、世界で続々登場する「リバース自動販売機」とは

スターバックスコーヒーやマクドナルドが、2020年までに全世界でプラスチック製のストローの使用を止める取り組みを相次いで発表した2018年。プラスチックごみが海を汚染し、ごみの埋め立てが限界に達してきていると言われている昨今、レジ袋の有料化やリサイクルに関する教育も世界各地で活発になっている。

環境問題に対するこうした企業努力も、消費者の理解とサポートなくしては実現できない。しかしながら、各国のリサイクル率はまだまだ低く、現実は厳しそう。そんな中、何とかして消費者の重い腰を上げさせるべく、各国でさまざまな試みが始まっている。

クーポンがもらえるシンガポール

2018年1月、シンガポールのスーパーマーケットにリバース自動販売機(自動回収機)が設置された。国民のリサイクル意識を高めるため、スーパーマーケット(国営)、飲食料会社と機械メーカーが共同出資し設置したものだ。


自動回収機から発行されるクーポン券 ©2018 The Grocery Trader

操作は簡単、該当する空き缶または空きボトルを持ち込み、バーコードを上にして挿入すると自動で識別、選別、収集を行い、クーポン券が発行されるという仕組み。買い物ついでに、家庭にある空きボトルを持ち込むことによってリサイクル活動に参加できる。

今回の設置に先立ち実施された試用運転期間には、3カ月で5万本のペットボトルを収集。利用時間のピークは仕事終わりと週末で、30代から40代の利用率が高いというデータも集めた。環境問題に敏感で、反応の早いこの年齢層を中心にリサイクル活動を展開したいという、当初の思惑通りだった。

さらにアンケート調査の結果、リサイクル活動に参加する動機には「より高額な報酬」を求めていることが判明、現在5ボトルにつき0.5シンガポール・ドル(約40円)相当が返金されるよう設定している。この機械は故障や中身が8割にまで達すると、即座にアラームで知らされ、本社から人材を派遣し対応や回収できると謳ったメーカーの自信作。

ただ、設置に際して最低1万シンガポール・ドル(約82万円)、ハイエンドな製品に至っては10万シンガポール・ドル(約820万円)以上の費用が掛かり、勇気ある先行投資が必要だ。

現金に魅力を感じない国も

他の東南アジアの国と同様に、外食やテイクアウトの習慣が根強く、使い捨ての容器や食器の利用率が高いため、プラスチックのごみが一向に減らない隣国マレーシア。国全体でのリサイクル率が17.5%、リサイクルが必要であると意識している人の割合はその数字よりもさらに低く、事態は深刻だ。

そこで登場したのがゴールド(金)を発行する自動回収機だ。クーポン券や現金を払い戻す自動回収機は世界ですでに展開していたが、貴金属と交換するのはこれが世界初。「マレーシアのようなアジアの新興国市場では、現金よりも貴金属による貯蓄や投資が一般的で、より人々にリサイクルを奨励しアピールできる」としている。


マレーシアのゴールド交換機 ©2017 Business Insider Inc

この自動回収機を利用するには、スマートフォンのアプリをダウンロードしてアカウントの作成が必要。アプリはイスラム法的にも合法(マレーシアはイスラム教国家)、リサイクルによって獲得した金はアプリ上のアカウントに電子クレジットとして加算される。

ペットボトルまたはアルミ缶1つにつき、投資グレードのゴールド2.8円分=0.00059グラムに一律固定。ゴールドの現物はシンガポールの金庫に保管され、積算されたクレジットは随時、金の延べ棒や金貨、現金への交換も出来るとしている。

なおこの自動回収機を設置したのは、貴金属取扱業者。リサイクルと交換のゴールドは同社の管理下に置かれ、この方式を通じてまずは少額からゴールドの所有が出来ることをきっかけに、利用者を増やす狙いもありそうだ。

アフリカ、ヨーロッパでも回収機


南アフリカのスーパーマーケット ©2018 BizNis Africa

イギリスでは2018年7月にグラスゴー大学のキャンパスに自動回収機を設置。これは使い捨て容器への課金制度に伴い、容器を返還すると払い戻される料金分を自動的にがん研究の基金に寄付するもの。試用期間終了後は、寄付だけでなくキャンパス内での支払いに使用できるポイントとして、学生に還元される予定だ。

1984年から自動回収機が導入されていたスウェーデンでは、家庭ごみリサイクル率は90%を達成している一方で、その大学の所在地であるスコットランド地方の統計はわずか44%。まずは大学内でのごみの量削減をスタートさせて、環境保護に着手したいと考えている。


グラスゴー大学

スウェーデンのリサイクル活動はもう30年以上もの歴史がある。2016年一年でアルミ缶とペットボトルの84.9%がリサイクル、つまり18億本が再生利用されたが、これは1人当たり117本の計算だ。しかもこれは最初から再生利用されるために使用された容器を含まない数字。そこでは1本あたりボトルの大小によって1-2クローネ(約12円から24円)が還元される。

スウェーデンの人たちにとって、スーパーマーケットで買い物する際にリサイクルをするのは至極当然のこと。ただし、政府の目標リサイクル率90%にわずかに及ばないため、テレビCMやキャンペーンビデオではキャッチーな音楽に載せた「リサイクルしましょう!」のフレーズが嫌というほど繰り返し流れるとのこと。なおこのリサイクル・システムは醸造所と食料雑貨グループを保有する私企業が運営している。


スウェーデンの自動回収機 ©The Local

コカ・コーラの試み

500㎖のプラスチックボトルを自動回収機に挿入すると、レゴランドを含む30の提携娯楽施設で使える50%の割引優待クーポン券を発行したもの。例えばクーポン利用で遊園地の1日券を買うだけでも27ポンド(約3,840円)の特典で、これは少額の現金返金やスーパーでのクーポン券よりもはるかに高額な返金システム。夏休みの家族をターゲットにキャンペーンを実施した。

同社のリサーチによると64%のイギリス人が、「その場で報酬がもらえるのならより積極的にリサイクル活動に参加する」と考えていることがわかり、また消費者の一番の悩みは、外出先で飲んだ飲料容器のリサイクルをする手立てがないことだった。

現在コカ・コーラUKでは、使用するプラスチックの50%以上をリサイクル業者から購入しており、目下25%の容器回収率を2020年には50%に上げたい考え。コストの問題だけでなく、地球環境に目を向けた取り組みとして、限りなく持続可能な製品を作り続けることが使命だと語る。

コカ・コーラは2030年をめどに、全世界でボトルや缶を100%回収・再生利用するとし、廃棄物の無い世界へと取り組むグローバル戦略を発表している。

アメとムチのどちらが効果的なのか

いずれのリサイクル自動回収機も現状では企業側の費用負担が必須、その背景にある情報収集や顧客拡大などといった見返りがあってこその設置のようだ。

人々が興味を示し、面白がっているうちに習慣となれば、プラスチックごみの削減やリサイクルの促進にも貢献できる理想のWIN-WINとなりうるが、果たして結果はどうなるのであろうか。

地球環境保護リサイクルには返金というご褒美が効果的なのか、ごみ処理に課金という経済的負担が必要なのか。アメとムチのどちらに効果が表れるのか、地球全体で早急に取り組まなければならない問題に期待が集まる。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

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