ソーシャルネットワークで知り合った人と現実の世界で、顔を見ながら話をしたことはあるだろうか? 趣味や興味などソーシャルネットワーク上でどんなに盛り上がっても、顔をみながら話すことは実際とても難しい。
米国ではいま、ソーシャルネットワーク上で知り合った人たちが集うことができる「ソーシャルホテル」が続々と誕生している。そこはソーシャルネットワークの利用者だけではなく、旅行者や地元の人々も集い活動する次世代型のホテルだ。
「ソーシャルホテル」はもちろん宿泊機能のあるホテルだ。そこでソーシャルネットワークを軸に人々を安全につなげ、魅力的な環境を提供するとともに、コミュニティや文化の発信地としても注目されている。そんな米国の「ソーシャルホテル」を紹介しよう。
世界最大級のホテル・チェーンが「ソーシャルホテル」ビジネスに参入—Moxy Hotels
Moxy Hotels公式サイトより
2018年11月、世界最大級のホテル・チェーン、マリオット傘下のモクシー・ホテルズ(Moxy Hotels)とマッチング・アプリのバンブル(Bumble)の提携が発表された。
「ネットワーク上での会話1年間より、1時間でも一緒に過ごすことの方が大きな発見があると信じています。私たちはお客様が新しい友人やビジネス関係者と打ち解けるような最適な環境を提供し、さまざまな特典を用意しています」とグローバル・ブランド・リーダーのToni Stoeckl氏は語る。
Bumbleアプリを利用することで、ホテル内で食事や飲み物の割引をはじめホテルのワークスペースへの無料アクセスなどの特典がある。モクシー・ホテルズの公式スポットとなるBumbleSpotは全米に8カ所(ニューヨークに2カ所、シカゴ、デンバー、ニューオーリンズ、シアトル、テンペ、ミネアポリス)で今後はグローバルに展開していくという。
テンペにあるBumbleSpot(Moxy Hotels公式サイトより)
マッチング・アプリの活用と地域交流、イベント開催で集客を目指す―The LINE Hotel
ロサンゼルスのコリアンタウンにあるザ・ライン・ホテル(The LINE Hotel)は、日本でもヴォーグ誌のオンライン版はじめ宿泊予約サイトでも紹介されているホテルだ。ただし日本では「ソーシャルホテル」としてではなく、デザインに優れた魅力的なホテルということで。
ザ・ライン・ホテルもまたBumbleと提携することで友だち探しのプラットフォームであるBumbleBFF(BFF:Best Friend Forever)を奨励しており、アプリ利用者を集めたBumbleBFF Brunchesが開催される。その他、地域交流にも注力。マラソン・クラブやアート・クラス、さらにロビーでラジオ番組が録音するなどさまざまなイベントが行なわれている。
ザ・ライン・ホテルのグローバル・ブランド・ディレクターであるSana Keefer氏はバンブルとの提携について「私たちには地域社会が参加できるプラットフォームや場所を提供することが課題でした。そして旅行者が地域の豊かな魅力を体験するためには、地元の人々との交流が必要です」と話している。
ソーシャルネットワークのために建てられた次世代型のホテル―Life House
Life House公式サイトより
ソーシャルネットワーキングを中心に設計されたライフ・ハウス(Life House)は、マイアミで2018年10月にオープンしたばかりの本格的な「ソーシャルホテル」だ。洒落た二段ベッドがあるなど個性的なホテルだが、特筆すべきはゲストと地域の人々をつなぐホテル独自のソーシャルネットワーキングのアプリがあること。まさに次世代型のホテルといえるだろう。
例えば「最高のレストランを探す」「ランニングを楽しむ」など、同じような目的や関心を持つ旅行者たちのグループにも参加することができる。さらに地元の人からもお気に入りの情報を提供してもらえる。
ライフ・ハウスのCEOで共同創立者であるRami Zeidan氏は「旅行は人と人をつないでくれる特別なもの。けれど、誰もが旅先で友人や安全なネットワークを持っているとは限りません。安心して人々がつながることができる場所がホテルなんです」と語っている。
「ソーシャルホテル」の可能性を探る、人間関係を構築するプロジェクト―Kimpton Everly Hotel
Kimpton Everly Hotel公式サイトより
「Room301」プロジェクトとして2018年9月〜11月の期間限定で、まったく新しい試みをしたのがサンフランシスコに拠点を置くキンプトン・エヴァリー・ホテル(Kimpton Everly Hotel)だ。
「ソーシャルホテル」の役を果たしたのはロサンゼルスの301号室。室内は独創的な空間にデザインされ、さまざまなアクティビティやプロンプトを供えるなど、すべてがインタラクティブにしつらえられた。さらに宿泊料金の割引や200ドル相当のウエルカム・アメニティなどの特典が用意され現実的にも宿泊者のメリットは大きい。
急速に技術革新が進む世界の中で、人々はより確かな結びつきや新しい出会いを求めている――という考えのもとに取り組んだ「Room301」プロジェクト。見知らぬ人々がつながりを共有し、またその重要性について会話する機会を呼び起こすことを目標にしている。この試みは今後も引き継いでいくという。
ソーシャルネットワークとの連携で、ホテルにエンターテインメントを取り入れる
一般的にシティホテルやビジネスホテルは宿泊者を楽しませたり、喜ばせることを目的とはしていない。もちろんどのホテルにも、いまは当然のようにネットワークにはつながっているだろう。
今回紹介した米国の「ソーシャルホテル」が、それらのホテルと違うのはソーシャルネットワークと連携することで宿泊機能以外のコンテンツを充実させ、個性的なエンターテインメント性を創り出していることだ。
ブランド力のないホテルがソーシャルネットワークを利用することで、自社の存在を広くアピールする。さらに地域のコミュニティや文化の発信地となりうるのだ。これら「ソーシャルホテル」の誕生は、ホテルを立地や価格で単純に選ぶのではなく、エンターテインメント性という新たな選択肢を生み出したといえる。
日本にも「ソーシャルホテル」はいくつか誕生している。その多くはソーシャルネットワークを介さない“その時その場”、スタッフやゲスト、地域の人のコミュニケーションの場所であるように感じられる。
前述のモクシー・ホテルズとマッチング・アプリのバンブルは日本でもそれぞれがビジネスを展開している。ホテル業界に新しい風を巻き起こした「ソーシャルホテル」は米国でさらに飛躍していくのか。そして2020年の東京オリンピックや2025年の大阪万博など、ますます宿泊施設が求められる日本の「ソーシャルホテル」は、どう進化していくのか。今後も注目していきたい。
文:羽田理恵子
編集:岡徳之(Livit)