2030年までに貧困に終止符を打ち、豊かさと人々の福祉を促進しつつ、環境を保護することを目指す持続可能な開発目標(SDGs)。2016年1月に国連でこの目標が打ち立てられてから、早3年。下記のカラフルなロゴを街角や広告で一度は見たことがある方もいるのではないだろうか。

一般消費者の間で持続可能な開発目標に対する認知が高まるなか、企業におけるSDGsへの取り組みも増えているようだ。 今日の企業活動の中で、各目標の焦点である環境および社会の課題に、全く影響されないまたは影響を及ぼさない活動はないだろう。ビジネスの世界においても、17のSDGすべてにおいて直接影響を与える現実的な問題が迫っているのだ。


国連開発計画事務所より

SGDsは注目されているが、アクションが伴わず

昨年発表されたPwCの「SDG Reporting Challenge 2018」では、729社のグローバル企業の年次報告書などに目を通し、企業のSDGsへの浸透度を多角的に分析している。

調査方法は、多国籍企業729社の事業報告書に、SDGsが言及されているか、されているとすればどの箇所で、どの項目を焦点に、どのように実現に向けての努力をしているかである。ちなみに、調査された国の約半数がヨーロッパに所在している企業であり、中国やインドなどの企業は一社も入っていない点は回答企業の偏りとして注意すべきだろう。この729社合計の年間売上高は12.4兆米ドルに達している。

調査の結果、700社以上のグローバル企業のうち72%の企業がSGDsの目標に言及しており、前年度比62%増と、ビジネスの世界でSDGsに対する急激な関心が高まっていることがわかる。

そして調査対象のうち50%の企業はSDGsのうちの優先順位の高さに影響を与えていた。項目の中で優先順位が高いのは、適切な職場環境(SDG8)、環境改善の取り組み(SDG13)、責任ある消費/生産(SDG12)、健康/ウェルビーイング(SDG3)などであった。

一方、海の豊かさ(SDG14)は企業の優先事項で最後にランクされており、飢餓をゼロに(SDG2)と貧困のない社会(SDG1)も、SDGs優先事項として企業にほとんど登録されていない。PwCレポートではこの要因として、主要な食品生産者を除いて、ほとんどの企業がこれらの目標を政府の優先事項とみなしている点、企業のこれらへの影響の結果を測定または把握する方法が不明である点などと分析されている。

また、調査対象の企業の中でわずか27%しかSDGsをビジネス戦略に反映していないという事実も明らかになった。目標に言及する企業は多くとも、その道筋が明確に提示されていないケースが約3分の2を占めるということだ。つまり、企業におけるSDGs認知の高まりと報告書への言及が増えていることを示す一方で、アクションが伴っていないケースも多いのだ。

さらに、トップレベルのリーダーシップに関しては、CEOやダイレクターの声明のわずか19%がSDGsのビジネス戦略、業績、見通しとの関連に言及していた。5名に4名の世界的企業のリーダーは、その声明でSGDsに言及していないということになる。ここでもリーダーがSDG取り組みを積極的に推進していくのに改善の余地があることを示している。

SDGs実施のモデル企業、DANONE(ダノン)

では実際にどのような企業が具体的な目標を立て、それに対するKPI(重要業績評価指標)とアクションを起こし、報告しているのか、モデル企業を探ってみよう。

ダノン社はSDGsに関連した9つのゴールを2030年までに設定している。

日本ではヨーグルトなどの乳製品が有名なダノン。フランスに本社を置く同企業は、食品加工会社として今では世界中に拠点を置く多国籍企業だ。

ダノンの社会事業に対する取り組みの歴史は長い。ダノンは1972年に地球に対する同社の事業環境および社会への影響を認めている。ダノングループの初代CEOは「デュアル・プロジェクト」と呼ばれるアプローチを先駆的に取った。それは、経済成長を追うと同時に社会貢献を果たす企業でなくてはならないという企業哲学だった。

企業の経済成長は確かにあったが、事業ポートフォリオを多角化し過ぎていたという問題もあり、2代目CEOは1996年、次の20年を見据え、ダノンが手がけるべきビジネスを再検討した。結果、9あった事業ポートフォリオを、現在の4つ(チルド乳製品、乳幼児向け食品、ウォーター、医療用栄養食)に絞り込んだ。

そして現CEOのファベール氏は日経ビジネスのインタビューでこう答えている。「投資家には利益を重視する人もいますが、それ以上に、企業の継続性を求める人が増えています。われわれが、なぜ、生態系の保存に力を注ぐのか。なぜ、貧困対策に積極的に取り組むのか。新興国の酪農家を支援するのか。これらの取り組みを長期的に続けることが、ダノンの利益成長につながることを丁寧に説明します。そして、大半の投資家が理解を示してくれます。」

この長期的なビジョンにより投資家の支持を得て、ダノンは現在のミッションである「食糧を通して健康を最大限引き出す」方法を導き出し、共同創作、現地への価値提供と継続的改善の原則を守っている。

ダノンのSDGアクション

ダノンは具体的に、SDGsより7つの「主な焦点」(SDG 2,3,6,12,8,13および17)と6つの「コミットメント(約束)」(SDG 1,14,15,16,5および7)を特定している。

その上で、これら項目のそれぞれについて、同グループにとって重要で関連する目標および事業テーマを説明している。 例えば、「貧困のない社会」(SDG1)では、「低所得者のための製品とサービスの提供の確保」と言及されている。SDGsに関するコミットメントを説明した上で、関連するイニシアチブの例を提供し、KPI(重要業績評価指標)も開示している。

同グループの2017年の年次報告書では、159~206ページと約50ページに渡る細かな記述があり、多角的にその年のイニチアチブの成果を分析し、公表している。

さらにダノンの施策に特徴的なのは、主な焦点とコミットメントの項目において、内外の評価の結果を堂々と発表している点だ。独自の指標を設定し公表するだけでなく、第三者評価機関からの指標も以下のように公開している。


ダノン社2017年の年次報告書(P164より)

上記で指標を与えているのは、世界的な持続可能インデックスやランキングだ。たとえば、DJSIはダウジョーンズのサステナビリティ・インデックス、Vigeo Eirisは環境、社会、企業統治のESG調査だ。これらの全世界の調査会社から、持続可能指標が他社と比較して客観的に評価され、ダノンの年次報告書で公表されている。

上場企業では当たり前のごとく、その年度の財務実績を公表するための財務管理部が存在しそのヘッドカウントや取りまとめる期間が存在するように、ダノンではこれらの社会や環境に対する指標を取りまとめる予算や期間をあらかじめ確保してあることが理解できる。また、年に一度このようなレポートを公表することで、社内での目標達成への施策が妥当であったのかの評価と、その見直し、実行が1年周期でPDCAサイクルでできることになるのだろう。

世界の貧困問題に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指すSDGsは、民間企業の協力無くしては成立しない。紹介したダノン社では、CEOを筆頭とするリーダー、従業員、投資家、そして製品を取り巻く地域社会をうまく包括してSDGsを取り入れている。

この企業例を基に、あと11年しか残されていないタイムリミットを意識してSDGsを世界規模で達成するためには、将来の世代によりよい地球を残そうとする政府、産業、市民社会、そして投資家にもなりうる市民自身によるパートナーシップが不可欠だ。このPwCのレポートから読み取れるように、企業が政府やNGOと協力し、企業の経済活動と共に社会活動を発展させていく時代は近いと言えるだろう。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit