旅行テックの世界ハブ都市「イスラエル」から生まれる有望スタートアップとエコシステムの今

旅行計画を立てる際、かつてはガイドブックがメインの情報源だったが、いまではスマホ1台で旅行先のさまざまな情報を調べられるようになった。それだけでなく、航空券や宿泊予約も可能だ。

昔に比べ楽になったとはいえ、旅行に付きまとう煩わしい作業をスキップしたいというニーズはいまも強い。

オンライン予約大手Booking.comが2018年10月に発表した「2019年旅行トレンド予測」では、8つのトレンドが挙げられているが、このなかでアドベンチャー旅行やサスティナブル旅行への関心の高まりに加え「手軽さ」を求める傾向が強まると予想されているのだ。このBooking.comのトレンド予測は世界中の旅行者2万1,500人を対象に実施した聞き取り調査が基になっている。多くの旅行者が手軽さを求めているということは、旅行においてストレスを感じるポイントが依然多いということになる。

この事実を踏まえ、Booking.comは旅行における煩わしい作業を排除し、楽しい体験を実現してくれるトラベルテック企業が高い評価を受けることになるだろうと指摘。調査では、ラゲッジのリアルタイム・トラッキングアプリや旅行計画・航空券・宿泊予約をワンストップでできるアプリを求める声が多いことが明らかになっている。

トラベルテック需要のさらなる高まりが予想される2019年。シリコンバレーや深センなどテクノロジーハブと呼ばれる地域や都市では、トラベルテック分野の起業や投資が増えることが考えられる。そのなかでも特に高い注目を集めているのが、イスラエルだ。起業国家と呼ばれるイスラエルではさまざま分野のスタートアップが誕生しているが、近年盛り上がりを見せているのがトラベルテック分野だ。

Booking.comが研究開発センターを開設したイスラエル

イスラエルのトラベルテックを盛り上げるプレーヤーの1つがBooking.comだ。

Booking.comは2017年10月頃にイスラエル・テルアビブに研究開発センターを開設。同社がテルアビブに研究開発センターを開設したのは、人工知能分野の人材を確保し、チャットボット、機械学習、自然言語処理、センティメント分析などを同サービスに取り入れるためと見られている。当初はテルアビブのAhad Ha’am通りのコワーキングスペースMindspaceを拠点としていたが、2018年4月にトラベルテック企業が多く集まる人気コワーキングスペースLABSに移転。

LABSはテルアビブでもっとも高いビルAzrieli Sarona Towerにあり、Booking.comは57階スペースの半分を占有しているという。

Azrieli Sarona Towerには、アマゾンやフェイスブックのほか複合現実テクノロジー企業Magic Leapなどもオフィスを構えており、イスラエルでも指折りのテクノロジーハブと呼ばれている。

また、2018年3月Booking.comはテルアビブでトラベルテック企業を対象にしたアクセラレータプログラムを開催している。イスラエルからは6社が参加、このほかイタリア、ルーマニア、ギリシャからぞれぞれ1社が参加、計9社が同プログラムでワークショップとメンタリングを受けた。

イスラエルから参加したのは、ローカルフード体験アプリを開発するBitemojo、農業体験旅行プラットホームのFarmGuests、車椅子利用者向けの予約プラットホームaccessibleGo、ローカル情報アクセスアプリKnowers、身体障がい者向けにアウトドア・アクティビティをコーディネートとするparatek、アウトドア情報プラットホームのTrailze。

テクノロジーを活用し次の旅行ニーズに応えようとするユニークな企業が名を連ねている。このなかで特に有望視されたのはaccessibleGoとKnowers。accessibleGoは2万5,000ユーロ(約314万円)、Knowersは1万5,000ユーロ(約190万円)を獲得した。


accessibleGoウェブサイト

イスラエル・トラベルテックを盛り上げるコミュニティ「ITTS」

イスラエル発のトラベルテック・スタートアップは300社を超えるといわれている。これらスタートアップ間のコラボレーションを強め、投資家・大企業との架け橋となるべく、このほど「Israel Travel Tech Startups(ITTS)」というコミュニティが誕生した。

ITTSウェブサイトでは、イスラエルのトラベルテック・スタートアップのエコシステムマップが公開されており、旅行のどの分野のスタートアップなのか一目で分かるようになっている。


トラベルテック・スタートアップ・エコシステムマップ(ITTSウェブサイトより)

このなかで特に地元メディアの注目を集めているのは、TravelX、GivingWay、Roomerなどだ。

TravelXが開発しているのは、ARと人工知能を活用したバーチャルガイドアプリだ。旅行先で、観光地の案内やおすすめのレストラン・バー情報を示し、道案内までしてくれる。声でやりとりができ、過去のデータからパーソナライズすることも可能という。

GivingWayは、ボランティア志願者と社会活動を行う非営利団体をつなげるプラットホーム。世界的に教育、環境、ヘルスケア、動物福祉などに関わるボランティア活動を目的に旅行をする人が増えている。これまでこうした旅行者は、ボランティアエージェンシーなど第三者を介して現場に出向いていたが、不必要なコストがかかり、ミスコミュニケーションが起こることが多かった。このプラットホームは、ボランティア志願者と現地でボランティア活動に従事する非営利団体を直接つなげ、スムーズなコミュニケーションを実現している。

Roomerは、返金不可能のホテル予約を売買できるマーケットプレイスだ。オンライン予約サイトでよく見かける格安の宿泊プランは、多くの場合返金不可能だ。何らかの理由で旅行スケジュールが変更となっても、宿泊費は戻ってこない。こうした状況でも、Roomerでその予約を販売することができ、購入者が現れたら費用の一部を回収することが可能となる。


Roomerウェブサイト

人口増や所得水準の高まりを受け、世界の旅行産業は今後も成長を続ける見込みだ。これにともない世界的な大企業はオープンイノベーションへの投資を加速させている。そのなかでイスラエルのトラベルテック・スタートアップは特に注目を集める存在となっているようだ。年間1,000社を超えるスタートアップが誕生するといわれるイスラエル。どのようなトラベルテック企業が登場するのか、今後の展開から目が離せない。

文:細谷元(Livit

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