残念なことに、昨今プラスチックごみによる海洋汚染が深刻化しているニュースは、珍しくなくなってしまった。最近、太平洋や大西洋、地中海に生息するカメ100匹以上のすべての体内からマイクロプラスチックが、インドネシアではマッコウクジラの死体から1000個以上のプラスチックが発見された。南アフリカでは、獣医が救出されたカメの食道からビニール袋を除去する手術を行ったという。
中でもショックだったのは、10月中旬サンプル数は少ないながら、人間の排泄物中にもマイクロプラスチックが確認されたこと。私たち人間も生態系の一部であることを改めて思い知らされた。
使い捨てレジ袋などを含むプラスチック製品削減に、今世界は躍起になっている。迅速さが求められるこの取り組み、海に囲まれたオセアニアではどのように進められているのだろうか。
波乱含みながらも、使い捨てレジ袋を80%削減~オーストラリア
約「15憶」――この数字は、オーストラリアの2つのスーパーマーケットチェーンが、環境に悪影響を及ぼすプラスチック製品の1つ、使い捨てレジ袋を今年6月末と7月初めに使用禁止としてから約3カ月の間に、使わずに済んだレジ袋の枚数であり、80%減を達成したことになる。英断を下したのは国内二大スーパーの「ウールワース」と「コールス」。ウールワースは国内に約1,000店舗、コールスは約800店舗を構えている。
両スーパーともに、使い捨てレジ袋の代用品として、顧客には買い物時にエコバッグを持参して使うよう奨励している。使い捨てのものよりビニールに耐久性があり、再利用が可能なリユーサブルバッグや、生分解可能だったり、リサイクルできる素材を用いたエコバッグを、サイズや素材の種類もさまざまに用意。買い物客の多くは車で来るため、車内にエコバッグを何枚か用意しておく。来店時に買い物袋を持ってくるのを忘れた場合は、リユーサブル・バッグかエコバッグを購入することになる。価格は15Aセント~(約12円~)だ。
オーストラリアのスーパー、ウールワースのリユーサブル・バッグとエコバッグ。他社でも同様のバラエティーとなっている(ウールワースのホームページから)
暴行事件にまで及んだ、レジ袋をめぐる混乱
スーパーが使い捨てレジ袋を短期間のうちに廃止したのは、輝かしい成果といえる。しかし実際のところ、混乱も生じたようだ。
レジに無料の使い捨てレジ袋がなく、わずかな金額ながらも支払わないと、リユーサブルバッグが手に入らないと知った客が逆上するケースが発生したのだ。英国のBBCニュースに、オーストラリア国内最大の民間労働組合、ショップ・ディストリビューティブ・アンド・アライドエンプロイーズ・アソシエーションが語ったところによれば、組合組織132軒に調査を行ったところ、こうした事件が57件起きていたことがわかった。中には、男性客が女性店員に暴言を浴びせ、首に手をかけるなどの暴行事件にまで発展したものもあるという。
スーパー側は、顧客には「買い物袋を持参する」という新習慣に慣れるための期間が必要と判断。リユーサブルバッグを無料で顧客に提供する「過渡期」を、ウールワースは約2週間、コールスは当初1カ月間と決めた。しかし、コールスは途中からその期間を無期限に変更。結局は8月30日で打ち切られたが、一時的とはいえ、逆戻りをした同スーパーには市民からさまざまな意見が寄せられた。
「そもそもレジ袋をなくすなんて良いアイデアではない」「顧客へのサービスの一環として、無料であるべき」といった賛成派の意見が聞かれる一方で、反対派も声高に、「リユーサブルバッグのプラスチックはより厚みがあるので、状況は使い捨てレジ袋使用時より悪化する」「コールスの行動はまったく的外れ」と言う。苦情を訴える人々に対して怒りの声も多く上がった。「変化に抵抗を感じるのは仕方がないが、レジ袋なしに慣れるのは重要なこと」「ずいぶん前からレジ袋がなくなることがわかっていたのに、苦情を言うなんて往生際が悪い」といった具合だ。
2009年から進む各州の法規制、一州を残して完了
オーストラリアでは、2016~2017年の1年間に使い捨てレジ袋を57憶枚を使用している。これに対し、2009年から州ごとに禁止が進んだが、シドニーのあるニューサウスウェールズ州だけが現在も何の法規もないままだ。同州政府は、市民自身が使い捨てレジ袋を排除しようとしており、大手スーパーもそれに加わったのだから、法が介入する必要はないと考えているようだ。
オーストラリアのニューサウスウェールズ州で、同州のアプトン環境相に使い捨てレジ袋を法で廃止するよう訴える環境保護団体、グリーンピース
脱プラスチックの道を、市民が積極的に求める~ニュージーランド
オーストラリアからタスマン海を隔てたニュージーランドでも、大手スーパーをはじめとする小売りチェーン店を中心に使い捨てレジ袋の排除が今年後半一挙に、しかも混乱なくスムーズに進んだ。これはひとえに市民が一丸となった結果といえそうだ。
スーパー2チェーンのうちの1つ、「ニューワールド」では、昨年使い捨てレジ袋に課金するとすれば金額はいくらが適切かと3つの選択肢を設け、顧客に尋ねたところ、予想以上の数の顧客から、「課金うんぬんではなく、レジ袋は禁止すべき」との声が寄せられた。多くの一般市民のこの声は、今年に入ってから政府に提出された「使い捨てレジ袋全廃」の請願書にも反映されている。
顧客の声を聞き入れ、ニューワールドが、また他のスーパーチェーン、「カウントダウン」も今年5月から支店により禁止日をずらして、10月いっぱいに国内全店でレジ袋を一掃。計画より半年早い完了を遂げた。
ニュージーランドでは、著名ファッションデザイナーや人気アーティストによるエコバッグも登場(カウントダウンのフェイスブックから)
昔からの習慣のように、買い物袋持参で買い物へ,
スーパー側は、顧客がもし買い物袋を持参しなかった場合を考え、オーストラリア同様、1NZドル(約77円)~のリユーサブルバッグやエコバッグを用意。禁止になる前に、ニューワールドはキャンペーンとして、200万枚のエコバッグを消費者にプレゼントしたほか、カウントダウンでは同社オリジナルのエコバッグが使えなくなった場合は無料で取り換えるなどのサービスを行う。各店舗で「レジ袋禁止まであと〇〇日」という告知が張り出された。客の目につくところに「買い物袋をお忘れなく」という看板も立てられている。
今までの買い物の習慣を覆す大きな変化ながら、現在ニュージーランドの人々は老いも若きも、男性も女性も当たり前のこととしてエコバッグを抱えて買い物に行く。もう何年もこうしているかのような印象さえ受ける。使い捨てレジ袋の次にやり玉に挙がっているリユーサブルバッグだが、使う人を見かけるのは非常にまれだ。
レジ袋のみでなく、スーパーでのプラスチック包装排除も徐々に進んでいる。カウントダウンでは2025年までに自社製品の包装すべてを再利用・リサイクル・生分解できるものにするという目標を掲げている。今までだと買った魚はビニール袋に入れてくれたのに、今週行ったら包装は紙になっていたなどということも起こっている。消費者は、自分たちも貢献する迅速な変化を肌身で感じている。これはスリリングなことであり、運動の成功に寄せる期待も大きくなる。
市民の支持のもと、来年半ばに法導入
プラスチック汚染を防ごうという啓蒙運動、「プラスチックフリー・ニュージーランド」によれば、ニュージーランドで年間に使用される使い捨てレジ袋は10憶枚だそうだ。大手スーパーでの禁止が完了したのは10月中旬で、まだどの程度の効果があったかは明確にされていない。しかし、カウントダウンの予測では、同スーパーチェーン全店、約180カ所で年間合計3億5,000万枚を削減できると予測している。
一方政府は来年7月1日をもって、使い捨てレジ袋はもちろん、70ミクロン以下の厚さのビニール袋を全廃する法を導入する。これで一般的な小売店で無料提供されていた、購入商品を入れるビニール製の袋も消えることになる。政府の決定は、先の「使い捨てレジ袋全廃」の嘆願書に署名した6万5,000人をはじめとした市民の要望に支えられている。
ニュージーランドの北島北端に位置するケープ・レインガの風景。こうした風景が、美しい海を未来に残したいという気持ちを育むのだろう
アーダーン首相のもとには、毎日多くの子どもたちからメッセージが届くそうだが、中でも最も多いのが、「使い捨てレジ袋を使うのを禁止してほしい」というものだそうだ。ニュージーランドで育つ子どもたちにとり、クジラやイルカなどの海洋生物は身近な存在。大人が躊躇していて、子どもたちがそのツケを払うのは納得がいかない。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之( Livit )