2000年インドの人口は10億人ほどだったが、2010年に12億3,000万人、2015年に13億人、2017年には13億4,000万人と着実に増加している。2015年に国連が発表したレポートでは、インドが中国の人口を上回る時期を2028年から2022年に繰り上げている。2050年には中国の人口は13億人に減少、それに対しインドの人口は16億5,000万人になるという予想もある。

世界最大の消費者市場になる可能性を秘めたインドだが、現時点では大気汚染、水質汚染、貧困格差、ネット普及率、農業生産性、ビジネス環境の未整備などさまざまな課題を抱えている。

インド政府はこれらの課題解決に向け、人工知能やIoTといったデジタルテクノロジーを活用する方針だ。これを実現するためにインドはいま、イスラエルとの連携強化に努めている。イスラエルの人口は850万人ほど。イスラエル企業にとっては巨大なインド市場へのアクセスを獲得できるという大きな利点があり、相互に理にかなった関係強化となる。

インドとイスラエル、どのような協力関係を構築しようとしているのか。その最新動向をお伝えしたい。

技術協力促進する「インド−イスラエル・イノベーション・ブリッジ」

インドとイスラエルのテクノロジー協力関係を象徴する取り組みの1つが「インド−イスラエル・イノベーション・ブリッジ」だ。これは両国のスタートアップ、テックハブ、大手企業などイノベーション・エコシステムを構築するプレーヤーたちのネットワークを強化することを目的としたオンライン・プラットフォーム。イスラエル経済省傘下のイノベーション・オーソリティとインド商工省が主導している。

2017年7月イスラエル・エルサレムを訪問したインドのモディ首相はイスラエルのネタニヤフ首相とともに、同プラットフォームでのイノベーション・チャレンジの開催を発表。両国首脳による共同発表であり、インド、イスラエルともにこの取り組みに力を入れていることがうかがえる。

このイノベーション・チャレンジは、農業、水、デジタルヘルスケアの3分野でスタートアップからソリューションを募った。特にインドのスタートアップが開発するソリューションで同国が直面している課題を解決しようというものだ。

選出された企業は、インドの投資促進機関インベスト・インディアとイスラエル・イノベーション・オーソリティが実施するプログラムを通じてソリューション開発を加速させ、その後ユーザー、投資家、大手企業などと折衝する機会を得ることができる。インドのスタートアップにとっては起業国家イスラエルのノウハウを学び事業化の可能性を高める絶好の機会となる。2017年12月に18社が選出された。

農業部門では、米の品質分析デバイスを開発するAmvicube(バンガロール)や作物の健康状態・遠隔管理システムを開発するYuktix Technologies(バンガロール)などが選出された。


Amvicubeウェブサイトより

一方、水部門では環境技術の商業化促進に特化したInnotech Intervention(グワーハーティー)、オンライン飲料水マーケットプレイスを運営するPurePani(ハイデラバード)、スマート浄水器を開発するOceo Water(バンガロール)、デジタル・ヘルスケア分野では妊娠女性向けのフィットネスアプリを展開するI Love 9 Monthsや非侵襲型の頭蓋内出血検査デバイスを開発するBioscan Research(アフマダーバード)などが選ばれた。

このほかイノベーション・ブリッジでは、イスラエル企業に焦点を当てたチャレンジも実施。対象となる分野は前回同様、農業、水、デジタル・ヘルスケアだ。2018年7月に6社が選出された。

農業分野では2社。テルアビブ発のAmaizzは、湿気や熱によって農作物が痛むのを防ぐ技術を開発するアグリテック企業だ。太陽光を動力源とする乾燥装置や冷却装置によって、農作物のロスを低減する。すでにアフリカと東南アジアで展開している。


Amvicubeウェブサイトより

選出されたもう1つのアグリテック企業Biofeedは独自の害虫駆除手法を開発している。既存の手法に比べ、農産物に付着する害虫を効果的に駆除することが可能になるという。

このほか水分野では、エネルギー効率が高い浄水システムを開発するAqaullence、超微細フィルターを開発するAMS Technologiesが選出された。デジタル・ヘルスケア分野では、人工知能を活用したレントゲン画像認識技術を開発するZebra Medical、低価格の医療検査デバイスを開発するMobileODTが選ばれた。

2国間プロジェクトへ助成する共同ファンドも登場

インドとイスラエルのテクノロジー連携は、イノベーション・ブリッジだけではない。

2017年7月にモディ首相がネタニヤフ首相を訪問した際、両国のテクノロジー合弁プロジェクトの促進を目的としたファンドを設立することにも合意していたのだ。ファンドは5年に渡り4000万ドル(約45億円)を助成する計画だ。第一弾では4プロジェクトへの助成が決定。

イスラエルのIoT機器メーカーBacsoftとインドのエネルギーサービス企業Energy Efficiency Servicesによる共同プロジェクトやイスラエルのスマートアンテナ企業Ubiqamとインドの通信機器メーカーFrog Cellsatによる共同プロジェクトなどが採択された。BacsoftとEnergy Efficiency Servicesの共同プロジェクトでは、インドの村落でIoT技術を活用した水・電気の効率的な管理システムの導入が進められる。

また2018年10月、イスラエルは米国、英国、中国で開設してきたハイテク・インキュベーションセンターをインド・バンガロールでも開設することを明らかにした。このインキュベーションセンターでは、イスラエル工科大学、テルアビブ大学、インド情報技術大学、インド工科大学などが連携しイノベーションを加速できる環境が整えられるという。多数の優秀なエンジニアを生み出すインドのトップ大学と学術研究の商業化に長けたイスラエルの大学のコラボレーション、大きなシナジー効果が期待されている。

インドではモディ政権発足後、行政サービスのデジタル化を目指す「デジタル・インド計画」が発表され、さらにモディ首相が会長を務める政策シンクタンクNITI Aayogは現在国家戦略として人工知能を活用するための議論を本格化させたといわれている。イスラエルとの連携でインドはどこまでデジタル化を進めることができるのか、今後の展開に注目が集まる。

文:細谷元(Livit