中国ではカウンター、デリバリー、配膳、調理など小売や外食産業のさまざまなシーンでロボットが導入され始めている。業務効率の改善だけでなく、少子高齢化による人材不足やそれにともなう賃金上昇などがその背景にある。

中国と同じく少子高齢化による人材不足に悩むシンガポールでは、警察によるロボット活用が進められようとしている。情報通信技術を最大限に活用し、経済や生活水準の向上を目指す同国の「スマート国家」構想。警察によるロボット導入はこの構想を実現させる取り組みの一環だ。

ロボット活用に加え、警察専用スマホや3Dスキャン現場検証ツールなども導入し、警察のスマート化を進めるシンガポール。同国の取り組みから未来の警察の姿を覗いてみたい。

2018年11月のASEAN首脳会談会場で導入されたロボコップ

2018年11月シンガポールで日中韓3カ国と東南アジア諸国連合(ASEAN)による首脳会議が開催された。ASEAN各国の首脳だけでなく、安倍首相、米ペンス副大統領、ロシア・プーチン大統領なども参加、会場は厳重な警備体制が敷かれていた。このなかパトロールを行っていたのがシンガポール警察が導入したロボットだった。

4つのタイヤで走行しながら、360度見渡せるカメラで周囲を確認。画像分析機能が備わっており、不審者を見つけ出すことができるという。


ASEAN首脳会談会場で導入されたロボット警察(Channel NewsAsia チャンネルより)

地元メディアによると、シンガポール警察は大型イベントだけでなく、コミュニティ巡回などでもロボット活用を増やす計画で、それにともないロボットの種類・数も増やしていくという。

シンガポール警察がパトロールにロボットを導入したのはこれが初めてではない。2018年2月に開催された旧正月を祝うチンゲイパレード。ここでもシンガポール警察のパトロールロボットが導入されている。同パレードは毎年10万人以上の観客が集まる国内最大級のイベント。特に近年はテロの可能性が高まっているとして、大型イベントでは多くの警察人員が導入されている。シンガポール警察は人員増を抑えつつ、パトロールの頻度・質を向上させるために、いくつかのプロトタイプロボットを試験的に導入している。チンゲイパレードで導入されたのは「S5 PTZ パトロールロボット」だ。

「S5 PTZ パトロールロボット」(シンガポール警察ウェブサイトより)

このほかシンガポール警察、内務省、科学技術研究所(ASTAR)が共同で開発している「MATAR(多目的・全地形対応)ロボット」や地元コミュニティとのインタラクションを目的としたロボット「FuRo-D」などが開発されている。

MATARロボットは、画像・顔認識と音声認識機能が備わっており、不審者や破壊行為を発見する能力を持っている。ドローンとの連携も現在模索されているという。

一方FuRo-Dは、大型のディスプレイを備えたロボットで、地元コミュニティでの呼びかけや防犯イベント、情報共有が主な役割だ。ディスプレイで防犯に関する簡単なゲームをしたり、セルフィーを撮影したりする機能もあり、インタラクションを通じて地域コミュニティの防犯意識を高めることが期待されている。


「FuRo-D」(シンガポール警察ウェブサイトより)

警察専用スマホと現場検証用3Dスキャナ

これらロボットの導入は、警察のスマート化を目指す取り組みの一環だ。

ロボットのほかにシンガポール警察が注力しているのが、警察専用スマホと現場検証3Dスキャナだ。

現在、シンガポール警察では現場の警察官と司令室の間のやりとりは大きなモバイルデータターミナルで行われている。また、現場の警察官どうしのやりとりは、自身のスマホを使った通話で行われている。メッセージアプリを介して事件に関する情報のやりとりは認められていない。

このように一元化されていない情報通信手段を警察専用スマホで一元化し生産性を向上させるのが狙いだ。

警察スマホでは通話やメッセージだけでなく、専用アプリによってさまざまな機能が使えるようになる。たとえば、監視カメラアプリでは、任意の監視カメラを選び、その映像を使って捜査を進めることが可能になるという。また、画像認識技術を活用した制服検索アプリも利用できるようになる。これは映像に写った容疑者を学校や会社の制服から割り出せるアプリだ。今後は、容疑者の前科を調べるアプリも導入される予定という。

警察スマホでは事件・事故に関する電子書類をその場でアップロードできるため、書類作業も効率化することが可能だ。アップロードされた書類は、管理システムに保管される。万が一スマホが紛失した場合、スマホデータは遠隔で消去される。現在700台の警察スマホが導入されており、すでに2000件に上る事件の解決に活用された。今後シンガポール警察はこのスマホを8000台導入する計画があるという。

現場検証用3Dスキャナも注目されている。タブレットサイズのデバイスで、3Dスキャンによって事件・事故現場のデータを正確に収集することが可能となる。現場に残されたナイフなどに関するデータも触れることなく収集できるため、現場検証や捜査の効率を大幅に高めることが可能となる。この3Dスキャナは2018年5月から試験的に導入されている。


現場検証用3Dスキャナ(シンガポール警察ウェブサイトより)

シンガポールではこのほか、ドローンによる交通管理や人混み監視、また海上での無人パトロールシップの試験運用が進められている。警察のハイテク化はどこまで進むのか、シンガポール警察の取り組みから目が離せない。

文:細谷元(Livit