競争激化する中国コワーキング市場、合併買収で急拡大する「中国版WeWork」の実力

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世界中で起業やフリーランスで働く人々が急増するにともない、コワーキングスペースの需要も右肩上がりに伸びている。

コワーキングの国際団体GCUCによると、2007年世界中にコワーキングスペースは14カ所しかなかったが、2015年に7,805カ所、2016年に1万1,100カ所、2017年には1万4,411カ所に増加した。今後もコワーキングスペースの数は伸び続ける見込みで、2018年に1万7,725カ所、2020年に2万4,306カ所、2022年には3万432カ所に増えると予想している。

また、コワーキングスペース利用者も右肩上がりで伸びている。2015年は52万人、2016年は97万人、2017年には174万人に達した。また2018年には230万人、2022年には510万人に到達する見込みだ。

オーストラリアでは2013〜2017年の間に、コワーキングスペースの数が297%増え、309カ所に達したという調査(ナイトフランク調査)もある。

世界最大の人口を抱える中国でも起業人口の増加にともない、コワーキングスペースはこの数年急速に増えている。中国社会科学院などが実施した大学生の意識調査で、2016年は約3%が卒業後に起業を計画していることが明らかになったのだ。2011年は1.6%。5年で2倍近く増えていることになる。中国の大学卒業者数は年間760万人に上る。そのうちの3%は22万人以上になる。

中国の調査会社iiMedia Researchによると、2018年中国のコワーキング市場は前年比159%拡大し、市場規模は600億元(約9,800億円)になったと推計している。

中国市場WeWork最大のライバルと目されるUcommune

現在中国コワーキングスペース市場の主導権争いをしているのは、米コワーキング大手WeWorkとその最大のライバルと目される中国Ucommuneの2社だ。

北米、欧州、東南アジア、日本など世界中でコワーキングスペースを展開するWeWorkが中国市場に参入したのは2016年。同社ウェブサイトによると、中国では現在45カ所でコワーキングスペースを提供している。そのほとんどが北京、上海、深セン、香港に集中している。今後は蘇州、杭州、アモイなどに拡大する計画だ。

WeWork北京Shang Liduオフィス(WeWorkウェブサイトより)

米不動産コンサルティング会社クッシュマン・ウェイクフィールドの調査によると、WeWorkが買収した中国同業naked Hubの会員とWeWorkの中国会員の合計は、2018年末までに8万人を超える見込みという。

一方、Ucommuneは国内40都市にコワーキングスペースを展開しており、会員数は20万人近くになる。同社ウェブサイトでは、200カ所近いコワーキングスペースが確認できる。北京や上海などの大都市だけでなく、アモイ、成都、南京、太原、開封、昆明、合肥、大連、珠海など中級都市を幅広くカバーしている。今後2〜3年で、350カ所に拡大する計画だ。

Ucommune、北京LGツインタワーオフィス(Ucommuneウェブサイトより)

2015年に設立されたUcommuneが短期間で急速に拡大できたのは、競合の合併買収を繰り返してきたためだ。2018年だけで合併買収した企業は5社に上るという。直近では10月に、上海と北京で26カ所のコワーキングスペースを展開していたFountownを買収。これに先立つ2018年1月にNew Spaceとの合併を、3月にはWoo Spaceとの合併を発表した。このほかWedo、Workingdomなどを合併買収した。

Ucommuneの積極的な合併買収を支えたのは潤沢な投資資金だ。2018年2月のシリーズBで1,740万ドル(約20億円)、8月のシリーズCで4,350万ドル(約50億円)、11月のシリーズDで2億ドル(約226億円)を調達。シリーズCでの資金調達後、同社の評価額は18億ドル(約2,000億円)に達したと報じられた。また2019年初めに香港でIPOを実施するとの憶測も流れている。

Ucommuneはこれらの合併買収を通じて、会員ネットワークを統合しコミュニティの拡大を図っている。たとえばWoo Spaceとの合併では、会員システムの統合やコミュニティ運営の標準化を進めたといわれている。合併時、Woo Spaceは中国国内23カ所にコワーキングスペースを展開、会員企業数は700社を超えていた。

またWoo Spaceは会員向けサービスにも定評があり利用者拡大の要因の1つになっていると考えられる。同社が提供していたサービスには、事業登録、税務、法務、会計、人事、マーケティングのほか、中国政府が実施しているスタートアップ向け資金援助への申請支援などが含まれ、Ucommuneでも引き続きこれらのサービスを提供している。

Ucommuneが提供するさまざまなサービス(Ucommuneウェブサイトより)

Ucommuneが合併買収を通じたコミュニティ拡大に力を入れるのは、WeWorkの成功を踏襲したものと考えられる。

一見差別化が難しいコワーキングスペースビジネス。一方、WeWorkは世界中でコミュニティを構築し、それを強みの1つとして多くの人々を惹きつけている。クッシュマン・ウェイクフィールドによると、WeWorkは世界中に20万人の起業家コミュニティを構築。WeWorkの会員は、このグローバルコミュニティを通じて、さまざまな分野・都市・国の人々とのコラボレーションを通じた事業拡大が可能になる。またこれとは別にWeWorkは5万社に上る企業ネットワークを持っており、このうち50%以上がなんらかのコラボレーションを行っているという。

Ucommuneは中国国内に張り巡らせたネットワークを活用し、中国進出を考えている海外企業も取り込みたい考えだ。またグローバルネットワークを強化するため海外市場への進出も積極的に進めている。2017年7月にシンガポール、2018年3月にニューヨークでコワーキングスペースをオープン。2017年12月にはインドネシアの同業Reworkへの投資を実施している。

冒頭で紹介したGCUCの予測では2022年までにコワーキングスペース利用者は510万人になる見込みだ。一方、米不動産コンサルティングJLLの予測では、フリーランスやスタートアップだけでなく、大手企業によるコワーキングスペース利用が増える可能性があると指摘。その場合、インドだけで2020年までにコワーキングスペース利用者が1300万人になるシナリオもあると予想している。未知数のコワーキング市場がどのような展開を見せるのか、今後の動きから目が離せない。

文:細谷元(Livit

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