衣料用洗剤「アタック」、洗顔料「ビオレ」、食器用洗剤「キュキュット」など、大手化学メーカー花王の商品は誰もが名前を知っており、製品を常備している家庭も多いのではないだろうか。

また2017年12月期、国際会計基準による連結営業利益は2,048億円を超え、消費財メーカーとしては異例の快挙を成し遂げている。

花王らしいオープンイノベーションの場をつくり、未来の可能性を共有したい

そんな花王グループが11月27日、ホテルニューオータニにて「技術イノベーション説明会」を開催した。説明会でははじめに、社長執行役員澤田道隆氏が花王で行っている本質研究の可能性、また本質研究を共有化することの重要性が語られた。

澤田氏:「本質研究を5年、10年、15年と突き詰めると新たな発見・切り口が見つかり、大きな価値提案に繋がります。また他の技術と融合することによって、境界領域に関わる新規事業など、これまでにない世界を作り上げることができます。」

また収益の高さを裏付けるようにマーケティング力にも定評のある花王だが、今回の説明会で澤田氏はイノベーションカンパニーであることも知ってもらいたいと、今回の説明会の意図を語った。花王らしいオープンイノベーションの場をつくり、技術の出口を拡げ、より多様な形で商品を提供したいという、澤田氏の言葉からはイノベーションへの意志が伝わってきた。

そして澤田氏につづき、研究開発部門統括・取締役専務執行役員長谷部佳宏氏より、人工皮膚技術「Fine Fiber ファインファイバー」をはじめとした、花王が開発した最新技術である5つのイノベーションが発表された。

オムツの不識布開発から誕生した人工皮膚技術「Fine Fiber」

ここからは、今回発表された花王の5つのイノベーションを長谷部氏の発言を交えて紹介していこう。

長谷部氏がはじめに発表したイノベーションは、人工皮膚技術である「Fine Fiberファインファイバー」だ。Fine Fiberは専用装置にポリマー溶液をセットし、一本の糸のような形状で溶液を肌に噴射することで、肌の表面に積層型極薄膜を作る技術である。直径0.5μという極細繊維ヴェールで編まれる膜は、これまでの技術では解決できなかった

  • 端面の発生
  • 凹凸の追従性
  • 空隙

といった問題を解決した。


花王 Fine Fiber技術(花王 Youtubeチャンネルより)

説明会の後、デモンストレーション会場にて実際にFine Fiberの極細の積層型極薄膜を体験してみたが、膜が作られても肌に違和感は全くなく、シート等を貼った時に感じる、思うように体を動かせない不自由さはなかった。そしてこのFine Fiberに水分を落とすと、その膜は一瞬で水分を吸収して透明化し、すぐに膜は見えなくなるというものだ。

実験の一つとして、クリーニングを目的とした製剤を皮膚に塗り、Fine Fiberを利用した時と利用しなかった時の肌の角質内部のタンパク質量の増減を調べたところ、Fine Fiberを利用した時の方がタンパク質の減少率が下がったという結果も出ているようだ。タンパク質の減少は乾燥・シミ・シワといった肌トラブルの要因だが、Fine Fiberを利用すればメイク・スキンケア用品を変えなくても肌トラブルを改善させることができる。

また皮膚に直接マジックでバツ印を書き、その上にFine Fiberの膜を作ってファンデーションを塗ったところ、バツ印が綺麗に姿を消した実験の写真も公開された。この技術を活用すれば、消すことができなかった肌に残る傷痕やシミなど、個人を悩ませコンプレックスとなりうる特徴を隠す形で改善させることが可能となる。

長谷部氏:「これまで自社のスキンケア・メイク用品の性能を一つ一つアップデートしてきましたが、限界がありました。しかしこのFine Fiberを使うことにより新しい、次元を変える領域に到達いたします。このFine Fiberはたった一本の極細の繊維からできる膜が、治療に及ぶまでの皮膚の改善をもたらしてくれるのです。」

皮膚の状態の可視化、未来の皮膚病を予測する「RNA monitoring」

2つ目に発表されたイノベーションは、RNAリボ核酸から得られる情報をもとに、目にみえない皮膚状態の可視化、未来の皮膚状態の予測ができる技術「RNA Monitoring アールエヌエーモニタリング」だ。

今までは血液からしか採取することができなかったため限りのあったRNAだが、花王では皮脂の中にRNAが豊富に保存されていることを発見した。そのため、あぶら取り紙が吸った皮脂から簡単に13,000種のRNAを採取することが可能となった。

RNA Monitoringを活用すれば、これまで専用の機器では調査不可能だった、
可視化されていない情報を採取することができるようになり、将来アトピー性皮膚炎になる可能性やホルモンデータといった情報を確認できるようになる。

長谷部氏:「このRNA Monitoringの技術は化粧品・洗顔料など自社の商品、既存のターゲットとなる美容領域に活用するだけではなく、健康診断のサポートなど皮膚の疾患領域、難病領域にも大学、他機関と連携して役立てていきたいと思っています。」

シャンプー・コンディショナーで簡単に多彩な色に変えられる「Created Color」

長谷部氏が発表した3つ目のイノベーションはパッチテスト不要、簡単、簡便に多彩な色に髪を染色できる技術「Created Color クリエイティッドカラー」だ。花王は酵素メーカーの月桂樹と共に、植物の原料から髪色を変える成分であるメラニンの元となるものを作り出した。このメラニンの元と制御技術を活用し、髪色を黒髪やブラウンなど、思い通りの色に染色することに花王は成功した。また染髪剤は使用せず、コンディショナーだけで染色することも可能となった。

さらに富士フィルムと共同開発をした染料「Moving Color ムービングカラー」という技術も発表された。これは光のあたり方、髪の動きによって染色した髪の色が変化する技術だ。こちらの染料もシャンプーとコンディショナーを使用するだけで簡単に髪色を変えることが可能である。Instagramで「@Pure Pigments(ピュアピグメント)」と検索すれば、実際にMoving Colorを試した人の写真をみることができる。

長谷部氏:「安心で簡単なカラーリング、できるだけ最小限の手間、しかしながらもっと自在に髪色をお客様に楽しんでもらうために生まれた技術がCreated Colorです。これからはこの技術開発を商品に変えて提供していきたいと思っております。」

高い洗浄力、親水性を実現し洗浄の生活を変えていく「Bio IOS」

つづく4つ目のイノベーションは、革新的な界面活性剤の技術「Bio IOS バイオアイオーエス」だ。洗剤の分野は近年の世界規模の人口増加、都市化の進行によって洗浄剤の需要は高まるが、洗剤を製造するための原料の増加は見込めないという課題があった。しかし花王はこれまで未活用だったバイオを界面活性剤として使用することに成功し、またこれまでの活性剤にはなかった性質を新たに発見した。その性質を利用し生まれた技術がBio IOSだ。

Bio IOS技術を使用した界面活性剤で食器等を洗浄すると、活性剤の親水性が高いため、汚れは水に浸けると低接着となってすぐに落ちる。さらに食器など洗う対象面の性質が変化していき、汚れはどんどんつきづらいものになる。

長谷部氏:「洗う対象面が洗いながら変わることで、顔を洗う、体を洗う、髪を洗うといった生活のいろんな部分も変化していきます。今後このBio IOSをさまざまな花王の商品として展開して、生活者の生活を変えていきたいです。」

再生プラスチック100%使用、残液0を実現する「Package RecyCreation」

最後のイノベーションは海洋プラスチック0、再生プラスチック100%使用に残液0を目指す包装容器技術「Package RecyCreation パッケージリサイクリエーション」だ。花王ではプラスチック容器削減のためのフィルム容器開発を1990年代から継続している。そして最新開発のフィルム容器として発表されたのが、フィルムと空気だけでボトルを作る「AFB Air-in Film Bottle」だ。

AFBは詰め替えタイプではなく、そのまま使用できる自立型のフィルム容器だ。中の液体がなくなると内側のフィルムパックが収縮し、残液を残さず使いきることも可能となっている。また外装がフィルムであるため、さまざまなデザインを施すことができ、印刷も自由自在に行える。

長谷部氏:「このPackage RecyCreationが最終的に完成した場合、欧米で話題となっている使い捨て容器の100%がリサイクル可能となり、ほぼ新品のプラスチックは必要なくなります。この新しい容器開発を活用すれば今までの10分の1のポテンシャルで新しいサイクルを回していけると考えています。」

今後花王はこの5つのイノベーション技術をオープンに提案し、さまざまな機関、企業、大学と一緒に世界に広げていきたいと長谷部氏は語る。Fine Fiberはエレクトロニクス企業、RNA monitoringは大学・AI先端企業というように、技術を活用できる領域・将来性に沿った企業との協業、取り組みはすでに始まっているようだ。

花王の技術イノベーションは新たな領域の課題解決へと進んでいく

近年の消費者ニーズの多様化、また団体ではなく個性を大切にする、といった時代の変化から、澤田氏はこれから花王の技術の出口も拡げていく必要があると語った。社内のみで技術の方向性を考えるのではなく、オープンイノベーションの場を作り、未来の可能性を共有したいとその展望を話した。

今回花王が発表した画期的な技術がオープンイノベーションとして発表されることによって、スキンケアや化粧品など花王の既存領域だけではなく、新しい領域の課題解決が可能となる。RNA Monitoringを活用すれば皮膚病を事前に予測でき、Bio IOSでは洗剤だけではなく、洗顔や洗髪など、洗浄が習慣にある消費者全体の生活を改善することが可能となる。

このオープンイノベーションの場を発端に、洗剤やスキンケア用品ではない、思いもしない形となって花王のイノベーション技術が私たちの生活に登場する日も遠くないだろう。他の企業、機関と花王が連携することで出口は広がり、花王の技術はより個人に合った形で私たちの生活をサポートしてくれるだろう。