環境や社会に対するサステイナブルな(持続可能な)取り組みが進んでいる北欧諸国では、「サステイナブル・ブランド・インデックス(SBI)」 が毎年公表されている。北欧4カ国のほかオランダの消費者が、各ブランドによるサステイナブルな取り組みを評価するというもので、消費者意識を知る重要な指標となっている。
サステイナビリティ先進国の北欧とオランダの消費者は、どのような企業を高く評価しているのだろうか?
2011年以来、毎年発表されている「サステイナブル・ブランド・インデックス 」。北欧4カ国+オランダの消費者がブランドのサステイナビリティを評価している。
北欧では食品ブランドがランクアップ
「サステイナブル・ブランド・インデックス(SBI)」はスウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマークの北欧4カ国にオランダを加えた5カ国の消費者(16~70歳)4万人を対象にした聞き取り調査に基づいて算出される指数。
持続可能なブランド価値の認識を高め、企業がブランディングとコミュニケーションを通じて、持続可能性を高めることを目的にしている。ブランドについては、マーケットプレゼンス、売上高、市場シェア、ブランド認知度などをもとに、北欧900社とオランダ150社が対象となっている。
調査では、消費者が各ブランドの環境的・社会的サステイナビリティについて、「1~5」の数字または「分からない」で評価。「良い(4)」か「とても良い(5)」を選んだ消費者の割合を、最高点200%で指数化している。
2018年の結果を見ると、食品・飲料、スーパーマーケット、自動車など、消費者に近く、戦略的コミュニケーションでサステイナビリティを優先しているブランドが上位を占めた。
例えば、スウェーデンの消費者によるトップ10の顔ぶれを見ると、食品・飲料とスーパーマーケットが6社ランクインしている。1位はスーパーマーケットの「コープ(COOP)」、2位は家具・インテリアの「イケア」、3位は食品・飲料の「ラントマネン(Lantmannen)」。それぞれ2011年の調査開始以来、ずっと10位内にランクインしてきたが、今年は3ブランドともに指数が高まり、昨年からランクアップした。首位のコープは「スマートで持続可能な労働とコミュニケーション」が評価されている。
フィンランドではトップ3が「ヴァリオ(Valio)」「コティマイスタ(Kotimaista)」「ファッツエル(Fazer)」と、すべて食品・飲料ブランドだった。首位の「Valio」は乳製品の研究開発におけるサステイナビリティが評価されている。また、デンマークでもトップ3にはスーパーマーケットの「コープ」、食品の「ウルテクラム(Urtekram)」と「フリランド(Friland)」が選ばれており、食品とスーパーマーケットで占められた。一方、ノルウェーのトップ3は交通セクターの「NSB」と「フリートーゲ(Flytoget)」が1、2位となったが、4、5位は食品・飲料ブランドが占めた。
スウェーデンで首位となったコープのマグナス・ヨハンソンCEOは、「消費者は食品に何が含まれているのか、どうやって生産されているのかを知りたがっている」と指摘。「健康や環境への意識の高まりから、オーガニックのものやベジタリアンフードの売り上げが伸びている」とコメントしている。
スーパーマーケットの「コープ」はスウェーデンのSBIランキングで首位となった。(SBIウェブサイト より)
オランダではチョコレートメーカーが首位、奴隷労働ゼロを目指す方針に高評価
オランダのSBIランキングのトップ10には、食品、自動車、エネルギー、小売、交通、製造業など、幅広い業種がバランスよくランクインした。このうちオランダ国内の企業が8社を占めている。トップ3の顔ぶれは、食品の「トニーズ・チョコロンリー(Tony’s Chocolonely)」、 自動車の「テスラ」、エネルギー会社の「グリーンチョイス」。上位2社は2018年から初めて調査対象となったが、いきなりトップの座を獲得した。
首位となった「トニーズ・チョコロンリー」は、環境的、社会的サステイナビリティの両面で、消費者の高い評価を得た。同社は元ジャーナリストのトゥーン・ファンデクークンが2003年に立ち上げたチョコレートメーカー。彼は西アフリカのカカオ農場で子供の奴隷労働を目の当たりにし、試行錯誤の結果、フェアトレードに基づくサプライチェーンを確立した。
同社はそのオペレーションモデルで奴隷労働解消に貢献しているほか、純売上高の1%を「ザ・チョコロンリー財団」に充てており、ブルキナファソで子供達のシェルターを作ったり、カカオ産業の改善に向けた研究活動を行ったりしている。
商品のパッケージはカラフルでポップなデザイン。スーパーマーケットの菓子コーナーでもひときわ目を惹く存在だ。また、同社ウェブサイトでは子供達にも分かりやすく同社の取り組みを紹介しており、カカオ産業が抱える問題を消費者に喚起するのに成功している。
同社チーフ・エバンジェリスト(伝道者)のインゾー・ファンザンテン氏は、「サステイナビリティはビジネス成功に欠かせない要素となっています。チャレンジにはあくなき改善と高い目標が必要です」と述べている 。
「賢い」消費者がサステイナビリティを促進
SBI調査では、各国の消費行動についても分析された。「サステイナビリティは購買に影響する」と答えた消費者の割合は、オランダで79%、スウェーデンで73%、デンマークで72%、フィンランドで70%、ノルウェーで62%に達した。2017年との比較では、各国ともほぼ横ばいで、サステイナビリティの影響力がすでに高い水準に達したことを意味している。
「サステイナブルなものには10%余計に払ってもいい」と答えた消費者の割合も、2017年からさほど変わらない水準に落ち着いた。北欧4カ国の中では、スウェーデンの割合が42%と一番高く、フィンランドが38%、ノルウェーとデンマークが34%とやや低くなっている(オランダは調査対象外)。
グラフ:「SBIオフィシャルレポート」から筆者作成
次に、消費パターンに関する調査から消費者を4つのグループに分けた結果を見てみよう。4つのグループは、「エゴ」「普通」「スマート」「献身型」。
「エゴ」は、伝統的な価値観が強いタイプで、典型的なのは地元のニュースや地元スポーツクラブに関心の強い中年の男性。サステイナビリティには興味がなく、牛乳1本を買いに行くのに、近所までSUVを運転していくタイプだ。
「普通」は、いわゆる一般市民で、各国で大多数を占めている。おしなべて今の生活には満足しており、何かについて騒ぎ立てないタイプ。消費行動の際には、商品の質や機能、価格面を重視するが、サステイナビリティについても最近は関心が高まってきている。
一方、サステイナビリティにもっと関心が高く、商品の質やサービスに対する要求が高いのが「スマート」だ。このグループには女性が多く、消費の際には「自分にとって良いもの」と、「世の中にとって良いもの」のバランスを考える。常に世の中の動きに敏感で、時には無意識にサステイナブルな行動を取っている。
そして、サステイナビリティを最優先としているのが「献身型」。老若男女問わず、このタイプは日常生活の中で常に意識的にサステイナブルなものを購入する。左翼的で、国際関係や政治、文化にも関心が高く、企業についても非常に批判的な目を持っている。
これら4つのグループの割合を各国別にみると、オランダとスウェーデンで「スマート」と「献身型」がやや多めで、ノルウェーでは「エゴ」グループが比較的大きい。「スマート」「献身型」の割合の高さは、先ほどの「サステイナビリティは購買に影響する」「サステイナブルなものには10%余計に払ってもいい」と答えた消費者の多寡と連動している。
サステイナブルな消費を促進するには、「スマート」「献身型」の厚みが重要であることは、言うまでもない。コープのヨハンソン氏によれば、「サステイナブルな消費マインドや知識は、商品のレベルを上げる」。消費者の意識の高まりがサステイナブルなブランドを育てるのだ。トニーズ・チョコロンリーのファンザンテン氏は、「バー(基準)を上げていきましょう!」と、消費者に呼びかけている。
文:山本直子
編集:岡徳之(Livit)