ハイテク投資を通じて深化する「中国とイスラエル」の関係

「中東のシリコンバレー」と呼ばれるイスラエル。人口約850万人の小国だが、毎年1400社近いスタートアップが誕生、現在6,000社ほどのスタートアップが存在するといわれている。スタートアップ比率は人口1,400人あたり1社という計算になる。フォーブスのまとめによると、英国では1,400人あたり0.21社、フランスは0.112社、ドイツは0.056社。イスラエルがスタートアップ国家であることを如実に示す数字といえるだろう。

これまでイスラエルスタートアップへの投資は、米国や欧州諸国からの資金がほとんどを占めていた。しかし、ここ数年中国からの投資が急増しており、イスラエルのスタートアップ投資を巡る勢力図は大きく変化している。また、先端テクノロジー分野の研究開発での協調も進んでおり、ハイテク投資を通じて両国関係はこれまでにないほど密なものになっている。

なぜこの数年で急速に両国関係が深化したのか、ハイテク投資の最新動向を踏まえ、その理由を探ってみたい。

イスラエル・テルアビブ

イノベーション促進でタッグを組んだ中国とイスラエル

イスラエルのハイテク分野への投資のうち3分の1は中国によるもの。2017年3月中国北京を訪れたイスラエルのネタニヤフ首相はイスラエル記者団にこのように述べたといわれている。

イスラエルのネタニヤフ首相

一方、中国とイスラエルの学術交流組織SIGNALのレポートは、テクノロジー分野における中国の対イスラエル投資は2016年に165億ドル(約1兆8,600億円)に達し、前年比で10倍増加したと伝えている。

これらは中国の対イスラエル投資の増加を示す2016年頃の数字だが、最近の動向からも投資の勢いが衰えていないことがうかがえる。

2018年5月、GPUデータベース開発を行うイスラエル企業SQreamはシリーズBの資金調達で2640万ドル(約30億円)を調達したが、この調達ラウンドを率いたのは中国Eコマース最大手のアリババだった。

2018年8月には、中国のゲーム開発大手Giant Networkがイスラエルの同業Playtikaを45億ドル(約5,000億円)で買収したと発表。Giant NetworkはPlaytikaが開発を進める人工知能技術の獲得を狙っていたといわれている。同月にはこのほか、中国の複合企業・投資会社Fosun International(復星国際) などがイスラエルのフィンテック企業The Floorに500万ドルを投資、また浙江京新薬業がバイオテックのMapi Pharmaへの追加投資を実施したと発表している。

Playtikaウェブサイト

ハイテク分野への投資の活況は中国とイスラエルの外交関係強化の流れと連動し、今後も続くと見られている。

2018年10月末、中国の王岐山国家副主席がイスラエルを訪問。中国の指導者がイスラエルを訪問するのは2000年の江沢民国家主席以来18年ぶりとなる。この訪問ではアリババのジャック・マー会長も同行している。

今回の訪問の主要目的は2014年5月に発足した「中国−イスラエル・イノベーション協力委員会」の年次会合に出席することだ。

同委員会は、中国とイスラエルの政府、省庁、大学、研究機関の協力関係を強化し、イノベーションを促進しようというもの。2015年から毎年会合が行われており、ネタニヤフ首相が2017年に北京を訪れたのも同委員会の第3次会合に出席するためだった。SIGNALのレポートによると、この2017年の会合では両国間で創薬や知的財産関連で10件の合意が締結され、投資総額は250億ドル(約2兆8,000億円)に上ると推計されるという。

イスラエルのシンクタンクBESAは、習近平主席の右腕と目される王副主席のイスラエル訪問は、中国とイスラエル関係が新しい局面に入ったことを象徴するものと指摘。「メイド・イン・チャイナ2025」など中国の国家戦略において今後もイスラエルが重要な役割を果たしていくだろうと予想している。特に、イスラエルが得意とするロボット、航空宇宙、サイバーセキュリティー分野での協力が増えていく見込みだ。

中国とイスラエル、観光と教育でも良好な関係を構築

中国とイスラエルの関係が深化していることは、観光や教育分野でも顕著に現れている。

エルサレムポストが伝えたイスラエル観光省のデータによると、イスラエルを訪れた中国人観光客数は数年前まで2万人に満たなかったが、2017年に初めて11万人を超えたという。2016年の7万9,000人から40%以上の増加となった。2015年は4万7,000人。2年で2倍以上増加していることになる。

イスラエル人気観光スポットの1つ「死海」

中国人観光客の増加にともない、2018年1月にはイスラエルで初めて電子決済のアリペイが導入されたとも報じられている。

2017年9月には、海南航空が上海とテルアビブを結ぶ定期直行便を就航。上海とイスラエルを結ぶ直行便はこれが初になるという。火、木、日曜日の週3往復で運行されている。また同航空は2018年8月に広州とテルアビブ間の定期直行便を就航。広州とテルアビブ間は火、木、土曜日の週3運行となる。

一方教育分野では、イスラエルの大学に進学/留学する中国人学生が急増。ハイファ大学ではこの5年で中国人学生の数が20人から200人に増加した。イスラエル工科大学では中国人フルタイム学生は100人を超え、エンジニアリング夏季プログラムには200人近い中国人学生が参加しているという。

イスラエルの大学による中国進出も加速している。

イスラエル工科大学は広東省の汕頭大学とともに李嘉誠(リカセイ)基金から1億3,000万ドルの支援金を受け、広東省にキャンパスを設立するという。広東省からも1億4,700万ドルの支援金が投じられた。

ハイファ大学は上海の華東師範大学キャンパス内に、環境学、バイオメディカル、神経生物学分野の共同研究所を設立する計画を明らかにしている。またテルアビブ大学は清華大学と共同でバイオテックや環境テクノロジー関連の研究所を設立する計画だ。

「一帯一路」のもとイスラエルと対立するイランを含んだアラブ諸国とも良好な関係を築きたい中国の外交、また過度な中国寄りの姿勢を危惧するイスラエル国内の声など、中国とイスラエルの関係深化を妨げる要因はいくつかあると指摘されている。しかし現在のところテクノロジー分野の投資・協力関係が冷え込む見込みはなさそうだ。

文:細谷元(Livit

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