Economist誌が選ぶ、知られざるアジアの有望MBAスクールとその魅力

このほどEconomist誌が毎年発表している世界MBAランキングの2018年版が発表された。

総合トップはシカゴ大学(University of Chicago)、2位はノースウェスタン大学(Northwestern University)、3位はハーバード大学(Harvard University)と米国のMBAがトップを独占。

しかし、アジア地域からも、日本のMBAはなかったものの総合39位に香港大学(University of Hong Kong)がアジアトップでランクイン、次いで68位のシンガポール・南洋理工大学(Nanyang Technological University)、69位中国・中山大学(Sun Yat-sen university)、73位シンガポール国立大学(National University of Singapore)、87位インド経営大学院アフマダーバード校(Indian Institutes of Management Ahmedabad)がランクインした。
 
アジア地域の世界経済における重要性が増すなかで、アジアMBA留学はコストパフォーマンスの良さも手伝って、近年、日本のビジネスパーソンから高い注目を集めている。

Economist誌のMBAランキングでアジア総合トップだった香港の最高学府である香港大学と、シンガポールの二大名門校であるシンガポール国立大学・南洋理工大学の3校は様々な世界の大学ランキングの常連であり、すでに日本での知名度も高い。


アジアの金融ハブ、香港(Pixabayより)

こうした著名なアジアのトップ校は、香港大学の手厚い中国語研修や、欧米の著名校との交換留学の機会、シンガポール国立大学の充実したアントレプレナーシップ教育、南洋理工大学の早稲田大学とのダブルMBAプログラムなど、それぞれが少人数制の質の高い教育を提供しながらも個性を打ち出している。

特に、国策として優秀な海外人材の受け入れを積極的に進めているシンガポールMBAは、留学生への支援も手厚さにも定評があり、修了後のビザ取得の面でも欧米と比較してメリットが多いと言われる。


東南アジアのビジネスハブ、シンガポール(Pixabayより)

一方で、まだ日本ではそれほど認知度が高くないものの、近年躍進を遂げ、世界からの注目を集めつつあるのが中国の中山大学と、インドのアフマダーバード大学だ。

教授陣の質や卒業生の就職・昇進率、給与増加率、人脈などが総合評価されるこのランキングにおいて、このアジアで有望視されているMBA二校は、どのような点が高い評価を受けていたのだろうか。

「トリプル・アクレディテイション獲得校」の中国・中山大学


中山大学キャンパス(公式Facebookページより)

中山大学の名に馴染みがない人も、「孫文」の名は聞いたことがあるのではないだろうか。

中国では孫中山(Sun Yat-sen)と呼ばれることが多い中国の革命を導いた政治家の名を冠して、1924年に中国広東省に創設されたのが中山大学だ。医学、工学からリベラルアーツまで多様な学部を有する総合大学であり、中国南部を代表する名門校である。

中山大学ビジネススクールは1985年に設立されて以来、中国のトップビジネススクールと評されており、中国教育部所属の重点大学として認定を受けて、国立大学として予算の優先配分を受けているだけでなく、国家レベルのプロジェクトにも多く関わっている。

中国国内での地位に加えて国際的な評価も高いことはこのEconomist誌のランキングからも伺えるが、さらに中山大学MBAの国際的な評価の高さを証明しているのは同校が「トリプル・アクレディテイション(triple accreditation)」獲得校であることだ。

トリプル・アクレディテイションとは、世界に10,000校以上あるビジネススクールのうち、アメリカのAACSB、イギリスのAMBA 、EUのEQUISの三つの評価団体全ての認証を保有する88のビジネススクール(2018年時点)を指し、獲得校のうちアジアのMBAは6.1%にしかすぎない。

このことからも中山大学MBAがアジアを代表するビジネススクールであることがわかる。

また、Economist誌のランキングにおいては、教授陣の質への高い評価が中山大学のランクインに貢献していた。

今年6月には学部長であるWang Fan教授がEQUIS認定委員会メンバー7名の1人に選出され、今後はアジア唯一の代表者として、世界中のビジネススクールからのEQUIS認可申請の審査を担当することとなっている。

このようなアジアを代表し、国際的に活躍している教授陣の指導を受けられることも魅力のひとつだといえる。

中山大学は現在、米国、カナダ、ヨーロッパの多くの国、そしてシンガポール、香港などアジアのビジネスハブの有名大学との学術交流、パートナーシップや留学生の受け入れを拡大し、今後のアジア経済を牽引すると言われる中国を代表するビジネススクールとして躍進を続けている。

合格倍率は数百倍、トップ人材が集まるインド経営大学院アーメダバード校


中山大学キャンパスインド経営大学院アーメダーバード校キャンパス(公式Facebookページより)

インドの名門国立大学として知られるインド工科大学の出身者であるGoogleのCEOサンダー・ピチャイ氏のように、国際的に活躍するインド出身のビジネスパーソンが増えるにつれ、インドの高等教育機関の世界的な注目度も高まっている。

熾烈な受験戦争で知られるインドだが、前述のインド工科大学と同様に、今回ランクインしたインド経営大学院もインドの最難関校として知られている。

インド各地に設けられているインド経営大学院の13の分校のうち、西インドのグジャラート州の州都、アーメダバードに位置するアーメダバード校はその中でもトップであり、入学試験の倍率は数百倍にも達するという。


インドのトップ人材が集まるキャンパス(公式Facebookページより)

インド政府とインド産業界、そしてハーバードビジネススクールが中心となって設立したこのビジネススクールは、実際のビジネスの現場で即戦力となる人材を育てることで名高く、Economist誌のランキングでも修了後のジョブオファー獲得率、また給与の上昇率などで高い評価を受けていた。

学生同士が密につながる機会が多く設けられていることも修了後のキャリアアップの助けとなっており、卒業生専用のウェブサイトでは定期的に開催されるイベントの告知などを行って、世界各地で活躍する卒業生のネットワーキングをサポートしている。

また、企業経営やマネジメントの具体的な事例を取り上げ、その疑似体験を行うことで、学習者同士が主体的に学び、分析力や意思決定力を身につける「ケースメソッド」。

そのインドにおける先駆者でもあるこのスクールで、実践的な問題解決能力を身につけることを目指し、インドのトップクラスの学生たちと肩を並べてディスカッションすることで得られるものは多いだろう。

アジア地域へのMBA留学の魅力

日本国内のMBAと比較して、世界中から集まる多様なバックグラウンドを持つ同期と切磋琢磨しあうことができる、国際的なネットワークを築ける、語学力がアップできるなどの魅力がある海外のMBAだが、これまで日本ではMBA留学といえばアメリカというイメージが強かった。

しかし、アジア進出をする企業の増加を背景に、アジアのビジネスシーンやカルチャーを深く学ぶことができる上に、国際的な評価も欧米MBAと並ぶレベルに達したといえるアジア各国のMBAは、日本のビジネスパーソンにとっても魅力的なキャリアパスとなってきている。

学費の安さや、日本人にとっての現地への馴染みやすさといった点だけでなく、ビジネスのグローバル化が加速し、英語力を備えた人材があたりまえとなる中で、中国語に堪能、東南アジアのビジネスシーンに明るいなど、なにかプラスの強みを獲得できるアジアのMBA。

今後もアジア各国からどんな有望なビジネススクールが出てくるかが楽しみだ。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit

モバイルバージョンを終了