中国が中東の農業を変える〜海水でも育つコメの収穫プロジェクトが本格始動

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・中国が中東の農業変える〜海水でも育つコメの収穫プロジェクトが本格始動
・UAE国土の10分の1を水田に、中国発・海水でも育つコメ収穫ドバイで本格始動

砂漠のイメージが強い中東諸国。実際、マレーシア科学大学の研究によると、中東の砂漠地帯は世界全体の3分の1を占めるという。

世界中で気候変動や都市化、地下水の過剰利用などさまざまな要因によって砂漠化が進んでいるといわれているが、中東諸国も例外ではないようだ。

こうしたなかアラブ首長国連邦(UAE)では、食料の輸入依存状態(食料の85%を輸入)を改善しようと国内の農業を促進する取り組みが加速している。

UAEを含め中東諸国では砂漠だけでなく水不足や塩分を含んだ土壌など農業を難しくする要因が多く、同地域における農業の発展の足かせとなってきた。しかし、UAEでは少ない水で効率的に農作物を栽培できる水耕栽培や植物工場などへの投資が行われており、今後の食料供給増への期待が大きくなっている。

こうしたなか、中国で開発された塩分・アルカリ耐性を持つ新種の稲をUAEでも栽培しようというプロジェクトが本格始動しようとしており、こちらにも多大な期待が寄せられている。この稲は希釈した海水でコメを栽培することが可能で、水不足が深刻な中東諸国の農業を大きく変える可能性を秘めている。

中国とドバイの水田プロジェクト、中東全域に広がる期待

2018年7月新華社通信は、中国で開発された塩分・アルカリ耐性を持つ稲がUAEドバイでの収穫実験に成功したと伝えた。

この稲は中国の「ハイブリッド米の父」と呼ばれるユアン・ロンピン氏が開発した新種の稲。塩分・アルカリ濃度の高い土地でも育つように改良された品種だ。中国は広大な国土を有しているが、その多くが塩分を含むアルカリ性の土壌で農業に適していない。このような農業に適さない土地でも収穫できるように開発されたのがこの品種となる。通常コメの栽培には豊富な真水が必要になるが、この品種は希釈した海水で育てることが可能だ。

ドバイでの実験では1ヘクタールあたり7.8トンのコメが収穫されたという。この品種の開発に携わった中国青島のハイブリッド米研究開発センターによると、コメ収穫量の世界平均4.5トン。これを大きく上回る結果となった。

ドバイでの収穫実験は、同ハイブリッド米研究開発センターとドバイの首長家マクトゥーム家のプライベートオフィスが共同で実施。今回の成功を受け、2018年中に試験区域を100ヘクタールに拡大する計画だ。将来的にUAE全土(8万3,600平方キロメートル)の10%を水田にする計画もある。さらには両者はこの品種を中東各国に普及させることでも合意したと報じられている。

UAEでは海水によるコメ栽培のほか、「食料安全保障戦略」のもと食料生産を拡大するためのさまざまな取り組みが実施されている。

農地が少ないUAEでは当局による水耕栽培支援が盛んだ。ガルフ・ニュースによると、UAE国内の水耕栽培を行うビニールハウスは2009年の50棟から2016年には1,000棟に拡大。水耕栽培は水の節約にもつながることからUAEを含め中東諸国では注目されている農法という。たとえば、レタス1キログラムを生産する場合、通常400リットルの水が必要になるが、水耕栽培では20リットルに抑えることが可能だ。

UAE政府は、農作物の種の提供、実験・研究開発サービスなどを農家に提供することで、水耕栽培導入を促進している。

水耕栽培のビニールハウス

荒れ地で農業を可能にする塩分・アルカリ耐性米、2億人分の食糧も

中国での塩分・アルカリ耐性を持つコメの研究は1970年代半ばから始まったといわれている。当時人口増に直面した中国政府が、塩分を含むアルカリ性の土地でも収穫できる品種の研究を奨励した。広東の研究者が中国南部の海に面した遂渓県で、野生の稲を発見。その後数十年にわたり改良が行われ、さまざまな品種が登場した。しかし、収穫量が1ヘクタールあたり2トンと、平均を大きく下回る状況で、商業化には至らなかった。

ユアン氏が中国国内の実験で1ヘクタールあたり4.5トンの収穫に成功したと報じられたのは2017年9月とつい最近のことだ。

現在、真水で希釈した海水を使っている。海水の塩分濃度は1リットルあたり30グラム
だが、1リットルあたり6グラムまで希釈するという。研究チームは今後も開発を進め数年以内には純海水で育つ稲を実現したい考えだ。

中国には塩分を含みアルカリ性質の農業に適していない荒れ地が約100万平方キロメートルあるといわれている。ユアン氏は新華社通信に、新しい品種はこのうち5分の1(20万平方キロ)で栽培可能と述べている。また、仮に10分の1(10万平方キロメートル)で栽培を行う場合、現在のコメ生産量の20%に相当する5,000万トンのコメを収穫し、約2億人分の食糧を供給することができると説明している。

塩分・アルカリ耐性を持つ品種は収穫量が多いということに加え、病気にかかりにくい特性を持っている。塩分が抗菌作用を持っているためだ。このため農薬や殺虫剤の使用を通常より少なく抑えることが可能だ。

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙によると、昨年中国で収穫されたこのコメは「Yuan Mi」というブランドでオンライン販売され、通常の8倍の価格にもかかわらず完売したという。販売価格は1キログラムあたり50元(約800円)。購入者は1,000人。塩分を含んだ水で育ったため、カルシウムが豊富で、食感は通常のコメとは少し異なるという。

「Yuan Mi」(販売サイトより)

中国では2017年9月に重慶交通大学の研究者が、植物の細胞壁に含まれる物質から作ったペーストを使い砂漠地帯の緑化を実現したというニュースが報じられた。砂にこのペーストを含ませると、水分、空気、栄養素の保持を可能とし、砂漠でも植物が育つ土壌環境を生み出すことができるようになる。海面上昇や砂漠化という地球規模の問題が深刻化するなかで、今回紹介した塩分・アルカリ耐性を持つコメや緑化ペーストなど中国発の環境テクノロジーはどのようなインパクトを生み出すのか、今後の展開が気になるところだ。

文:細谷元(Livit

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